第562話天銀の仲裁

 ・・・これはもう王手じゃなくてチェスでいうチェックメイトじゃないか・・・?

 完全に詰んでいる。

 ここから俺が何を選んでも絶対にあゆは逃してくれないだろう。

 ・・・だが、そんな理由で浮気なんてできるはずもない。


「あゆ」


「なんですかせんぱ─────」


`ドンッ``ガララッ``バンッ`


「えっ!?な、なんの音だ!?」


 少し開いているドアの先からものすごい轟音が聞こえてくる。


「・・・はぁ」


 あゆは珍しく素でため息をついているようだった。


「・・・先輩、今は逃れても絶対にすぐ答え出してもらいますからね」


 そう言うとあゆは部屋から出て行った。

 ・・・ちょっとあゆの畏怖度を見直す必要があるな・・・


「・・・あっ、そ、そうだ、天銀、こ、これ外してくれないか?」


「・・・え?あ、はい」


 天銀は俺が助けを求めると、俺の足についている拘束具を外し始めてくれた。

 よかった・・・天銀ならやっぱり信頼できるな。

 天銀は流石の手際なのか、すぐにその拘束具を解いてくれた。


「ありがとう」


「は、はい・・・そ、その」


「ん?」


「ズ、ズボンを履いてください・・・!」


「あ・・・わ、悪い!」


 俺はすぐにさっきあゆによって脱ぎ去られてしまったズボンを履いた。

 そして・・・


「天銀!急いでさっきの音がしたところに向かおう」


「はい、そうですね、音の方角はリビングのキッチン寄りです」


 よくそんなことまでわかるな・・・

 俺は天銀と一緒にリビングに行くとそこは────想像すらしていない展開になっていた。


「死ねっ!」


「お願いだから消えてっ!」


「・・・・・・」


 初音と結愛は現実で本当にこんな斬り合いがあるのかと疑いたくなるぐらいに斬り合っている。

 と言っても、体に外傷はほとんどなく、互いに互いの武器が重なり合う形になっている。

 ・・・まぁ、外傷はほとんどないってだけで顔に2人ともほんの少しだけ傷があって血が出ていて、口元から血が垂れている。


「っ!この虫っ!」


 しかも驚くべきは、初音がカッターで戦っていることだ。

 包丁とカッターなんて包丁の方が強そうなのに・・・


`カシャ`


「・・・え?」


 こんな状況を撮影するなんてどんな悪趣味なんだ・・・と思ったが、その撮影をしたのは天銀だった。


「お二人ともそこまでです、この写真を提出すればお二人は互いに暴行罪が成立し、最王子くんと離れ離れになる事になります」


 天銀がそう言うと、2人の動きがピタリと止まり2人ともが天銀の方をギロリと見た。


「脅しのつもり?」


「脅しではなく警告です」


「・・・脅しじゃなくて本当に通報するってことね」


「はい」


「・・・・・・」


 そういう天銀の顔は全くこの2人に対して恐怖などを抱いている感じではなく、さっきの俺の下半身に照れている天銀の面影は全くなかった。


「・・・そーちゃんと離れるのは嫌だから、仕方無─────」


「そーくん」


「・・・え?」


 いつの間にか初音の標的が俺に代わっているとでも言いたげな感じで初音が俺の目の前に来ている。


「な、なんだ・・・?」


「・・・なんで部屋から出てきてるの?」


 ・・・あ。

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