第365話久しぶりのラノベとからかい

「な、なんだこれは・・・!」


 俺が知らないこの約3ヶ月の間でこんなにも新しいラノベが増えている・・・確かラノベは一年で1000冊出されるとか出されないとか聞くけど、新作は一年でどのぐらい出るんだろう・・・


「と、とりあえずこれを読んでみよう」


 俺は周りをきょろきょろした後、スマホに目を落とした。初音の監視下じゃない人たちは日頃からこんなことをできるのか、本当に羨ましいな。

 その後俺はしばらくの間ラノベを熱中していた。そして今現在はヒロインが主人公に言い寄ってきているシーンだった。こういう普通の恋愛を俺もしてみたい。


『せ、先輩・・・!こ、今度よかったら・・・そ、その・・・』


 こういう初々しい感じなんて俺と初音の間には最初からなかったなぁ・・・


『一緒にデデデ、デート!じゃなくて!ご飯食べに行きませんか!』


 ご飯食べに行くだけでもこんなに照れるとは、こんなのが現実でも本当にあるんだろうか。主人公はそれに対して肯定の意を示した。


『あ、ありがとうございます・・・!そ、その・・・私・・・!』


 こ、これは、もしや・・・!?


「先輩のこと!大好きですから❤︎」


「・・・え?」


 今ラノベのセリフが勝手に脳内再生された・・・?いや、違う!今のは生声だ、しかもこの声は・・・俺は後ろを振り返った。


「あ、あゆ・・・!?」


 な、なんで、鍵は閉めてたはずなのに・・・あゆは俺の疑問など露知らず、俺のベッドの上に座った。


「白雪先輩が見てないところではこんなの読んでるんですね〜、私もそんな感じにした方がいいですかぁ〜?」


 そう言うとマユは一瞬で頬を赤らめて見せた。どうやってるんだそんなの・・・そして両手をおへその下ぐらいの位置でモジモジさせながら言った。


「せ、先輩・・・!そ、そのその・・・だだだ、大好きです・・・!」


「うっ・・・」


 不覚にも可愛いと思ってしまった。あゆは色々なところに才能があるみたいだ。


「もう〜、こんなので心揺らいでちゃダメですよ〜?こんなの女の7割はできますから、因みに1割はできなくて、もう2割はもっとすごい演技ができちゃいますよ?女は怖いですから、気をつけてくださいね♪」


 女子が怖いという点では俺は正直あゆとかその他大勢の女子よりは理解しているつもりだ。本当に女子の怖さと言う点だけは俺はテストで100点を取れる自信がある。こんなに怖い経験をしても、女子から言わせるとまだまだなら、俺はそんな怖い世界には立ち入りたくない。


「大体、この本のこの女の子、デートのデで詰まりすぎですよ、絶対同性に嫌われてるから主人公の男に擦り寄ってるんですよ」


 こんな純情そうな女の子に対してなんてことを言うんだ。あと男の・・・少なくとも俺の小さな夢を壊さないでほしい。


「っていうか・・・そうだ、なんで普通に俺の部屋に入ってきてるんだ!鍵はどうした!」


「そんなのはピッキングで開けちゃいました♪」


「ピ、ピッキング・・・?」


 変だな、霧響が俺の部屋に勝手に入ってこないためにって、6月序盤ぐらいの時に初音が俺の部屋の鍵穴の部分の警備をさらに強固にして、ピッキング防止加工とかもしてたはずなんだけど・・・

 あ、そういえば「もう霧響ちゃんもいないし、私が夜這いするためにピッキング防止加工はいらないよね❤︎」とか言って外してたか・・・思い出したくなかったな。


「わ、わかった、じゃあ出ていってくれ」


「・・・え?なんでですか?」


 いつものふざけた感じじゃなくて割と普通な感じで聞いてきた。・・・いや、え?何えそこでふざけるのやめるんだ。


「いや、ここ俺の部屋だし・・・」


「・・・はい、知ってますよ?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 そのまま一時間弱ぐらいの間、俺とあゆは沈黙のまま同じ空間を共にした。

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