第324話結愛の歪んだ思考

 その後初音はとりあえず水とタオルと替えの下着とリンゴを持ってくると言って急いで部屋を出た。

 リンゴは定番だとして・・・まあ水も良いとして・・・タオルは熱を出した人にいる物だし下着に関しては絶対に要らない。要るとしても彼女に持ってきてもらうような物では絶対にない。


「・・・そういえば結愛は?」


 別にお見舞いに来て欲しいとかそんな図々しいことじゃないけど、普通にちょっと気になる。


「ああ、桃雫さんなら「私もそーちゃんと同じように両足折る!そしたらそーちゃんとお揃い・・・❤︎」と言って外に出てました、冗談でしょうし大丈夫でしょうが、一応最王子君が目覚めたら連絡して欲しいと言われて────」


「だからそれも冗談じゃないって!すぐに連絡してくれ!」


 確かに普通は冗談で済むんだろうけどそういうのは初音とか結愛とかには当てはまらない、いや、当てはまるなら俺はこんなに苦労してない。


「あ、桃雫さ────切れました、おそらくすぐにこちらに向かってきてくれるでしょう」


 何も伝えれてなかっただろ・・・


「そーちゃん!」


 またもこの部屋の引き戸が勢いよく開き、結愛が隣に駆け寄ってきた。


「大丈夫?そーちゃん?痛くない?痛い?」


「あ、いや、だ、大丈夫・・・」


「ごめんね、そーちゃん、私のせいで・・・代わりになんでもしてあげるからね!」


 そう言って両腕で胸を挟んで胸を強調するポーズと取った。申し訳ないけどそれを使って何かをしてもらうようなことにはならない。


「だ、大丈夫だから・・・」


「本っ当にごめんね!私のせいで───私のせいで・・・?」


 そう言って結愛は口を詰まらせた。


「私のせいでそーちゃんが怪我した・・・?っていうことは私がそーちゃんに刻まれて今も尚それがそーちゃんを苦しめてる・・・でも考え方を変えれば私と一心同体になったっていう考え方も・・・」


 早口で何を言ってるのか知らないけどとにかくまともじゃないってことだけはわかる。


「────うんっ!切り替えないとね!」


 そうだ、俺としても正直気絶したせいか全くその瞬間の痛みを覚えてない。人間の体っていうのは本当によくできてるな。


「そうですね、人間は溺死するケースでもその溺死して本当に死んでしまうとなった時には脳が意識を手放してくれるそうですよ」


 だからそんな情報はどうでもいい・・・っていうか俺今口に出してないのになんでこんなに会話が噛み合ってるんだよ。


「そーちゃん!これからは私がなんでもしてあげるからねっ!」


 そう言って結愛は俺の顔に抱きついた。・・・いや、自分の胸に俺の顔を埋めた。


「窒息死するから離し────」


 俺が結愛に抗議しようとした瞬間・・・


「そーくんっ!お待たせー!水とタオルとリンゴと替えの下着持ってき────は?」


「・・・・・・」


 もはや何も言うことはない、俺は生を全うできただろうか・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る