第281話霧響の本心

 ここは兄として本当にすぱっと言わなくてはいけないかもしれない。そうだ、ここは兄として、俺にしかできないことだ。霧響の歪んだ考えを正せるのは俺だけなんだ。俺がやるしかない。


「霧響、そろそろ本当にこんなことはやめ───」


「お兄様、筋肉トレーニングはいかがですか?」


「うっ・・・」


 あんなものは筋トレじゃない、拷問だ。・・・俺も武道を習得していればこんな風にならなかったのか?もしそうなら身近に初音とか霧響レベルのやばい人が身近にいる人は是非武道を身につけてもらいたいな。


「で、でもお着替えさせるって具体的に何をすれば・・・?」


「お人形を着せ替えるのと同じですよ、脱がせて着せるんです」


 それは本当にやばい。超えてはいけない一線の一つだ。幼稚園児とかギリギリ小学生ならまだしも高校生と中学生でそんなことできるわけがない。


「お、俺はそんなことしない、っていうか冷静になれ霧響!」


「私は冷静です、なので白雪さんの邪魔が確実に入らないこのタイミングで仕掛けているんです」


 冷静でこの判断、どうにか霧響の判断を揺らがそう。力では対抗する力がなくとも、口ならまだ対抗できるかもしれない!


「冷静なら下着を脱がせてなんて言わない」


「いいえ、兄弟ならこのぐらい普通です」


「・・・え?」


 い、今霧響はなんて言ったんだ?きょ、兄弟?


「・・・・・・」


 確信したぞ、やっぱり霧響は冷静じゃない!


「妹扱いしないって言ったのに兄弟なら普通っていうのはおかしい!」


「っ・・・!?」


「だから霧響、もっと冷静に────」


「あー、もう!うるさいです!いいから早くお着替えさせてくださいー!」


「・・・は?」


 なんだ?さっきまでの空気感と明らかに違う。


「なんでここまでしたのに言う事聞いてくれないんですか!」


「え、まさか・・・」


「はい!ただのわがままですよ!!」


「わ、わがまま!?」


「ちょっと最近お兄様が私の相手をしてくれなくなっていたので構って欲しくて・・・」


 それこそ冗談だろ?あれがわがまま?冗談じゃない。俺はわがままで殺されそうになったのか?


「今なら白雪さんもいないですし、やりたい放題だなあと思って・・・あ、でもお兄様にちょっと力関係というものを思い出してもらおうとも思ってました」


「ちょっと・・・?」


 あれでちょっとなのか。頼むからそのちょっとをちゃんとにするのはやめてくれ。そんなことされたら俺は冗談抜きで死んでしまう。


「あっ!でもお着替えさせてほしいというのは小さい頃からの夢だったので是非お願いしま───」


「そんなことしない!」


`バタン`


 俺はしばらくの間自分の部屋に籠ることにした。

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