第265話私で背中を洗う

「ちょっとそこのボディーソープ貸して?」


「あ、ああ・・・」


 俺は初音が置いていたらしいボディーソープを手に取り、それを初音に渡した。ようやく普通に背中を洗ってくれる気になったらしい。


「うん、ありがと」


 初音がそういうと後ろからバサッというアニメとかでよく使われている効果音に近い音が聞こえてきた。・・・バサッ?


「ふんふふ〜ん♪」


 初音が鼻歌を歌い出した。っていうか後ろでなんかねちゃねちゃ聞こえるけどもしかして初音も体洗ってるのか?別にいいけどそれなら俺は先に体を洗いたかったな・・・


「・・・んっ」


 なんでそんな変な声を出す。本当に体を洗ってるだけだよな?


「んっ、んっ・・・」


 落ち着け、初音のことだ。どうせこれで俺が気になって振り向いたらからかって来るっていう作戦だ。おそらく変な声を出してるのはそうやっていつもみたいに俺をからかうためだ。だから俺は絶対に見ない!


「んっ・・・よしっ!」


 初音は何か準備ができたというような声で言った。やっと俺の背中を流してくれるらしい。さっきの音はタオルにソープを練るのに時間がかかってたのか?


「じゃあ背中洗うねー」


「う、うん」


 とうとう背中にボディーソープの感触が来た。なんかいい感じに冷たくて気持ちいな、サンオイルを塗られてる気分だ。・・・サンオイルなんて塗られたことないけど。


「んっ!んんっ!」


 う、うるさいな。よく背中の感覚に集中してみるとなんか全然タオルじゃない気がする。じゃあこれは何で洗われてるんだ・・・?手ほど小さくないし当然足でもない。いや、足なわけないな、何考えてるんだ俺は。じゃあこれは一体・・・?


「初音、今これ何で洗ってるんだ?なんか感触的にはタオルじゃない気がするんだけど・・・」


 なんかマッサージ機みたいな感じで二つの丸が上下してるけど、本当に何かわからない。さすがの初音でも温泉の中にマッサージ機なんて持ってくるわけないしな。


「んん・・・?うっん、私で洗ってるよ?」


「私でっていうか、私がだろ?それはわかってるんだけど、何で洗ってるんだ?」


「だから、私で洗ってるんだって」


 全然伝わってない気がするな。だからその洗ってる道具はなんなんだってことなんだけど───道具・・・?私で洗ってる・・・えっ、まさか!俺は自分の考えが正しいかどうかを確かめるために咄嗟に振り返った。俺の考えがあっているなら本当は振り返ったらダメなんだけど、それでも反射的に振り返ってしまった。


「は、は、は、は、は、初音!」


 俺は完全に見てしまった。

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