第7話そーくんの悪いところ

「まず一つ目は、そうやってお金を無駄に謙虚に使うところ!」




「ええ、無駄にって・・・世間的には俺ぐらいが普通だと思うんだけど」




「世間的には?私とそーくんの同棲に世間が関係あるの?」




「・・・ありません」




「じゃあ、私が良いって言ってるんだからお金を謙虚に使わないこと、ちゃんと少なくなったら報告するから遠慮とかしないでね?」




 ・・・あっさりと論破されてしまったけど、男の俺が女の子のお金を遠慮なく使うなんてーーーー




「あ、男の俺が・・・とか考えてるならそういうのはやめてね?ちょっと申し訳ないけど、お金なら私の方がもってるんだから、おとなしく私に養われてればいいの♥」




「うーん・・・」




 納得はできないけど、これ以上反論したら色々とややこしくなりそうなので、とりあえず小さく頷いた。




「で、二つ目は浮気癖、こっちはもう死活問題だよね・・・」




「い、いや、浮気癖って・・・俺、一回も浮気なんか・・・」




「へえ、じゃあ一年前腕組んでたのは?」




「あれは妹だって」




「じゃあ、腕を組んでたことは違う女と肩を寄り合わせてたのは?」




「あ、あれは店員さんにおすすめのラノベがありますか、って聞いてただで・・・」




「わざわざ女店員に?」




「うっ・・・」




 たまたまあの日は女の店員さんしかいなかったから仕方なかった、なんて言っても見苦しい言い訳に聞こえるだけだと思ったので、特に何も言わないようにした。のに、さらに追い打ちをかけてくる。




「なんで男の店員がいる本屋さんに行かなかったの?ねえ、なんで?」




「・・・・・・」




 っていうかなんで俺が一人で本屋さんに行っていた時のことを知ってるんだ・・・って言いたいけど、これまた何も言えない。結局初音が怒ったら俺は何もできず、何を言っても火に油になってしまう・・・




「ねえ、なんで黙ってるの?ねえ?何かやましいことがあるの?」




「いや、ないない!本当に何もないから!!」




「なんでそんなに必死に弁解してるの?本当は何かあるんじゃないの?」




 じゃあ、これは何が正解だったんだ?俺には選択肢は黙ると返答しかわからなかったんだけど・・・




「いや、あの・・・・・・」




「ねえ、今なら許してあげるから、ねえ、なんで?」




「・・・いや、あの、本当に俺はなにも・・・」




 もう付き合っていないはずなのに、初音の雰囲気に吸い込まれてしまう。




「はあ、まあいいや、過去の失敗は私達の未来でいくらでも上書きしてあげるから♥」




「は、はは」




 そうして俺たちの新居生活が始まった。一応リビング以外の私室は二つあり、そのそれぞれを俺たちの個人部屋とした。そしてあとはもちろん別々のお風呂とトイレ、そしてものすごく広いベランダ、というかテラスという表現の方がしっくりくるところがある。


 そして引っ越し業者の人が段ボールにして俺の荷物を運んできてくれた。どうやら初音はもうこの家で俺と住むことを見据えていたらしく、自分の部屋だけはもう準備ができているらしい。リビングは俺と二人で家具選びをしたいという理由で何もなかったらしい。




「ふう、やっと部屋まで段ボールを運び終えた・・・」




 玄関に大量に積まれていた俺の荷物を俺の部屋まで運んできた。まあ、大量って言っても六箱ぐらいなんだけど・・・




「そーくん、手伝ってあげようか?」




「あ、いや、大丈夫だよ」




「何?私に見られたら困るものとかあるの?まさか、この三ヶ月で女でも作ったの?」




「え、ええ?そ、そんなことないよ?」




「・・・そう、じゃあ手伝っても問題ないよね?」




「も、もちろん、ありがとう」




 そして、初音を交えて俺の部屋を作っていくことにした。この三ヶ月で女でも作ったの?という質問に関しては正直言及されなくてよかったと思う。


 別に本当に女の子と付き合ってるわけじゃないけど、なんというか、一方的な・・・ああいうのをストーカー?っていうのかな、とにかく一方的に追いかけられていた。だからあいつにつながるようなものは俺の私物にはないはず・・・




「え?何これ?」




 そう言いながら、初音は一つのラノベを取り出した。『巨乳の彼女が可愛いすぎる!』というラノベだ。




「ラノベだけど?」




「・・・タイトル、巨乳ってなってるけど、やっぱり贅肉が好きなの?」




「あっ!い、いやあ、そ、それは、そのー・・・」




「やっぱり私が巨乳になるしかないかー」




「え?」




 なんか初音がバストアップを志している。まあ、俺が怒られる展開にならなくてよかっーーーー




「私以外の女の胸削ぐしかないかー」




「ちょっと待ったー!!」




 巨乳になるってそういうこと!?相対的にってこと!?なんて危険な考え方なんだ・・・




「え?何?そんなに大きい胸の方が良いの?この本の表紙の女みたいな胸が良いの?」




「いや、そんなことはないけど・・・」




「じゃあなんでこんな本買ってるの?」




「いや、それは・・・」




 やばい、これだいぶ恥ずかしいかもしれない。まだ片づけを始めて10分も経ってないのにこの調子じゃ夕暮れまで俺の精神が持たないかもしれない。




「はあ、とりあえずこういう贅肉が多い女が表紙の本は全部捨てるから」




「ええ!ちょっ、そんなあ・・・」




「何か言った?」




 さ、さすがにそれは横暴だ。今時のラノベとか漫画はほとんどが巨乳の女の子が表紙だ。だからそんな条件だったら俺の本たちはすべて消えてしまう!それだけは・・・




「そ、それは、ちょっと横暴というか・・・」




「私とこの薄っぺらい紙の女どっちがいいの?」




「そ、それは・・・」




 紙の女、とは言えないよなあ。




「は、初音の方が大事です・・・」




「じゃあ、これを捨てても問題ないよね?」




「・・・はい」




 そして、今日の朝までぎゅうぎゅうだった本棚もすかすかになっていた。ああ、俺の愛読していた本たちが・・・




「はあ、贅肉の女多かったね、まあショートボブの髪型の奴だけは残しておいてあげる」




「・・・あ、ありがたき幸せ・・・」




 初音がショートボブだからそれだけは残しておいてくれているんだろう。それでも本棚の一れつしか埋まらない・・・


 二次元に嫉妬して本までも捨てられるなんて・・・

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