本日も取り留めもなく
鷓鷺
第1話「プロになりてぇ」
「プロになりてぇな」
隣の席のクラスメイトその1がこれみよがしに大きい独り言を口にする。
「クラスメイトその1とか呼ばれたくねぇし、そもそも独り言じゃなくてお前に話しかけてし」
「なんで心の声が読み取れるんだ」
「メタに生きてるからな」
「プロになるよりよっぽどすごいんじゃないか、そのよくわからない能力は」
クラスメイトその1こと、鈴木赤は入学以来の約1年間、なんだかんだで仲良くしてくれている内の1人だ。
そしてこのお話はこの人物がメインで登場することになる。なぜならば、すっげぇ面白いやつだから。
「それにしてもプロになりてぇな」
今度はきちんと私に向かって話かけてきている。ただその内容に変わりはない。
「なんのプロになるつもりだよ」
仕方がないので質問をぶつけてみることにする。
「なんでも良いんだよ。ただ、プロと呼ばれる人物になろうとすることが大人への第一歩ってところだろ。 進路調査なんかでも毎回プロって書くことにしているんだよ。どうせいつかは何かのプロにならないといけないわけだからな」
「MONSTER BOXの挑戦者くらい話が飛ぶな。百歩譲って“働くっていうことイコール何かのプロになる“という部分は認めないでもないけれど、それは進路調査で問われていることではないだろう。進学先を聞かれているんだよ」
うちの高校では毎学期、希望する進路を学校側から聞かれる。それと同時にその目標に向かって進めているかどうかを突き付けられる。この習慣がどうやら例年多くの生徒に刺さるようで進学率はそれなりのものになっているし、何なら進学先のランクだって高水準をキープしている。うちの高校が全国区ではないにせよ、県内で名が通っている所以のひとつだ。
「解説ありがとう」
「だからどうして心の声が読めるんだよ。恥ずかしいじゃないか」
「なんならさっきの私の解説だって丸聞こえだったよ。私はすっげぇ面白いやつなんだっけ」
「お前はすっげぇ面白い。だからこそ好きだ」
「おいおい、人前で好きとかいうんじゃないよ。まるで私まで同性愛者みたいに思われるじゃないか」
「性差別反対。ってか私は同性愛者設定だったのか」
「違ったのか」
「違ったよ。結構大事なことだからもう一回言うけど違ったよ」
「大事と言えば今からでもプロになるだけの努力は欠かせないよな」
「話に急ブレーキをかけて唐突に方向転換するなよ。危ないじゃないか」
「そうまでして話を戻したかったんだ。多少なりの犠牲はつきものだ」
「小話ごときで犠牲者を出すな。それにしてもそこまでプロにこだわっていたのか」
「プロへの転身を決めているからこそ努力をするべきなんだけど、どんな努力をして良いのかわからないんだ」
「そもそも何のプロになるかも決めていないと努力のしようもないよな」
そもそも何をしようかまだ決めようともしていない私がどうのこうの言えるような立場にいるわけもなかった。
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