第3話

 今夜は相方のラッパーMC犀とふたりで生配信ライブを行うというDJナインフィンガーこと此枝花見このえ・はなみは、飄然と語った。私はたしかにインフルエンサーHOKTOこと北都西男ほくと・にしおから依頼され……というか正確には彼のパトロンである実業家のお抱え弁護士からの横滑りの依頼で此枝のもとを訪れていた。現在入院中の北都西男がこの事故は仕組まれたものだ、此枝花見が黒幕だと大騒ぎをしているのだという。

「指なんかのうてもインフルエンサーはできるじゃろ。僕は無関係じゃけ、そう伝えてつかぁさい」

 セッティングをすべて終え、スタジオ外の喫煙所で配信開始前最後の一服をしながら、此枝は薄いくちびるの端を引き上げて笑った。此枝の吐く紫煙がふわりと揺れ、喫煙所の燻んだ天井に消えていく。

「大方お地蔵さんに僕含めて10人分の指を狩らせたんでしょ。今の地位を確立するために。それぐらい僕にも分かります」

「……分かるんですか?」

「呪いが返ってくるってそういうことじゃろ。僕には関係ない話じゃけど……だいたい、僕今日弁護士さんから聞くまで北都のことなんか忘れてましたよ。小野さんのことはすぐ思い出したけどね」

 それじゃそろそろ本番なんで、と紙巻を灰皿に押し込み、此枝がパイプ椅子から腰を上げる。無造作に投げ出されている左手にはたしかに薬指がない。それをひらりと、いっそ誇らしげな表情で翳して見せ、此枝は両手に漆黒のグローブを嵌めた。

「良ければ弁護士さんも配信見たってくださいよ、無料じゃけ。うちの犀くんはカッコいいすよ〜」

 踊るような足取りで喫煙所を出て行く長身痩躯の此枝の背中を見送り、私はようやく自分の煙草に火を点けた。此枝花見は自分の身に何が起きたのかを正確に把握している。だがそれだけだ。彼は何もしていない。私が北都西男のパトロンに報告できるのは、それだけだ。あとはインフルエンサーHOKTOと指狩り地蔵ふたりの間の問題なので、私は一切関わらない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

指狩り地蔵 大塚 @bnnnnnz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ