第235話 新たな発見
各クラス文化祭の準備を進めている中、やはり春近は敵情視察と称して他のクラスの様子を見て回っていた。
若干、可愛いメイドさんを期待しているのもあるが。
B組の教室を窓から覗くと、何やら演劇の練習風景が見えた。
「そういえば、B組は演劇って言ってたような……まあ、それで杏子がやりたかった新選組ができなかっただよな」
春近が独り言を呟く。
ただ、例えB組が演劇やっていなくても、新選組になるかどうかは分からないのだが。
「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」
教室の中では、何故か渚がジュリエットをやっていた。
「えええっ! な、渚様がジュリエットだとっ!」
まさかの展開に、春近は目を疑った。
「名前が何だというのかしら。
完全にジュリエットになりきっている。
渚ジュリエットが舞台映えして――
そしてロミオは天音だった――
「あの窓を貫き射し込む光は何だ! あれは東! そう、ジュリエットこそ太陽!」
普段の天音と違い、凛々しくも美しいロミオを演じている。
そう、天音は普段から色々演じているから、演じるのが得意なのだ。
「ちょ、ちょっと、天音さん! 凄い迫力でロミオに成りきってるんだけど!」
春近のツッコみが追い付かない。
「愛しい人よ、あの東の方から、数多の雲を繋ぎ合わせるのは嫉妬深い光の束! 夜空に瞬く灯火は、今や浮かれた朝日に変わろうと、霧に包まれた山から顔を覗かせている」
もう、教室内の空気を一変させてしまうほどの演技力で、まるでこの場所を劇場であるかのような錯覚までさせてしまう。
クラスメイトはただ茫然と二人を見つめ、暫しの静寂の後に大歓声となった。
「「「うおおおおおおっ!」」」
「渚女王様! 美しいですわー!」
「天音お姉さま! 素敵ですーぅ!」
女王親衛隊の女子たちが歓声を上げる。
「くっ、あの子、またいい気になって……でも、ロミオの演技は良かったけど……」
「そうね、天音は気に入らないけど……演技は良かったわね」
ちょっとだけ腹黒い天音を嫌っている女子たちも、圧倒的な演技を前にして褒めずにはいられない。
「えっ、えっ、えええっ! 凄っ! 何だこれ……オレは何を見せられ、いや魅せられたんだ!」
窓からチョロッと見ただけの春近まで圧倒されてしまった。
超絶美しい渚と圧倒的な演技力で空気感まで変容させた天音のコンビにより、一気に舞台に惹き込まれ世界観に浸ってしまう。
もはや素人のレベルではなく、トップクラスの女優のようである。
「ああーっ、ハル君! 観ててくれたんだ。どうだった、私の演技?」
春近に気付いた天音が駆けて来た。
「す、凄かった……とにかく凄かった。天音さん、カッコよかったです」
「えへへ~っ♡ ありがとう、ハル君っ!」
「ちょっと、あたしの春近にベタベタするんじゃないわよ!」
二人がイチャイチャするのを見て、渚も駆け寄って来た。
「あっ、渚様も良かったですよ。改めて見ても美人ですよね」
「えっ、あっ、そうっ……もうっ、しょうがないわね」
春近に褒められて、渚は照れながらも良い気分になってしまう。
「ところで、何で二人が?」
「知らないわよ、推薦投票で勝手に決まっちゃったんだから」
「は、はあ……そうですか渚様……」
どうやら、出し物がロミジュリに決まり、配役を決める時点で多くの女子が立候補して全く決まらなくなってしまったようだ。急遽推薦投票に変更したところ、この二人に推薦が集中し配役が決まってしまったようである。
予想するに、ジュリエットは渚女王親衛隊や一部の隠れ女王派M系男子が、天音は男子のファンの投票により決まったようだ。
あと、ティボルト役に黒百合が、キャピュレット役にあいちゃんが配役されていた。
本番が楽しみだ。
春近が二人と話していると、親衛隊女子までやって来る。
「あれ、カレシさんじゃないですか」
「ふふっ、京都の夜は凄かったですね。可愛い悲鳴まで上げちゃって」
春近の顔を見るなり、修学旅行の夜を思い出したのか、ニヤニヤとエッチな笑みを浮かべる。
「あはっ、また恥ずかしいの見せて下さいよ」
「期待してます。今度は全部脱いじゃっても良いですから」
盛り上がる女子たちに春近は言い放つ。
「に、二度と御免だ!」
何でこの学園はエッチ女子が多いんだと春近は思った。
次に春近はC組の教室に向かうと、窓から中を覗いてみた。
何やらそこには、おどろおどろしい異様な光景が広がっている。
去年のお化け屋敷といい、このクラスはオカルト好きが多いのだろうか?
何処からともなく一二三が現れ、春近にピタッと体を寄せる。
一二三は、普段は無口で無表情で存在感が無いのだが、春近にだけは少しだけ積極的でよく喋るのだ。
「あれ? 一二三さん……」
「んっ……」
春近が、一二三の体をそっと両腕で包むと、一二三は少しだけ表情を変え満足したような顔になった。
「一二三さん。C組は何の出し物をやるの?」
「……地獄の最下層……阿鼻叫喚コキュートス……」
「いや、何それ! 恐いよ!」
「……この扉を潜る者……一切の希望を捨て全ての夢は潰え、無限の苦しみを受けるだろう……」
「ええっと…………」
この出し物、客が入るのだろうか……?
ちょっと心配になる。
「あっ、春近君!」
遥が出てきた。
「ちょっと、この地獄みたいな出し物……大丈夫なの?」
「あはは……大丈夫じゃないかも」
遥は笑いながら頭をかく。
「去年のお化け屋敷も客の入りが悪かったような……」
「まあ、うちのクラスは変わってる子が多いから」
「これは本格的にダメかもしれない……」
「だよね」
まあ、一部の地獄マニアにはウケそうだし、マニアさんには地獄の責め苦を味わってもらおう。
そして春近はA組に戻って来た。
執事喫茶の準備も着々と進み、執事服を着た男子がチラホラと居る。
「きゃあーっ! 藤原君ステキ!」
執事服を着てヘアスタイルまでキメた藤原が、女子の黄色い声援を受けている。
スラっとした長身でイケメン、陽キャでクラスのリーダー的存在。
春近は、藤原を羨ましいと思っているが、藤原の方もルリや咲達にモテモテの春近を羨ましいと思っているので、元は陽キャと陰キャの違いは有れど今ではお互い様だ。
「おい、藤原、この執事服なんだけど……」
「ビクッ! あ、な、何かな……茨木さん」
咲に声を掛けられた藤原が少し怯えている。
先日の、教室で春近を踏みつける咲を見てから、ちょっとだけビビっているみたいなのだ。
「あ、ハル! 何か最近さ、藤原のヤツがアタシを怖がってるみたいなんだけど」
咲が春近を見て近寄って来た。
「いいかい、咲ちゃんや……。男子を踏んだりしたら、一部のマニアは喜ぶけど、ノーマルな男子は怖がるんだよ……」
「うっわっ、やっぱそうかよ。マニアなハルと付き合ってるから、一般男子の気持ちとか分からなくなってたわ」
咲の中で春近はマニア男子だった。
しかし同時に、咲もマニア女子なのだが――――
「ハル、どうかな? 私の執事姿」
ルリが執事になって現れた。
「なっ! なっ! ななっ! ルリが執事……」
女性用スーツのような執事キャラになって登場したルリだが、それが予想以上に似合っている上にエロさも抜群なのだ。
はち切れんばかりに盛り上がった胸部がジャケットに入りきらず、巨乳を更に強調するかの如く際立たせている。
普段見慣れたスカートと違って、パンツスタイルの尻がムチムチにラインを強調して凄いエロスを醸し出しているのだ。
そして、ちょっと男前にキメたポーズもカッコよくて可愛くて、もう春近の頭の中は完全に虜にされていた。
「うっ、ううっ、さ、最高だぁぁぁ! 執事最高!!」
執事喫茶でテンション下がっていた春近とは思えない感想だ。
春近の中に新たなフェチが芽生えた瞬間だった。
「スカートが一番だと思っていたけど、パンツスタイルも良いもんだな。ムチムチのお尻を包む薄い生地……女性用パンツスーツはウエストに深いくびれが入り、ヒップの膨らみをムッチリと強調する、正に女性の美しさを最大限引き立たせる完璧な形状だ」
急に早口になった春近が小声で説明し出す。
「くうっ、男性用スーツには全く興味が無かったのに、女性用パンツスーツがこんなに良い物だったなんて。何故今まで気付かなかったんだ! これは、神が与えたもうた奇跡のコスチュームじゃあぁぁ!」
ちょっと壊れ気味になって、ルリの周りをグルグルしながら凝視している。
たまにお尻を至近距離なら眺めたりと危ない感じだ。
「ちょっと、ハル……見過ぎだよぉ♡」
「はっ、し、しまった……あまりの良さに我を忘れていた……」
「ハルのエッチ♡」
もちろん、咲や和沙にジト目で見られていた。
「あっ、そうそう、ハルにはこれな」
咲に衣装を渡される。
「へっ、何これ……」
「メイド服だよ。ハルがメイド好きって言ってたから」
「は?」
「だから、ハルがメイド姿になって、アタシらにサービスするんだよ」
「はああああああーっ!?」
何がどうしてそうなってしまったのか、女子が執事になる代わりに男子もメイドになるというイベントに仕様変更されたようだ。咲たち一部女子達ての希望により勝手に春近が選ばれてしまったのだ。
メイドが好きな春近も、まさか自分がメイドになるとは思ってもいなかった。
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