第226話 つながっている空
「今日もハルと一緒で嬉しいな~♡」
今日も今日とて春近の部屋に入り浸るルリ。
付き合ってから……いや、付き合う前からも頻繁に春近の部屋に来ているのだが、今では春近の部屋でゴロゴロするのが普通の光景になっていた。
「ほれほれ、ルリさんや、ドーナッツだよ。たーんとお食べ」
「うわぁーっ! ドーナッツ大好き。いったっだっきまーっもぐもぐ……」
春近が持ってきたドーナッツを、ルリがバクバクと食べ始める。
まるで餌付けしているみたいだが、たくさん食べる彼女が好きなので、ついつい食べさせてしまうのだ。
こんなに食べて太らないのか心配になるが、何故か体形に変化は無くウエストのくびれも健在で、周囲の男を魅了しまくるナイスバディなのだ。
ただ、『重い』というワードには過剰に反応するので、本人は体重を気にしているのかもしれない。
「あむっ、もぐもぐ――今日も元気でお菓子が美味い!」
「ルリってば、相変わらず良い食いっぷりだな」
凄い勢いでドーナッツを平らげるルリを眺めながら春近が感心している。
ルリは、春近の実家でのことを思い出してご機嫌になっていた。
ふふふーんっ!
ハルのご両親にも認めてもらったんだもんね!
もう無敵だよね。
実家からの帰り際――――
春近の父親から『酒吞さん、息子を頼む』と言われたのだ。
ルリは、この世の者とは思えない程の妖艶な容姿と、微かに漏れ出す呪力により初対面に人に恐怖感や違和感を与えてしまう。
そして、自分が鬼の血筋だと知られると、皆こぞって離れていってしまうのだ。
人生に於いて受け入れられることの少なかったルリには、あの言葉は自分という存在を認められ受け入れられたと感じたのだった。
むへへぇ~っ♡
これはもう結婚は決まったようなもんだよね。
何か色々あったけど、ハルは私のこと大好きだし、私はハルのこと大好きで、もう何も問題無いよね。
島に行ったら誰にも気兼ねなく毎日エッチを……
「ふふっ……ふふふっ……」
ルリがニヤニヤしながらドーナッツを頬張っているのを、春近は微笑ましい気持ちで見つめていた。
ルリが楽しそうで良かった――
帰省も無事済んだし、後は……
いや、ハーレムの件とか伝えてないんだけど……
まあ何とかなるかな……
ルリの顔を見ていると何とかなりそうな気がしてくるし。
しかし……
ルリがニヤニヤしている時は、大体エッチな事を考えているんだよな……
実家のお風呂ではヤバかったし……
あと少しで妹にバレてしまうところだった……
あの時のルリの舌が……
ルリ……なんてエッチなんだ……って、エッチなことを考えているのはオレだった!
し、しかし……
ルリが可愛過ぎて、一緒の部屋にいるだけでドキドキが止まらないぜ!
どうしても、あの揺れる胸に目が行ってしまう。
あんなに大きくて柔らかいのに、まるで重力に逆らうかのように張りがあり、正に完璧という言葉しか見当たらない。
横から見た時の、アンダーからトップへの盛り上がりの美しい曲線が……
あの柔らかそうなのを触ってみたい……
いや、オレは何を……
「ハル、ありがとね」
「えっ?」
春近がルリのおっぱいの美しさを真剣に考えていると、ルリが顔を向け話し掛けてきた。
その顔は、穏やかな笑顔を浮かべている。
「ハルと出会ってから楽しいことばかり」
「ルリ……」
春近はおっぱいのことを考えていたのを恥ずかしくなりながらも、ルリの言葉で胸が熱くなった。
「遊園地に行ったのも、キャンプに行ったのも、花火大会も、海への旅行も楽しかった。それに……殺生石を求めて日本中旅をしたり、九州の温泉でクリスマスパーティをやったのも、今となっては良い思い出……ハルがいたから、ハルと一緒だったから、こんなに楽しい毎日になったんだよ」
ギュッ!
春近は黙ったままルリを抱きしめる。
「あの時……ハルと出会えて良かった。声を掛けたのがハルで良かった。私と一緒にいてくれてありがとう。これからも……よろしくね」
「ルリっ! オレも、オレもルリと出会えて良かった。あの時、ルリと出会えたから何もなく退屈なオレの人生が動き出したんだ。オレもルリがいたから楽しい毎日になったんだ。これからもずっと一緒に楽しいことをしよう」
「ハル……」
回した両手をギュッとして、二人は熱い瞳で見つめ合う。
お互いに求め合うように――――
「嬉しいよ。ルリがそんな風に思っていてくれたなんて。オレはルリのおっぱいばかり見ていたのが恥ずかしい」
「ハルぅ~私のおっぱい見てたんだ……」
「うっ、そ、それは……」
「いいよ……」
「えっ?」
「さわって♡」
見つめ合ったまま、春近の手が上がって行き……
二つの大きな膨らみに触れそうになる……
コンコンコン!
「ハル、入るぞ!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
突然ノックの音がして、二人は凄いスピードで離れた。
「あれ、ルリもいたんだ」
咲がドアから顔を出す。
「ん? 何か変じゃね?」
春近もルリも赤い顔をして、不自然に離れて座っている。
明らかにイチャイチャしていたのを、ビックリして離れたようにしか見えなかった。
「なんだ咲ちゃんかぁ、急にビックリしちゃったよぉ」
「咲、脅かさないでよ。最近どうも皆にお仕置きされまくってるから、ちょっとビックリして」
「分かってるって。どうせエッチなコトでもしてたんだろ。それよりコレ見てよ。ジャジャーン!」
咲が浴衣姿で入って来る。
ピンク地に撫子柄の浴衣かよく似合っていて、春近の目が釘付けになった。
「か、可愛い……咲は、そのままでも可愛いけど、浴衣を着ると更に可愛いよな。何で浴衣って女の子の可愛さをアップさせる効果があるんだろ。魅力度アップ特殊装備なのかな?」
「へへぇ~♡ ハルってばぁ♡ しょうがねーなぁ♡ えへへぇ♡」
咲がニマニマしてふにゃふにゃになってしまう。
今夜は花火大会なのだが、ハルに浴衣姿を見せたくて、まだ早いのにやって来たのだった。
さっそく褒められて、嬉しさのあまりデレデレになっている。
「ずるいぃぃ、私も浴衣着る!」
「と、当然、ルリの浴衣姿も可愛いから……」
「私もハルに褒めてもらうぅ」
「そうだ、ちょっと早いけどオレらも準備しようか」
浴衣姿を褒めて欲しくて春近に詰め寄るルリだが、咲はテーブルの上のドーナッツの箱がカラになっているのが目に入った。
「もしかしてルリ……ドーナッツ一箱全部食べちゃったのか? お腹苦しくて帯結べなかったりして」
「おデブぽっこりじゃないもん!」
「は? 何だそれ?」
「ルリ……また覚えてたのか……」
春近は軽く説明をした。
「あははははっ、ダメっ、くるしっ、Tシャツからお腹ぽっこりって! 確かにそんな感じ」
「もおーっ! 私ってそんなイメージなの?」
春近が軽く説明すると、咲の笑いのツボに入ってしまったようだ。
実際にルリはお腹は引っ込んでいるのに、大食いなのでそんなイメージになってしまう。
「もうっ!」
――――――――
浴衣に着替えて集合し、皆で出店が並ぶ通りへと向かう。
ルリの赤い椿柄の浴衣も、渚の牡丹柄の浴衣も、皆それぞれ似合っていて、凄い魅力的で道行く男性も女性も皆視線が釘付けになってしまう。
「ねっ、ハル君! どうかな?」
ここぞとばかりに天音が春近前でクルッと浴衣の袖を振る。
天音さんの浴衣姿――
紫の大人っぽい浴衣が似合っている。
というか、本当に同い年なのか?
大人っぽくてセクシーで……凄い色気だ……
いつもと違って髪を纏めていて、なんともいえないエロさがたまらん。
「ちょっと、ハル君、何か言ってよ」
「あっ、あまりの美しさに見惚れてしまい……」
「ふふっ、それなら良いよぉ」
続いて黒百合が現れた。
「春近、どうだ! ふんす!」
「
浴衣なのにゴスロリっぽい。
一見するとコスプレっぽいけど、よく見ると浴衣になっている。
一二三が黙ったまま春近の横に並ぶ。
これはきっと、自分の浴衣姿も褒めて欲しいという静かなアピールなのだろう。
「一二三さんも可愛いですね。落ち着いた色合いに菊の花が映えているし」
「ふふっ、良かった……嬉しい」
遥もアピールを欠かさない。
「春近君、ちゃんと私のも褒めてよね」
「もちろん、遥も可愛いよ。柄も遥に似合ってるし」
「ま、まあ合格かな」
何の合格なのか分からないが、とりあえず春近は合格した。
そして、浴衣が滅茶苦茶似合うのが栞子だ。
「旦那様」
「もちろん栞子さんも……栞子さん浴衣凄い似合いますね」
去年は陰陽庁の仕事が入って来れなかった栞子さんだけど、やはり和風美人の栞子さんは和服が似合うな。
艶やかな黒髪も、気品ある物腰も、完璧に似合っている。
ううぅーん……喋らなければ完璧美人なのに……
「旦那様が望むのでしたら、帯をグルグルやって『あれぇぇぇーっ!』というプレイも」
「いや、それはいいから」
春近は丁重に断っておいた。
最後に和沙がやってきた。
「おい、私には言うことないのか?」
和沙ちゃんの浴衣――
普段はボーイッシュなのに、浴衣を着ると急に可愛く見えるんだよな。
浴衣って凄いな。
本音では可愛いと思っているのに、わざわざふざけてしまうのが二人の関係だったりする。
春近は、わざと適当に答える。
「うん、まあ良いんじゃない」
「おい! 何で私だけ手抜きなんだ!」
「ははっ」
「おい、ふざけてるのか!」
春近は和沙に追いかけられてしまう。
「まてぇええええ!」
「ごめんって」
ダダダダダダダダ――
「あいつら仲良いな」
暑いのに追いかけっこをしている二人を見て咲が呟いた。
「あ、暑い……」
「はぁ、はぁ……くっ、ハルちゃんめ。汗かいちゃったじゃないか」
二人が戻って来たが、走り回って汗をかいてしまっている。
「はぁはぁ……ハルちゃんがふざけるのが悪いんだぞ」
「ふざけるって言えば……そうだ! 和沙ちゃん、あまり商店街には近づかないようにしよう」
「そ、そういえばそうだったな……」
「げっ……」
春近たちの会話に、咲まで先日のイチャイチャエチエチ行為を思い出す。
「また何か破廉恥なことをしたですか、ハルチカ?」
アリスが口を挟む。
「ま、まあ、路上で……」
「ふふっ♡ 仕方のない人です」
そんな、いつも通りの雰囲気で花火大会が始まった。
ヒュ~~~~~~ドォォォン!
夜空いっぱいに大輪の花が咲く。
幻想的な光景を皆で見上げていると、ルリが春近の手を握った。
「ハル、また今年も一緒に見れたね」
「うん、またルリたちと来れたね」
「来年は見れるのかな……?」
ルリがそう呟く。
今年いっぱいで緑ヶ島に移住する計画になっている。
来年のことは分からないままだ――――
「きっと大丈夫だよ。島にいても何処にいても空はつながっているし……。それに、一緒なら何処の花火でも……きっと何だってできるよ」
「ふふっ、そうだね」
大輪の花を見上げながら二人は、何処の花火を見るのではなく、誰と見るのかが大切なのだと感じていた。
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