第163話 危機回避失敗
教室に張り詰めていた威圧感が解除され、クラスメイトたちは締め付けられるような圧迫から解放され、皆胸を撫でおろし生きている実感を味わっている。
危機は回避されたかに見えた――――
「もう、仕方がないわね♡ 春近ったら正直なんだからぁ♡ そんなにあたしのコトが大好きだったのね。もぉ、このこのぉ♡」
教室を恐怖のどん底に叩き落していた女王のあまりの変わり様に、誰もが目を疑うようにデレデレの渚を遠目に眺めている。
渚は、ドSだったり凄まじい威圧感を持っていたり激しい感情表現で誤解されやすいが、実は可愛いものが好きだったり怖がりだったりする乙女な性格なのだ。
「あの渚様、続きは後でしますから、今は一旦教室に戻った方が」
「もぉ、春近がそう言うのなら戻ってあげるわよ。後でちゃんとサービスしなさいよ」
「は、はい」
渚が上機嫌で自分のクラスに戻って行く。
威圧感を出していた先程とは打って変わって、まるでスキップでもしそうな足取りでニッコニコである。
「ふぅーっ、危機は回避されたぜ! これで一件落着だな」
「何も落着しておらーんっ!」
「うわーっ!」
勝手に一件落着させようとした春近に、和沙が怒涛のツッコミを入れた。
「まったくキミという男は! 目の前で熱々なラブシーンを見せつけられて黙っていられる訳がないだろ! 全く一件落着しておらんわー!」
「すみません、仰る通りです」
和沙の言う通りである。目の前で他の女とイチャイチャされて怒らない女などいるはずがない。
「し、しまった……余りにも凄い威圧感の渚様を鎮めようとして、余計に他の子の怒りを増幅させてしまったような……。作戦は失敗だったのか……」
春近が呟く。
そもそも、島津義弘の敵陣中央突破に例えたのが違うのだ。
春近は、全国の島津ファンと鹿児島県民にごめんなさいするべきなのだ。
「あの……ルリ」
「ハル、頑張って!」
春近がルリの方を見るが、心も体も深く繋がった余裕なのが、笑顔で応援してくれている。
「咲……」
「ハルの自業自得だな」
咲はジト目で静観しているだけだ。
「えっと、杏子?」
「御主人様、大人しい子だからといって放置していると、痛いしっぺ返しをくらうのでありますよ」
杏子といえば、顔は笑顔だが少しだけ不満そうに見える。もしかしたら他の子ばかり進展していて、色々と溜まっているのかもしれない。
「あれ、もしかして詰んだ……?」
春近が和沙と再び向かい合うが、その和沙はグイグイと前に出る。
「ハルちゃん……私とハルちゃんは永遠の愛を誓ったはずだぞ。契約不履行は死あるのみだと言ったはずだよな」
「和沙ちゃん、いきなり極端すぎるよ!」
春近絶体絶命だ。
でも、和沙ちゃんが怒るのも分かる。
好きな人が目の前で別の人とキスしたら、誰でもショックだし怒るのは当然だよな――――
追いつめられる春近に、縋る様な顔をした天音が近づいてきた。
「ハル君、私はハル君がヴァージンじゃなくなっても気持ちは変わらないからね。ホントにセフレでも良いから側にいたいから」
「天音さん、オレはセフレとかそんなことしませんから」
天音さん……何だか悪いDV男から離れられない女みたいになりそうで心配だな――
前から思ってたことだけど、天音さんは優しくて面倒見が良いお姉さんっぽいのに、男性関係だけ悪い男に騙されそうな感じで放っておけないんだよな。
悲しいことに美人薄命という言葉が一番ピッタリな感じがする。
昔から天音さんみたいな誰にでも優しそうな美人は、悪い男に狙われて食い物にされたり借金背負わされたりすると聞くし。(テレビやネットで見た)
そうだよな、天音さんだけじゃなく皆の事も真剣に考えないとダメだよな。
「放課後に、ちゃんと話すから」
何かを決意するかのように春近が言った。
――――――――
そして放課後。
いつもの空き教室に、全員が集合した。
渚は会うなりデレッデレで、春近にベッタリとくっつき完全にバカップル状態だ。
「もう、春近ぁ♡ 授業中は会えなくて寂しかったじゃない! ちゃんとあたしにサービスしないさいよね♡」
春近の膝に乗り首に腕を回す渚。完全に春近しか見ていない。
「な、渚様、今から真面目な話をするので、ちょっと待って下さい」
困る春近だが、そのイチャイチャぶりを見るあいは笑顔だ。
「渚っちは、今日ずっとそんな感じでクラスのみんなもビックリしてたんだよぉ」
あいの言う通り、B組では普段から威圧感のある渚が、終始ニヤニヤデレデレしていて逆に怖がられていたのだ。
余程、春近に『大好き』と言われたのが嬉しかったのだろう。
「じゃあ、本題に入りますね」
春近の言葉に全員が注目する。
「昨日、オレとルリがそういう関係になったのは事実です。ルリを助けに行った後、そういう雰囲気になって……」
「何となく、そうなると予想していた。私が先に帰る時も、二人共凄い昂ってる感じだった」
実際に現場で見ていた黒百合にはお見通しだったようだ。
「うん、すっごく良かったよ」
ルリは、あっけらかんとセッ……な行為が気持ち良かったと喋ってしまう。
「うううううっ~ん! 正直すっごく羨ましい……羨ましくて、どうにかなっちゃいそう……」
「私もだ! ハルちゃんは、私にはあまり手を出してこないのに、他の子のイチャイチャばかり見せつけおって」
天音と和沙が不満たらたらになってしまう。
「皆のことは好きだし大事にしたいと思ってる。いい加減な関係じゃダメだと思うから、一人一人真剣に向き合おうと思います。だから、性欲とか流されてやっちゃうんじゃなく、ちゃんとした関係性を築いてからにしたいから待っていて欲しい」
真剣な顔をした春近が一言一言を大切にするように話す。
「まあ、ちゃんと私の事を真面目に考えるのなら良いがな」
「和沙ちゃん」
和沙は『真剣な関係』という言葉で納得したようだ。
「ハル君が最初からカラダ目当てで近付いて来たら、私はハル君を好きになってなかったと思う。だから、私は真面目なハル君が好きだよ。でも……したくてしたくてたまらなくて爆発しちゃいそうだよぉおおおおっ!」
「天音さん……後半本音が漏れてる気がするけど……」
何とか皆に納得してもらえたのかな?
ただでさえハーレムなんて周囲から見たら印象悪いんだろうけど、やっぱり遊びなんかじゃなく本気で付き合いたいから。
皆、大事な人だから――――
春近は覚悟を決めた。全員と真剣な関係を築くと。
そこにアリスが何かゴソゴソと紙を取り出した。
「取り敢えず計画は作っておいたのですが、このスケジュール表が活躍するのはまだ先みたいです」
「ん? アリス、何の表なの?」
「もちろん、ハルチカとのエッチ計画表です。春近は週休二日で全員をローテーションして……」
「えっと……」
「ちゃんと週休二日にしているのです。褒めて欲しいのです」
「…………」
その表には、何曜日に誰がエッチするのか全員の名前が記載されていた。
「アリス……小っちゃい体と可愛い顔して、結構凄い事を考えてるね……」
「これは重要なことなのですよ。島で春近の取り合いでバトル勃発とか避けたいのです」
春近の考えを予測したかのようにアリスが答える。
少しだけ真面目で奥手な春近と超積極的な彼女たちの恋愛は、予断を許さない白熱の攻防が続いて行きそうだ。
ただ、春近の体が保つのか心配だが。
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