第134話 最後の砦
一緒に転校してきた五人の天狗の少女の内、遥以外の四名全員が春近とラブラブになってしまったのだ。
何だか自分だけ仲間外れな気もするし、かと言って自分まで流されて付き合ってしまうのも口惜しい気もする。
実際のところ、春近の事は凄く気になっているのだが、他の女とイチャイチャしているのを見ると、何だか知らないがイライラして素直になれないのだった。
「ううっ、アレが……あの映像が目に焼き付いて離れない……春近君って、ヘタレっぽいのに何であれだけ逞しいの……」
温泉で混浴した時に見てしまった春近のあれが気になって仕方がない遥だ。今日も今日とて春近のあれを想像してモヤモヤしていた。
「これじゃ本当に私が淫乱みたいじゃない……今まで人前でエッチなことばかりする皆を注意してきたのに……」
遥が自分で言う通りだ。今まで散々仲間のハレンチにツッコミを入れてきたのに、ここで自分までハレンチしたら説得力が皆無だ。
そんな遥のところに、何も知らない春近が近付いて行く。
「飯綱さん」
「うわあああっ! ヤダ! 春近君のエッチ! ヘンタイ!」
いきなり拒絶され春近がヘコんだ。
「そ、そんな……オレそんなに嫌われてたの……」
「あっ、ちがっ、違うから。春近君が悪いんじゃなくて……」
遥が春近の隣に並んで歩く。
「アソコは大丈夫なの? 私、けっこう強く叩いちゃったし」
「えっ? アソコって?」
「だから、ちん……って何言わせようとしてるのよ!」
危うく放送禁止用語を言いそうになり、遥が顔を赤くする。
「あっ、あれ? あれのことか……大丈夫だよ」
春近は何のことなのか分からなかったが、遥が顔を赤くしたことでやっと気づいたようだ。
因みに温泉でアソコをビンタされた時は痛かったのだが、一時的なものですぐに回復していた。
「なら良かった。だいたい黒百合が悪いよね。あんな悪戯ばかりして。でも、春近君も黒百合の言うことばかり聞いてるから」
「それには深い事情がありまして……」
黒百合にアソコぐりぐりの刑で屈服させられてから、何となく舎弟にされ逆らえないなんて言えない。
飯綱さん、あんな前の事をまだ気にしてたのか――
女子と混浴しちゃったり裸を見ちゃったりと、オレの方が悪いことしちゃった気がするのに。
飯綱さんは、色々気にしすぎだよな。
よし、あまり気にしすぎるのは疲れちゃいそうだし、ここはオレが気遣い無用とアピールしておこうかな?
よせば良いのに、春近は余計なことをしてしまう。
「飯綱さん、大丈夫だよ! 見られたり叩かれるなんて、男子にとってはご褒美みたいなもんだから!」
「えええええ………………」
し、しまった……冗談のつもりだったのに、飯綱さんドン引きしているぞ――
どうしよう……冗談だと言うか?
それとも、男子とはそういうものだと押し通すか?
「そうだよね……」
「は? 飯綱さん? どうしたの?」
「私、今まで自分の常識が正しくて、皆が非常識だと思っていたけど、常識は人それぞれ違うんだよね」
ドン引きされると身構えていた春近だが、どうやら遥は別の方向に振り切れてしまったようだ。
「えーと、飯綱さん?」
「そうだよ! 凄いヘンタイだと思えても、その人にはそれが普通なのかも! 黒百合の言っていた『常識に囚われていてはダメだ』って意味が解った気がする!」
「いや、それは……どうだろう?」
「春近君、お願いがあるの」
春近と遥は、人も少なくなった放課後の廊下を、恋人のように腕を組んで歩いている。
「最初から、こうすれば良かったんだよ。彼氏をつくるにも相性が大切だし。こうして、手を繋いだり密着して嫌じゃなかったり落ち着けたら相性が良いって聞いたことがある」
恋愛の心理学でいうところの相性だろう。
「そうなんだ。オレはどうなのかな?」
「春近君、けっこう良いかも。なんか凄く良い感じ」
遥が密着してスリスリとしてくる。
飯綱さん……いきなりそんなに密着されると――
春近の体の中に、急速にドキドキと体の一部に血流が集まるのを感じる。
「春近君、何で前屈みになってるの?」
「いや、何でもない、何でもないから気にしないで……」
マズい、バレないようにしないと――
今の春近は、夜中に栞子が乱入騒ぎを起こしたり、ルリを含めて三人で寝て抱きつかれたりと、何か色々と溜まっていて大変な状態だった。
「私も……守ってくれるのかな……(ぼそっ)」
遥が呟く。
彼女の頭の中は、出会ってからの春近との思いででいっぱいになっていた。
春近君って、何か頼りなく見えるのに、たまに強引になったり不思議な人だな……
長野では、あんなにカッコよかったのに、今はこんなだし。
もし付き合ったなのなら……私も、あんな風に守ってくれるのかな。
この天狗の力の発現で私の人生は狂ってしまい、一時は青春も恋愛も無理なのかと思ってしまった。
でも、また友達が出来て、こうして楽しく学園生活も送れている……
青春も恋愛も諦めたくないと思ってやってきたけど、やっぱり春近君が一番しっくりくる気がする。
温泉で強引に迫られた時、黒百合が入って来なかったら、私はどうなっちゃったんだろ?
あの時……私は、この人なら良いかなって一瞬思ってしまった……
遥の想像している温泉の映像が、急に黒百合にタオルを取られ、丸見えになった春近のあの場面になる。
いやいやいや、だから、何であればかり気になるの!
あぁあああっ!
春近君のあれが気になって頭から離れない!
もうダメだ! 確認しなければ!
遥が突然立ち止まる。
「春近君……ちょっと良いかな?」
「えっ?」
遥は春近の手を引っ張ってトイレに連れて行く。
「いや、待って! ここ男子トイレですよ!」
「大丈夫、もう放課後だし人も来ないよ」
「そういう問題では……」
「ちょっと、あれを見せて欲しいのだけど」
「はあああぁぁ? 飯綱さん、何言ってるんですか?」
アレの話はまだ続いていたようだ。
「これは重要なことなの。最終確認なの。恋人にはアッチの相性も大切って聞いたから」
「そんな事、誰に聞いたんですか?」
「天音が言ってたの。あの子、色々詳しいから」
天音さん……何教えてるんですか……
真面目な飯綱さんが、
「お願い、ちょっと見るだけだから」
「ダメですって! 今はヤバいって!」
春近は寝不足で元気が無いが、あっちは凄く元気になってしまっている。
そうこうしている内に、ベルトが外されズボンが降ろされてしまう。
もう、わんぱくなあれがコンニチワしてしまいそうだ。
春近と遥が、あれを巡って熾烈な攻防を繰り広げているその時、後ろからガヤガヤと数名の男子がトイレに入って来ようとしていた。
「マズい! 飯綱さん、こっちに!」
春近は、遥を押して一緒に個室に飛び込む。
「こんな所を見られたら、飯綱さんまで悪い噂が立ってしまう。何とか守らないと!」
男達がトイレに入って来る瞬間、ギリギリのタイミングで二人が個室に入った。
しかし、お約束のように春近の足が滑って遥の方に倒れこんでしまう。
壁ドォォォォォォーン!
倒れこんだ春近は、特殊な形で壁ドンをしてしまう。
「ん…………んん…………んんん……」
遥は、まさかの壁ドンに動揺を隠せない。
声を押し殺したまま、至近距離であれを見て固まっている。
やがてトイレで用を足した男達は、ガヤガヤと話しながらトイレを後にした。
「助かった……バレずに済んだ……飯綱さんを見られずに済んだんだ……って、オレが見られてたぁぁぁぁぁ!」
春近は、すぐにズボンを上げ身だしなみを整える。
「あの……飯綱さん……」
「うっ、うん、合格!」
少しの間だけ固まっていた遥だが、何がどうなったのか分からないが、笑顔で合格を出してくれる。
「そ、そうなんだ……」
何だか常人には理解できないかもしれないが、こうして遥の最後の砦は陥落し、春近は最終試験に合格したのだった。
春近は、遥が一番常識人だと思っていたのだが、やっぱり変わり者かもしれないと思い始めていた。
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