第131話 湾岸最速伝説?
先週までの寒さも和らぎ、日差しが温かく感じる一月中旬の日曜日。春近は久々に一人で出掛けようと、寮を出て学園内を歩いている。
ふと、春近が駐輪場の方に目をやると、見慣れぬ黄色のバイクがとめられているのに気付いた。
「ん? あんなバイクあったかな?」
気になって近くまで見に行く。
「こ、これは! 人気漫画『湾岸最速雷電のターボ』に出てくる、
春近のバイクの知識は、だいたい漫画が元である。
詳しくは知らないのだが、漫画に登場する伝説のバイクを見て『かっけー』となるお年頃だ。
「バイク好きなの?」
「うわっ!」
ジロジロと間近で見ている春近の後ろから声を掛けられ驚く。
春近が振り返ると、ピンクの髪を揺らした少女が立っていた。
「ふへ、少年のような目で見つめる春近が、ちょっと面白かった」
「
そこにはヘルメットとグローブを持った黒百合が立っていた。
「意外、春近がバイクに興味を示すなんて」
「だって、このバイクは
バイクのことは詳しくは分かっていないのだが、中二病っぽい名前でテンションマックスなのだ。
「いいな~ かっこええ~」
漫画の中から出てきたようなマシンを前に、春近のテンションもマックスだ。
前に軍艦バトルアニメの深蒼のスターダストごっこをしていたくらいだから、黒百合はメカ系が好きなのかと思っていたけど、まさかバイクまで持っているとは――
黒百合って見た目はゴスロリっぽいのに、意外とアウトドアっぽい趣味もあるんだな。
「後ろに乗せてあげようか?」
親指でリアシートを指した黒百合が言う。
「えっ、良いの? でも、二人乗りはマズいのでは? 免許取得後一年経過しないとダメなんだよ。最近は色々とうるさいから炎上するよ」
「その辺は大丈夫。私は神通力があるから」
何が大丈夫なのかは知らないが、予備のヘルメットを貸してもらい、二人乗りで出掛けることになった。
ギュルル、ブォオオン!
「しっかり掴まっていて」
「オーケー! 音速の彼方側へ!」
ブォォォォォオオオオオオオオオン!
春近が漫画のセリフを言いながらバイクは加速する。
「うおおおっ、凄い加速だ」
「
「けっこうお金掛かってるの?」
「私なら株やFXでチョチョイのチョイよ!」
「うーん、前から思っていたけど……ブラックリリーって謎の人だな。何者なんだ……」
二人を乗せた黄龍王は、街を抜け峠に入り車体をバンクさせながらコーナーを切り裂いて行く。
目の前の景色が過去へと流れて行き、次のコーナーを抜けると新たな景色へと繋がる。
「行くぞ!
黒百合が必殺技を叫ぶと、バイクが風に包まれるような感覚となり超加速をする。
ギュワァアアアアーン! ブォォォォォオオオオオオオオオン!
「ちょ、速すぎ! 怖いぃぃぃ!」
春近は想像を超える加速に驚き、黒百合に強く抱きついた。
※説明しよう。
二人は山頂付近にある展望台駐車場に入って休憩をする。
街を一望する眺めが絶景だ。
「春近のエッチ! 私の胸を触りまくり。」
「ううっ、怖くて必死にしがみ付いていたから、気付かなかったよ……」
「そんなに触りたいのなら、もっと触らせてあげる。ほれほれ」
「ちょっと、ダメだって!」
黒百合は、触らせてあげると言いながら、春近のあそこを触っている。
「ほれほれ、ここがええんか? ええのんか?」
「うわっ、こなな場所でダメだって」
黒百合の手が春近のあそこに集中攻撃する。
それも、自分の体で隠れた場所から手を伸ばし、外からは分からないようにエッチな悪戯をする周到さだ。
まるで、周囲からは仲の良いカップルが寄り添っているようにしか見えないだろう。
「ぐへへっ、春近の、その表情たまらない」
「ううっ、コタツと温泉に続いて、ここでも連敗してしまうのか……誰か、誰か援軍は来ないのかぁ……」
「無駄無駄、援軍は来ない! 誰も助けに来ないように、この場所まで連れて来たのだから!」
「そんな、騙したな~」
本当はバイクを自慢したいだけだったのだが、黒百合に変なスイッチが入ってしまい止まらないだけである。
「ふふっ、もう諦めて爆発してスッキリしちゃいな」
「そ、それだけは……外でそんなことは……」
よく分からない変な世界に入りイチャイチャする二人。
しかし、そんな二人を邪魔するような、迷惑な輩が現れてしまう。
「おうおう、オレらの縄張りで何イチャイチャしてんだコラ!」
「どこ中だコラ! 先輩に許可とってんのか!?」
春近達がイチャイチャしていると、何処からともなく派手な竹槍マフラーのバイクに乗った昭和のヤンキーっぽい人たちが駐車場に入って来て絡まれる。
援軍を待ち望んでいた春近だが、何故か暴走族っぽい人たちを召喚してしまったようだ。
「いえ、すぐ立ち去るので」
ヤベっ、面倒くさい人たちに目を付けられちゃったな。
春近は黒百合を庇うように後ろに隠して、バイクの方に戻ろうとする。
「帰ろうか」
「うん……」
春近……ヘタレなのに、私を庇うなんて……
ちょっとカッコイイかも……
さり気ない春近の仕草に、黒百合の乙女心がドキっとする。
「ちょ待てよ! そのバイク……」
何かに気付いた族っぽい男は、バイクと黒百合を交互に見て震えだす。
「も、もしかして……そのピンクのツインテールに黄色いフォア……。あ、あなた様は、伝説のブラックリリー!」
オラついていた男が、急に震え出し低姿勢になる。
「えっ、
これには春近もビックリだ。
黒百合の伝説など自称という名の妄想だと思っていたのだから。
「そうだけど。私が伝説のブラックリリー! ふんす!」
黒百合はエラそうにふんぞり返る。
「うおっ、あの伝説のブラックリリーさんに会えるなんて光栄です! チワッス!」
「チワッス!」
族っぽい二人組は、腰から九十度に体を曲げて挨拶をしている。
「湾岸最速!
「シャス!」
二人はバイクの斜め上に飛び出たロケットカウルにサインしてもらって、子供のように喜んでいる。
「感激っす! 仲間に自慢します」
「自慢しまッス!」
「えええ……何なのこれ……」
若干、置いてけぼりの春近が呟く。
「マフラーの音がウルサイ! 近隣住民の迷惑だから、静かなのに変えるように!」
「分かりました! シャス!」
「シャス!」
サインを貰ってはしゃいでいる二人は、爆音を撒き散らしながら帰って行った。
ウルサイのが消えて、再び静かな山奥の穏やかな世界が戻る。
春近は、恐る恐る黒百合の方を見た。
「ええっと……」
「見たな! 聞いたな! 私の過去を知った者は、只じゃ置かない!」
黒百合は春近を引っ張って、駐車場側から死角になっている樹木の陰になったベンチに連れて行く。
春近を無理やりベンチに座らせると、向かい合うように膝の上に乗って来る。
「あの、誰にも言わないから……」
「ダメ! 知った者には口封じをしないと!」
「ちょっと……んっ」
「あむっ、ちゅっ……」
黒百合は何か言おうとした春近の口をキスで塞いだ。
口封じという名の濃厚なキスだった。
「ぷはっ」
「だから……むうっ……」
「あむっ、むちゅ、ちゅちゅ……ぷはぁあ」
「ちょっと喋らせて……んんんっ」
「ちゅぅぅぅぅぅ~♡」
あくまで春近には喋らせず、キスで口を塞いで口封じをしようとしていた。
しかも、彼女の手は確実に春近のあれを絶え間なく攻め続けている。
「んんっ! んんんっ! むぅぅぅぅ!」
「ちゅぱっ、ふふっ、春近、もう楽になっちゃいなよ」
「ダメだぁぁぁ! お外で爆発しちゃうなんてぇぇぇ!」
ああっ、もう楽になっちゃっても良いかな……オレ、頑張ったよね……って、良くなぁぁぁい!
――――――――
「危ない所だった……」
「春近、面白い」
黒百合に散々焦らされてキスされまくってから、何とか無事に開放された。
しかし、黒百合は春近にベッタリとくっついて離れない。
知らず知らずの内に、黒百合の春近に対する高感度を上げてしまったようだ。
「あの、
「んんっ……好き……(ぼそっ)」
黒百合が小声で何かを囁く。
「えっ? 何か言った?」
「な、何でもない」
黒百合は真っ赤な顔を見られないように、春近の胸に暫く顔を埋めていた。
――――――――――――――――
※黒百合は天狗の神通力を使って走行しているので、道路交通法などが適用されないという設定です。現実で違反行為をすると罰せられます。
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