第59話 デート編Ⅴ あい

 あいちゃん――――

 少し黒ギャルっぽい容姿に柔らかくふわふわボディ。気さくな性格で激しいスキンシップ。

 だが、実は友達想いで優しく気配りもできる女子だったりする。


 今日はあいとのデートの日だ。

 春近は、あいを迎えに女子寮へと来ていた。


「まだ行先は決まっていないけど、あいちゃんは何処に行きたいのかな?」


 独り言をしながら彼女を待つ春近。彼女のエッチなスキンシップを想像してソワソワする。

 すると、寮の中からあいの声が聞こえてきた。


「はるっち~」

「あいちゃん、って、あっ……」

「どうしたの? ヘンな方向をみてるけどぉ」

「えっと、だって、あいちゃんの服が刺激的というか……」

「えーっ、ふつうだよ。変なはるっち」


 ムチムチと音が聞こえてきそうなあいの恰好は、胸の谷間が見えまくってる下着みたいなキャミに、ダメージ加工されたデニムのローライズショーパン。

 艶やかな褐色の健康的な肌が露出し、童貞男子を一撃で屠りそうなエッチさで煽情的せんじょうてきだ。

 これには春近も困ってしまう。



 ううっ、あいちゃんが色っぽくて直視できない……


 とりあえず春近は話しを振ってみた。


「えっと、今日はどうしよう? 街に行く?」

「はるっちの部屋に行きたい」

「えっ、えええっ!」


 あいちゃんを部屋に入れるのはヤバい気がするぞ――

 密室で二人っきりなんかになったら、あの激しいスキンシップで一線を越えてしまいそうだ。

 こ、ここはやはり外でデートを。


「そ、外に遊びに行こうよ」

「いや! はるっちの部屋!」

「あ、でも男子寮に女子が入るのはマズいのでは?」

「そんな校則あったっけ? あってもどうでも良いけど」

「あいちゃん……てきとー過ぎるぞ……」


 案の定、ぐいぐい春近を引っ張ってゆくあいなのだ。


「ほらほら、行くよ~」

「あああ~オレの理性が」


 あいに手を引っ張られて男子寮に入ってしまう。

 これは、もう止めるのは不可能だ――――


 ――――――――




「ここが、はるっちの部屋かぁ~♡ けっこうキレイにしてるね」


 あいはベッドに腰かけ、辺りをキョロキョロ見回している。


「な、何か飲み物でも用意するよ」

「よろしくー」



 あいちゃん……それ、殆ど下着みたいじゃないか……

 エロ過ぎる。

 目のやり場に困ってしまう。

 いや、むしろガン見してしまいそうだ。

 いかんいかん。ジロジロみたらダメだよ。


 頭を振ってあいのエッチな想像を消した春近が、黙って紅茶を入れる。


「おまたせ」

「ありがとー」


 春近は紅茶をテーブルに置き、あいのいるベッドとは反対側に座った。


「え~ はるっちもコッチに座りなよ~」

 ベッドをペシペシと叩きながら、自分の隣に来いと言ってくる。


「お、お、オレはここで良いよ」

「ふーん、そういうコト言うんだぁ……」

「ええっ」

「はるっちを食べちゃおっかなぁ♡」


 あいの目がイタズラっぽく光り、春近は身の危険を感じた。

 このパターンはいつものアレである。


「わ、分かった、行くから」

「うへへぇ、最初からそうしなよぉ」


 春近があいの隣に腰かけると、彼女はいつものように腕を回して密着する形になる。


「むふふぅ、はるっちぃ♡」

「あ、あの、当たってるから」

「当ててるって言ってるでしょ」

「ですよねー」


 あいちゃん……

 相変わらずムチムチでエロくて溺れそうになってしまう……

 ダメだ、気を強く持って流されないようにしないと。



「ねぇ、うちを部屋に入れて、エッチなこと期待したでしょ?」

「し、してないから」

「ホントかなぁ」


 ポヨンポヨン

 大きな胸を押し付けられた。


 おおおお、おっぱい!

 まてまて、理性が飛ばないようにしないと!

 マズイ、これではいつもと同じパターンだ。


「他の子とはエッチな事してるくせに。噂で聞いたし」

「それは……」

「なんで嫌がるの? うちのことキライ?」

「そんな事ない。むしろ……あいちゃんはけっこう好きというか……」

「うへへぇ♡」


 あいの顔がニマーっと嬉しそうになり、更にぐいぐいと密着してくる。


「ちょっと待って。だから、あいちゃんが魅力的すぎて、そのまま溺れてしまいそうで……。他の子にも告白されているのに、いい加減な気持ちのままエッチしちゃったら無責任だし。告白してくれた子を裏切って傷つけることになっちゃうから……」


「はるっち、マジメだね」


 そう言ったあいは、少しだけ真面目な顔になる。


「でも、はるっちは、もう全員嫁にするしかないんだよ」

「えっ、そんなの無理だよ……」

「ムリでも何でもやるしかないの!」


 あいの表情が今までのふざけた感じから、急に真面目な印象に変わった気がした。


「特に……うちらみたいな、ちょー強い鬼の力を持った子は、みんなから怖がられ、孤立してるから……」


「そんな……皆魅力的で良い子ばかりなのに……」


「はるっちと別れたら、もうずっと一人になっちゃうかも。うちも、はるっちがいなくなったら寂しいよ……どうか、誰一人も手放さないで……」



「えっ……」


 あいちゃんが意味深な事を言った。

 どういう事だろう……?

 確かに強力な呪力を持った彼女達は、人々から恐れられてしまうのだろう。

 旅行の時に聞いたように、子供の頃から鬼の末裔と呼ばれ、辛い人生を送ってきたのかもしれない。


 この学園に入ったばかりの頃は、実際に陰陽庁から監視や確保される対象になっていたようだった。

 もし、学園を卒業したら……政府から危険人物とされ監視対象になったり、もしかしたら何処か収容施設のような場所に隔離されたりとか……。


 今は陰陽庁長官がオレの祖父になって、自由でおかしな方針になっているけど、それもいつまで続くのか分からない。

 もし、隔離なんて事になったら――――


 ルリ達が収容施設に隔離される事を想像した春近が、胸が張り裂けそうな気持になる。


 絶対に、そんな事はさせない!

 オレにもっと力があったら……

 あいちゃんが、どのような事を指して言ったのか分からないけど、彼女達を誰一人も不幸にしたくない。

 何とかして守りたい――――



「はるっち……」


 身体をピッタリとくっつけたあいにより、そのままベッドに押し倒される形になる。


 春近は、いつものエチエチ攻撃が始まるのかと身構えているが、ただ抱きついているだけで彼女の体温と微かな震えが伝わってきただけだった。

 まるで寂しさを埋めようとしているみたいに……


「あいちゃん……」

「ねえ、はるっち……キスして」

「えっ」

「はるっちからキスして欲しいの」


 そう言って、彼女は身体を入れ替え下になる。


 そういえば、いつもあいちゃんからキスしていてオレからした事は無かったような。

 もしかして、普段は明るく振舞っているけど、本当は心の底に寂しさや不安を感じていたのでは。


 先程の想像が脳裏をよぎり、春近は急に不安な気持ちになってきた。


「あいちゃん」


 彼女を優しく抱きしめると、体を重ねるようにしてキスをした。

 彼女は、ギュッと強く抱きしめ返してきて、そのまま離さないかのようにキスをし続ける。


 まるで寂しさや不安を忘れるように、いつまでも強く熱くキスし続けていた――――

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