第55話 デート編Ⅰ アリス
降り続いていた雨が止み、久しぶりの晴れ間が見えている。
梅雨の中休みというのだろうか。
今日は、くじで決めた順番通り、アリスとデートの日になった。街に遊びに行く為に、学園から駅前に続く通りを二人で歩いている。
「わたしは天候を操る最上位魔法を使えるのです」
唐突にアリスが言う。
得意げにふんぞり返っている姿が可愛らしい。
「なななっ、凄い! そんな事まで! 気象魔法はアニメでも超高度だったはず」
春近が本気にしてしまう。
因果を操る能力を見せられているのだから、本気にしてしまっても仕方がないだろう。
アリスの呪力が凄いのを知っている春近でも、まさか天候までコントロールできるとは思ってはいなかった。
「嘘です!」
「えぇ……冗談だったの」
あっさり嘘を認めるアリス。
「天候なんか操れるわけないです。地球規模です」
「だよね、言われてみれば……」
「あなたは人を信用し過ぎです」
「確かに……騙されやすい気もする……」
「まあ、その素直な所が長所なのかもしれないですが」
横を歩くアリスは、ご機嫌そうにニコニコしている。
前はムスっとした表情が多かったが、最近はニコニコしていることが多い。
クラスでは忍と友達になったようで、よく一緒に遊んでいるようだ。
アリスと忍さん……二人共、笑顔が増えて本当に良かった――
楽しそうなアリスを見て、春近はそう思っていた。
「何ニヤニヤしているのです。えいえい」
アリスがふざけて、春近の脇腹をつついてくる。
「おっ、やるのか?」
何だろう……
アリスを見ているとイタズラしたくなってくる……
よし、つつき返してやれ。
ツンツンツン――
「わぁあっ、何するのです!」
ついでに腋もコチョコチョしてやる。
「うわっ、わわわっ、エッチ! ヘンタイ! 外でこんな事するなんて、やっぱりハレンチ君です!」
アリスの反応が面白くて、ついつい色々と触ってしまう。
「ほら、こちょこちょこちょ」
「ひゃあぁああっ! やめるのです」
「こっちも、こちょこちょこちょ」
「うああぁ~っ、ダメです! こらぁ」
ジタバタするアリスが可愛くてイタズラがやめられない。
「ま、全く、やっぱりハレンチ君です」
「ははっ、最初は嫌われていたのに、今はアリスと仲良くなれて良かったよ」
「当然です。色々な女とエッチなことばかりしているのだから、最低のハーレム王のハレンチ男です」
ちょっとだけ胸を逸らし、アリスが偉そうなポーズをする。可愛いだけだが。
「でも、アリスもあの和室でエッチを……」
「わわわっ、忘れるのです! あれは気の迷いです!」
「ええっ、気の迷いだったの……?」
「んんん……じゃない……本気です……いじわる……」
アリスは顔を赤くして、春近の袖を掴んで俯いてしまう。
春近は、そんなアリスに保護欲のようなものを感じていた。
か、か、か、可愛い! 何だ、この可愛い生き物。
「またニヤニヤしてる!」
ポカ、ポカ、ポカ――
アリスが腹を叩いているが、力が弱いので全く痛くないようだ。
「よーし、抱っこしてあげよう」
「やめろ、降ろすのです!」
春近は、アリスを抱っこするように持ち上げた。手足をジタバタして暴れるのが面白い。
こそこそこそ――
不意に、すれ違った御婦人たちが不審者を見るような目を向けてきた。
「あっ……」
まずい……オレが小さい子にイタズラしているように見られたのか?
同級生なんだ、同い年なんだ、オレはロリコンじゃないんだ!
「こ、こほん……」
すぐにアリスを降ろし、小さく咳払いのフリをして
「どうしたのです?」
「何でもないよ」
小さいのを気にしているアリスには、周囲から幼女のように見られていたことは黙っていようと春近は思った。
程なくして駅前の商業施設に到着した。ここは色々な店が併設された複合施設になっているのだ。
様々な遊戯施設を前にアリスは目を輝かせている。
「よしアリス、遊ぼう!」
「おー! 負けないのです」
――――――――
色々なゲームを楽しんだが、ボーリングもビリヤードもダーツも、アリスの連戦連勝だった。この娘、勝負に強過ぎである。
遊び疲れた二人は、休憩がてらファストフード店に入った。
「ふっふっふ、ゲームと名の付くもので、わたしに勝とうなんて十年早いのです」
腰に手を当てたアリスが宣言する。
まさに常勝不敗、この子は敵に回してはいけない子のようだ。
「うーん、というか、本当に呪力を使っていないのか?」
「わたしは昔から、一人でゲームばかりやっていたのです。全てを極めてきたゲーム達人なのです!」
何だか悲しくなるようなことを言いだした。
「な、何です、その憐れむような目は! 今、失礼な事を思いましたね!」
「いや、アリスが一人で将棋やオセロをやってる姿が思い浮かんでしまって……」
「そんなの一人でやるわけないです、今はネットで対戦できるのです!」
ポカポカポカ――
小さな絵でを回してポカポカするアリス。
「確かに……」
「でも、こんなに楽しいのは初めてです……」
「アリス……」
こうして、アリスと休日を堪能し、二人は帰路についた。
その学園までの帰り道――――
「今日は久しぶりに遊んだよ。全寮制の学園だと、出かけないとこもりっぱなしになっちゃうし」
「うん……」
「また遊ぼうか?」
「う、うん……」
どうしたんだろ? アリスがそわそわしている。
サッ――
「えっ」
アリスが、そっと春近の手を掴んだ。
真っ赤な顔をして黙ったまま。
「アリス……?」
「ううっ……」
そのままアリスが熱を帯びた視線を向けてくる。
「んっ……」
アリスは目を閉じた。
「えっ、あの……」
これって……あれだよな。
アリスが勇気を振り絞ってここまでしてくれているのに、スルーするわけにはいかないよな。
春近はアリスの端正な顔に自分の顔を近付けて、そしてそのままキスをした。
それは、くちびるとくちびるが少し触れるだけの優しいキス――――
学園まであと少しの道すがら、赤い顔をしたまま二人並んで手を繋ぎながら帰る。
「うぅ……最初は最低のヘンタイだと思っていたのに、なんで好きになっちゃったんだろ……何だか負けたみたいでくやしいです……」
耳まで赤くしながらアリスが呟く。
「最初の頃は嫌ってたよね」
「もう、まんまとハレンチの術中にハメられたです!」
「ふふっ」
「笑うなです」
ポカポカ――
アリスは照れ隠しのように、ポカポカと叩いてくる。
そのまま学園の門を通り、今では住み慣れた陰陽学園の寮へと帰るのだった。
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