第47話 季節は夏を迎えるけれど

 六月に入り季節は夏の始まりを告げるように、日に日に暑さが増してきている。

 ベッドで目覚めた春近も、暑さで目覚ましのアラームより先に目が覚めてしまった。


「暑い……」


 いや、初夏のせいではない。

 すぐ隣から熱を感じるのだ。

 まるで人の体温のような。


 春近は、恐る恐る首を横に向けた。


「おはようございます、旦那様」

 栞子が添い寝したまま、ジィーっと見つめている。

 バッチリ目が合ってしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁ! 栞子さん!」


 また栞子がベッドに入り込んでいた。

 春近は驚きと同時に、ある疑念がわいてしまう。


 確か……栞子さんって鍵開けや侵入のスキル持ちだったよな。

 もしかして頻繁に侵入しているなんて事は……?

 くっ、気になる……確認してみるか。


「栞子さん。ちょっといいですか」

「はい、何でしょうか?」

「もしかして、オレが居ない時にも侵入したりしてませんよね?」

「――――し、していませんよ……」


 一瞬だけ彼女の目が泳いだんのを春近は見逃さなかった。


「今、少し間がありましたよね? あと、目を逸らしてましたよ!」


 まるでお手本のように怪しいリアクションの栞子だ。やはり侵入しているのではと思ってしまう。


 春近は真正面から栞子の目を見つめる。


「栞子さん、正直に言ってください」

「あ、あの、たまに……」

「やっぱり、してたんですね!」

「だって……旦那様が、わたくしに構ってくれないのが悪いのですよ……」


 開き直った。


 春近は栞子に冷たくしているつもりはないのだが、ルリや渚の圧が強すぎて近寄れないのだ。

 初めて会った時は凛とした御令嬢のようだったのに、今ではヤンデレっぽい感じになってしまった。

 何が彼女を変えてしまったのか……。『もしかしてオレのせいなのか』などと春近は思った。


「栞子さん、部屋の私物を漁ったりしてないでしょうね?」

「――――ひゅーふーふー」


 目を逸らして口笛を吹き誤魔化そうとしているようだ。吹けていない上に全く誤魔化せていないが。


「栞子さん…… もしかして、アニメとかにありがちな……」

「クンカクンカですわね!」

「えっ?」

「わ、わたくしが、クンカクンカとかするはずないでしょう」


 更に怪しくなる栞子。変態っぽいネタを口走る。


「ク、クンカ……してたんですか……というか何処でそんな言葉を覚えたんですか?」


「もう! 他の人とはイチャイチャしてるのに、わたくしにはしてくれないからですわ! わたくしだって旦那様の温もりを感じたいのです! たまには旦那様の匂いを嗅ぐくらい許されるべきですわ」


 もうお手上げ状態だと春近は思う。


 これは、下手に優しくしたらより過激化しそうだし、優しくしなくてもより過激化しそうなデススパイラルに入っているような気がする……

 いったいどうすれば良いんだ……


 どうしようもなさそうなので、自分が居ない時は侵入しないように何度も釘を刺してから、栞子と一緒に登校することにした。




「そういえば、四天王の先輩方はお元気ですか?」

 前から気になっていたことを聞いてみた。


「はい、皆すっかり元気ですよ。でも、わたくしが源氏の棟梁を辞めると言ったら、元気が無くなってしまいましたけど」


「ううっ、それは……」


 ルリを襲った人達なのに何だかちょっと四天王が可哀想だと思ってしまう春近。

 幼い頃から鬼を討伐する為に日々鍛錬を重ねてきたのに、全く歯が立たなかった上に大将である栞子がこんなではと。




 昇降口に入ったところでルリと咲がくっついてきた。

 凄い勢いで。


「ハルぅ、おはよう」

「おはよっハル」


 今日は咲も積極的だ。

 両腕を取られてしまい、三人並んで教室まで歩く。

 そして、後ろで恨めしそうな目をした栞子が怖い。


「そ、そろそろ離してくれない?」


 教室に入っても二人はくっついたままだ。

 だが、廊下で忍がキョロキョロと中を覗いているのに気付いた春近は赤くなった。


 一瞬、春近の脳裏に先日のエッチなコスプレが頭によぎったのだ。恥ずかしさで、かぁぁぁーっと体が熱くなったが、ルリ達に紹介するのに丁度良いと思い声を掛けに行った。


「忍さん」

「ひゃうっ! は、春近くん」

「あの、えっと……」

「あ、あ、あの……せ、先日は……」


 お互いにエッチな想像をしてしまい言葉が続かない。

 ビキニアーマーコスプレで激しく密着したのだから当然だろう。


「あ、あの、ルリ達に紹介するから入ってよ」

「ええっ、えええっ……」


 恥ずかしがる忍を連れ、春近はルリたちが待つ教室に戻った。



「こちら、C組の阿久良忍さん。地震の時に助けてもらった恩人なんですよ」

 注目の中、忍を皆に紹介した。


「は、初めまして……阿久良忍です……」


 皆が一通り自己紹介をする。


「くふふっ、土御門君、どんどんハーレムが大きくなりますね」

 背中に張り付いた杏子が呟く。

「鈴鹿さん、普通に喋ってください。てか、そのポジション好きですね」


 ハーレムと聞いて、益々忍の顔が赤くなった。


「あああ、あの、私なんて……先日もご迷惑をかけてしまって……」


「先日って何?」

「まさか、またエロいことか?」


 ルリと咲が同時にツッコんだ。


「あの、それは……」


 忍が真っ赤な顔をして俯く。

 もうエロいことと言っているようなものだ。


 助け船を出そうと春近が話し出すが――

「ち、違うって、コスプ……もごもご」

「ダメっ! 言わないで!」


 忍が春近の口を押えてくる。

 そのムッチリと大きな体で抱きしめるように。


「ううっ、恥ずかしい……あんなエッチな事……」

 忍がボロッとエッチなとか漏らしてしまった。

 これには皆が大騒ぎだ。


「やっぱりエッチな事してたんだ!」

「またかよ! ハルのバカっ!」

 ぐいぐい、ぐいぐい!


 ルリと咲が春近の体を引っ張るが、忍が暴走気味に抱きついて引きはがせない。春近は忍の胸に埋まってしまっている。


「春近くん、あんなエッチなの……内緒にしてください……私、普段はあんな変態じゃないんです……あのエッチな踏むプレイも知らなかっただけなんですぅ」


「忍さん、ボロ出まくりだから! 内緒とか言いながら色々喋っちゃってるから!」


 結局、忍は全部喋ってしまう。


「ハル、そんなに踏んで欲しいなら、アタシが踏むっていってんだろ!」


 咲が更に誤解しそうな事を言い出す。

 これには忍も更に誤解しているようだ。


「春近くん……やっぱり踏まれたかったんですか……私でよければ……いつでも言ってください……お仕置きしちゃいます」


「いや、あれは……ちょっと……」

 春近が思い出してしまった。

 あのムッチリと大きなあれを。


 忍さん……

 踏むといっても、忍さんのは足じゃなくて……

 あの大きくてむっちりとしたお尻が……

 あんなのされたらオレは……


「ハルぅ~ 私も踏むから~」

 ルリまで踏むとか言い出してしまう。


「だから、何で踏みたがるんだよ!」

 春近が叫ぶ。


「踏みたくなる顔をしてるハルがわりぃんだよ!」

「くっ、咲がドS過ぎるぜ……」


 踏みたくなる彼女たちが悪いのか。それとも踏みたくなる雰囲気の春近が悪いのか。



 担任教師が入ってきたが、またかというあきれ顔になっている。

 春近のハーレムに更に強力な女子が加わり、ハーレム王のエチエチ伝説は続くのだった。


 このままでは、また変な噂が広がってしまうだろう。

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