第31話 GW編Ⅰ 友達

 春近たちは、電車に揺られて海沿いの街を車窓から眺めていた。

 全寮制の陰陽学園に入学してから、初めての遠出と外泊になる。


 あっさり外泊許可が出たのは、裏で祖父が手を回したのかもしれない。

 メンバーは、ルリ、咲、杏子、栞子、あい、そして渚だ。

 当初、ルリ達は渚が来るのに反対していたが、あいが絶対に争いを起こさないという約束をして、何とか了解してもらったのだった。


 そして現在……この状況である……


「はるっちぃー 海が見えるよぉー」

 あいが、隣を無理やり確保して春近にべったりくっついている。


「ハル、もっとこっちに来て!」

 ルリはもう片方の席に陣取り、ピッタリと体を寄せてくる。


 そして何故か、咲は春近の膝の上に座っていた。


「あの……咲は何でオレの上に乗ってるの?」

 この不自然な状況に、春近がツッコんだ。


「ちょ、ちょうど、ここが景色が良く見えるんだよ……」

 苦しい言い訳をしているみたいだ……


 栞子が隣を確保しようとしていたが、あいの迫力に負けて取られてしまった。

 現在はダークオーラを醸し出して落ち込んでいる。


 ただでさえハーレム状態で目立つというのに、密着イチャイチャ状態なのだ。

 しかも、電車の中であり周囲の一般乗客の注目を集めてしまっていた。。

 おばさま方の「最近の若い子は……」とか「公共の面前で……」とか「破廉恥な……」とか会話が聞こえてくる。


 これは恥ずかしすぎる――――



「大変ですね、土御門君」

 杏子がルリの隣の席から声をかけてきた。


「ううっ、恥ずかしい……」


「でも、この学園に入って、一人で怖くてどうしようと思ってましたが、土御門君のおかげで楽しくなって感謝してるのですよ」


 そう言った杏子が微笑んだ。


 うぅ……鈴鹿さんの言葉が身に染みる……

 とにかく、学園に争いが起こらず平和になってくれれば――――


 そんな感慨にふけっていると、大嶽渚が凄い目つきで睨んでいるのに気付いた。

 美人なだけに余計に迫力が有る。


「ううっ……」

 何だろう……? 怒っているのか……? 目を合わせてはいけない気がする……




 くっ! あたしの奴隷にベタベタしてんじゃないわよ――――!

 大嶽渚はイライラしていた。


 まるで自分の大切なオモチャを、勝手にイジられているような感情だ。

 この旅行で、あの男を完全にに籠絡ろうらくして、徹底的に調教し自分のモノにするつもりだった。

 しかし、あの男の周りには常に女が付きまとってっていて隙がない。

 自分ではどうしようもない感情が渦巻き、そのけ口が見つからないまま鬱憤うっぷんだけが溜まっていく。

 この数日で、彼女の春近に対する執着心が何倍にも高まっていた。

 もう、爆発しそうな程に――――



 駅に到着した。湘南の風が気持ち良く心地いい。


 駅から橋を渡って島まで歩けるらしい。

 レンガを敷き詰めた橋を歩く。


 またしても、ルリとあいに隣を取られてしまい、栞子がヘコんでいる。

 更に病んでしまわないか心配だ……


 春近は栞子が気になり、声をかけてみることにした。


「栞子さん、ここはシラスアイスが名物らしいですよ、後で食べてみませんか?」

「旦那様! 一緒に食べましょう!」


 一瞬で復活した――――

 栞子が心配なので、もう少し優しくしよう――春近は、そう思った。



 島の通りを食べ歩きして散策する。


「この神社に祀られている神は、タギリヒメ、タギツヒメ、イチキシマヒメの三女神なのですよ」

 杏子が雑学を語りだした。

「そして、ここは恋愛成就の絵馬が……」


 続いてその一言で、皆が一斉に絵馬を買いにいった。


「鬼の転生者が一斉に神社に参拝するというのも、なんだか面白いですね」

 栞子が素朴な疑問を言い出した――――


「平和で良いんじゃないのかな」

 春近も呟く。



 展望台に上ると、遠くに富士山が見えた。

 一人で抜け出した春近が、野外展望台から景色を眺めている。

 ふと気づくと、いつの間にか隣にあいが居るのに気付く。


「あいちゃん」

「えへ、今日は、ありがとね」

 突然お礼をされた。


「どうなるかと思ったけど、皆で来れて良かったよ」

 春近は素直な感想を言う。


「渚っちも楽しんでくれると良いけど……」


 急に真面目な顔をしたあいが、静かに語りだした。


「うちね、子供の頃に友達が居たの……ある時、呪力が暴走して友達にケガさせちゃって……うちの呪力って、こう雷とかドカーンって爆発する危険なので……わざとじゃないの、小さかったから上手く使えなくて……」


 あいは悲しそうな顔になる――――


「その後に、その子の家に謝りにいったけど、親が会わせてくれなくて……そしたら、もうあんな子と遊んじゃダメって言われたらしくて、もうそれっきり会ってないの……うちら家族も、そこに住めなくなって、引っ越す事になっちゃって……」


「うん」

 春近は真剣な顔で頷きながら聞いている。


「この学園に入学したら、クラスに渚っちがいて――――すぐに分かったの。ああ、この子も同じなんだって。周りに人がいっぱい居るけど、ほんとは一人なんだって……」


「そうなんだ……」


 そうか、全く違う性格に見える二人だけど、あいちゃんは子供の頃のトラブルで友達を失い、大嶽さんは周囲の人を従えて女王様のように振舞っているけど、本当は友達も信頼できる人も居なかったのかもしれない……


 そういう意味で似ていると感じたのだろう……

 もしかしたら、ルリや咲や鈴鹿さんも他の転生者も……鬼の末裔という事で周りの偏見を受けたり疎外されたりして、辛い経験をいっぱいしてきたのかもしれない――――

 おかしな運命で陰陽学園に集められてしまったけど、この先の人生は幸せになって平穏に暮らしてほしい。


 春近は、心からそう思う――――


 二人は暫く並んで海を見ていた。



 それにしても……あいちゃんって、何も考えていないようで、実は色々考えていたんだな……


 春近は、少しあいを見直した。

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