第29話 歪んだ愛

 大嶽渚は悶々もんもんとしていた――――



 寝ても覚めても、あの男の事ばかり考えてしまう。

 何とかしてあの男を屈服くっぷくさせたい。

 また、跪かせて足を舐めさせる。

 次は、もっと恥ずかしい事をさせてやる。

 裸にして、上に乗って、色々と……

 そうだ! 紐で縛って自由を奪ってから……

 あの男の事を考えるだけで、ムラムラして身体の底からゾクゾクが止まらない。


 容姿端麗ようしたんれいな彼女は、周囲から羨望せんぼう眼差まなざししを向けられ、男から女王様のように扱われてきた。

 男など、単にかしずかせるだけの存在だった。

 鬼の転生者として生まれたが、類まれなる美貌と強制の呪力で、誰も彼女には逆らえない。

 いや、逆らう奴が居たら強制させて蹴散らせる。


 今までは、こんな気持ちになった事など無かった。

 何としてでもアノ男を手に入れる、ペットのようにずっと飼ってやる――――



 大嶽渚は興奮冷めやらぬ顔のまま教室に入った。


「おはよー 渚っち」

「おはよ」


 渚は、あいを見ながら考える――


 彼女は羅刹あい、クラスで唯一気軽に話しかけてくる。

 他のクラスメイトは、全員怯えていて腫れ物に触るような感じだ。

 かなり強い呪力を持っているそうだが、一度もそれを見た事が無い。


「あれれー 何か顔赤いけどぉ、恋でもしちゃったー?」


「はぁ、そんなわけないでしょ!」

 恋? あたしは恋なんかしない! 男なんて従わせるだけだ――――




 A組の教室――――


 春近は悩んでいた。

 あのような恥ずかしい場面を見られて、皆に軽蔑されていないだろうか?

 いくら強制の呪力で操られたとしても、あんな変態プレイを見られてしまうとは――――


「おはようございます。旦那様」

 栞子が声をかけてきた。


「おはようございます」


「あの……旦那様……」

 栞子は恥ずかしそうにもじもじしている。

「旦那様は……脚がお好きだと聞きました……もし、わたくしで宜しければお踏みいたしますが……」


「ぐふぁっ! な、な、な、何を言い出すの……」

「わたくし……脚には多少の自信がありますので」


 確かに栞子は、すらりと伸びた美しい脚をしている。


「だ、誰に聞いたんですか? それはデマですよ」

 春近が焦る。変な噂が広がらないようにしなければと。


「皆がおっしゃってましたし……それに……旦那様は、以前からわたくしの脚を凝視ぎょうしなさっている事が多かったので……」


「ぐふぁっぁぁぁ!」


 凝視はしていないはずだが、チラ見していたのがバレていたようだ。


「栞子さん、デマなので噂を広げないようにしてくださいね」


「わたくし……そういったプレイは自信が無いのですが……旦那様に喜んでいただけるように頑張ります……」


 両手をグッとして、ドSプレイを頑張ると公言する栞子。

 これには春近もたじたじだ。


 ダメだ聞いちゃあいねえ――――

 そもそも何で皆オレを踏みたがるんだ……


 春近は、自分がドS女性の嗜虐心を誘ってしまう特性が有る事に気付いていなかった。




 再びB組教室――――


 大嶽渚は更に深く終わりの無い情欲の疼きの中にいた――――

 もう、あの男が欲しくてたまらない。

 どんな手を使ってでも手に入れなくては。

 しかし、酒吞瑠璃が邪魔をしてくるだろう。

 あの女は強い……戦ったら勝てないだろう……


 そして出した彼女の結論がこれだ――


 そうだ、呪力で強制したり戦ったりしなくても、あたしの魅力でメロメロにして、あの男から奴隷になりたがるようにしてやる。

 あたし無しでは生きていけない体にしてやる――――


 大嶽渚は、恐ろしくもいやらしい陰謀を企てていた。

「ふっ……ふふっ……」


「渚っちー なんかキモいよー」

 羅刹あいにツッコまれた。



 春近は、自分に貞操の危機が迫っている事など知る由も無かった――――

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