陰陽学園の鬼 ～強くて愛が激しい美少女たちを助けたら全員から迫られてラブラブになったオレ。そして運命の契りで鬼神の根源を取り込み十二天将を従える王になる物語～

第9話 ご褒美

　咲は、人のいない放課後の廊下を走っている。

「ちくしょー！」

　何故か涙で視界が霞む。

　こんなに悲しい気持ちになるのは何故……

　今朝、あんな夢を見たから……そうに違いない……

「まって！」

　そう叫んだ春近が必死に追いかける。

「何で付いてくんだよ！」

「咲が逃げるからだろ！」

　廊下は行き止まりになり、二人は向き合うかたちになる。

　しばらく見つめ合ったまま――

「何だよ。関係ねーだろ！」

　先に口火を切ったのは咲である。

「別にオマエが女子とイチャイチャしようがよ！　ちょっと前まではルリにデレデレしてたくせに！」

　頭が混乱してグチャグチャだ。『こんな事を言いたいワケじゃ無いのに』と咲は思っていた。

「鈴鹿さんとは相談を聞いてただけで何も無いから」

「関係ねーし」

「関係あるよ！ 茨木さんとは仲良くしたいと思ってるから」

「――――えっ」

　二人の間に暫しの間沈黙が続く。

「ごめん！！」

　突然、春近は謝り深々と頭を下げる。

「へっ、なに？」

「あの時はごめん。もっと早く謝りたかったんだけど、なかなか言い出せなくて」

「はぁ？　ちょっと待て、お、オマエは何を言い出してるんだ？」

「本当は、全然臭くないから」

「…………」

「むしろ、踏まれて嬉しいというか眼福（がんぷく）というか……そう！　ご褒美的な？」

　途中から訳が分からなくなっている春近だ。

「…………」

　あ、あれ？　咲の目が、何だかゴミを見るような目になっている気がするのは気のせいだろうか……？

「ぷっ、あはっ、あははっ」

　突然、咲が笑い出した。

「やっぱ変態じゃん！　ふーん、踏まれて嬉しいんだ～」

「あ、それは……」

「そうなんだ～ハルは私のような踏んでくれる子でないとダメなんだぁ～」

　咲の目が嗜虐的（しぎゃくてき）な光を放つ。

　こういう時の彼女は凄く輝いて見える。

「また踏んであげようかぁ？」

　上履きを脱ぎ、つま先でツンツンしてくる。

「ちょっと、やめて」

「やめてとか言いながら、もっと踏んで欲しそうな顔してる～」

　座り込んだ春近の上から、楽しそうな顔をした彼女が見下ろしている。

「そういえば～さっき私の名前を咲って呼び捨てにしてたよね」

「あ、それは……つい咄嗟（とっさ）に……」

　春近は、今までも茨木さんでは呼びにくいし、ルリと同じように仲良くなりたいから、心の中では咲と呼びたいと思っていたのだ。

「特別に～咲って呼ぶの許してやんよ」

　――――そもそも、ルリは呼び捨てなのに、アタシだけさん付けとかありえないし！

「ふふっ、それにしても、ハルってドＭなんだ～」

「ち、違うから」

「ほんとかな～」

　咲の足が、だんだん微妙な場所に移動して来る。

「ちょっと！　そこはダメ！」

「何がダメなんだよ」

　咲は恍惚（こうこつ）とした表情を浮かべ、足の裏に力を入れグイッグイツと押すように踏んでくる。

　まずい……それ以上は……こんな場所で大変な事になってしまう……

「咲ちゃーん」

　突然、ルリが現れて、咲とハルが飛び跳ねるように離れる。

「あ、ハル……二人で何してたの？」

　春近が踏まれているのを見られてしまう。

「――咲ちゃん、ハルをイジメちゃだめだよ」

「イジメてねーし！　ハルが踏んでくれって言うから……」

「…………」

　ルリがジト目で見つめている。

　ルリの中の春近のイメージが、どんどん変態になっていないかが心配だ――――