第6話 頼光四天王
空調が効いた視聴覚室だ。
重厚な扉に気密性の高い壁、重々しい空気が部屋の中に満ちている。その中で、春近は五人と対峙して椅子に座っていた。
空調が効いているはずなのに、春近の首筋に汗が一筋流れ落ちた。
正面には源頼光栞子。
その両側に屈強な男女が並んでいる。
何故このような状況になったかというと、時間は
春近は無事に入学式の日を迎えた。春近のクラスはA組で、ルリや咲、栞子も同じクラスだ。
入学式は順調に終わり、皆が一斉に帰り支度をしようかというところで、春近は栞子から声をかけられた。
「土御門さん。少しお話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「はい……」
理由は分かっている。
祖父からのメールの件もあり、自分からも話をしなければと春近は思っていたところだった。
栞子について行き視聴覚室の扉をくぐると、そこには四人の先輩が先に待っていた。
見知った人も居る。
誰もが一目で普通ではないオーラを放っているようだ。
まるで格闘技漫画の強キャラが勢揃いしたような、一目でこいつらはヤバいと思わせる雰囲気をしている。
そして、重々しい雰囲気の中、自己紹介をしてから話し合いが始まったのだ――――
「では、始めましょうか」
栞子が凛とした声を発する。
彼女の右隣には渡辺先輩、その隣に卜部先輩、左隣に坂田先輩、その隣に碓井先輩という並びである。
「先ず、わたくしたちは特別な使命を受けて学園に派遣されてきました。土御門さん、あなたは
いきなり斜め上の話をされ、春近は息を呑んだ。
「えっ、は、はい、なんとなく……。平安時代に京の街に現れた鬼を、
「その通りです。しかし、それは単なる伝説ではなく歴史的事実なのです。信じられないかもしれませんが、この国には表の政府の他に裏の政府のように呼ばれる平安の世より続く機関が存在します。千年以上の昔から朝廷の要所中務省の中に陰陽寮があり、時空の乱れや妖魔の観測をしてきました。現代でも陰陽寮は陰陽庁と名を変え存続しています」
話しは更に荒唐無稽な方向に飛んだ。
「あの……その陰陽庁とオレに何の関係が? オレは普通の高校生ですが……」
「土御門家も源家と同じく、古くから陰陽寮に関わってきた家柄です。わたくしたちも、土御門家から協力者が派遣されてくると聞いていただけなので、そちらの家の事情は分かりません」
実のところ、本家の祖父が何やら陰陽道の関係者という話は聞いているのだが、春近の家は分家であり詳しい話は分からない。
普通の学園生活を送りたいのに、祖父の考えでこの学園に通う事になった上に、詳しい話を聞かされていないという困った事になっているのだ。
「まさかキミがそうだとは思わなかったよ。悪いが、あまり力を感じなかったので」
渡辺豪が口をはさむ。
「本庁は何をやってるのかしら。この子、役に立つの?」
そう言ったのは、
大柄な女性で、日焼けした肌にショートヘアーが似合い、鍛え上げた筋肉質な脚がスカートから伸びている。
何かの格闘技でも会得していそうで、喧嘩したら絶対に勝てそうにない。
「もっと戦力になりそうな人は来ないのか?」
こちらは
大相撲の横綱のような風格漂う巨漢だ。
大抵の人間は張り手一発で撃沈させそうに見える。
「何かの手違いなのかな?」
そして
他の三人に比べると穏やかそうな人だが、制服の下に隠れたゴツい体と両手の拳ダコが普通じゃない事を物語っている。
皆からの話で春近のテンションが下がった。
なんだか理由も分からず入学したのに、いきなり戦力外通告されているみたいで酷い言われようだ。
「話を戻しましょう」
再び栞子が話始める。
「陰陽庁は長きにわたり観測を続け、特級指定妖魔の鬼が千年の時を経て甦ると結論を出しました。そしてちょうど千年に当たる今、陰陽庁の息がかかる陰陽学園に観測された鬼の転生者と我ら関係者が集められました。この陰陽学園は形的には私立となっていますが、色々な
「集められたって……」
「あなたも知っている酒呑瑠璃、そして茨木咲、他にも鬼はおります。協力していただけるのでしたら、全てお話ししますが」
「そんな……何で……」
春近はつぶやく。
そして下を向き考え込んだ。
(そんな……彼女たちの意思や自由はどうなっているんだ……。まだ数日だけど、オレはルリたちと話したり出掛けたりしたけど、普通の女の子と何も変わらないじゃないか。鬼の力を持っているからって……まだ何もしていないのに……)
ルリも咲も、春近にとっては仲良くなったクラスメイトだ。
(そもそも鬼って何だ……アニメや漫画に出て来るような凄い能力を持っているのだろうか……? それだと逆にカッコいいと思うけど……)
そこで、春近は何かを忘れているような気がした。
それが何だったのかは思い出せない。
どうして思い出せないのかを思い出せないのだ。
春近が前を向いたことで、栞子は話の続きをする。
「鬼の転生者の中には、強力な呪力を持ち世界に干渉したり人間に害をなす者がいるのです。わたくしたちは、幼少の頃より鬼を討伐する為に育てられた頼光と四天王の子孫です。もし……危険な存在だと判定されたら……」
そこまで聞いて春近は大きなタメ息を吐いた――――
「はぁ……オレには彼女たちが鬼だとか悪い人には見えません。同じ同級生です。いきなり討伐だの退治だのと言われて、はいそうですかなんて言えるわけないじゃないですか。少し待ってもらえませんか」
そう言って春近は席を立った――――
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