第26話




 光子は一人で森の中にいた。星明かりのきれいな夜の森。ああ、これは夢だ。と光子は思った。

 光子は細身で小柄なショートヘアの女の子になっていた。

 ドーン、と、大きな音がして、辺りがさあっと明るくなった。花火が上がったのだ。

 その花火の明かりに照らし出され、前を歩く二人の子供の姿が浮かび上がった。

 背の高い男の子と長い髪の小柄な女の子で、二人共浴衣を着て手をつないで歩いている。

(ああ、あの人だ)

 その男の子が、亡くなった自分の夫正広であることが光子にはわかった。では、彼の隣にいるのは……

(なつきさんだ)

 それは、広隆の母親、正広の幼なじみで彼の最初の妻になった女性だ。光子は直接会ったことはないが写真で顔は知っていた。昔から、内気で人見知りのするタイプだった光子とは違い、勝気で人懐っこそうな顔をしていた。彼女は正広とともに遠野で育ったのだ。


 光子は黙ったまま、前を行く二人の後ろ姿をみつめていた。光子は、自分がどんどん小さくなっていくような気がした。再び花火が上がったが、その音はどこか遠くで鳴っているようで、光子の耳には届かなかった。


 正広の性格はとてもおおらかで、細かいことなど豪快に笑い飛ばしてしまうような人だった。その気質は今ではしっかりと広隆に受け継がれている。


 まったく、広隆は本当に正広にそっくりなのだ。顔も性格も、ちょっとした仕草も、成長するごとに正広に生き写しになってくる。


 一番最初、広隆は光子を値踏みするような目つきで見た。光子にとっても、それは覚悟していたことだった。自分がこの子とうまくやっていけるのか不安でもあった。


 だが、存外に広隆はあっさりと光子を受け入れた。結婚してからも広隆の態度は変わらなかったし、自分からすすんで広也の面倒を見てくれたので、光子はずいぶん助かった。ただ、広隆は光子を「おかあさん」と呼びはしなかった。決して。


 正広は明るくて優しい男で、その息子の広隆も正広と同じようだと、光子は最初思っていた。だが、だんだんと、正広と広隆の間には、大きな差異が存在しているような気がしてきた。

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