第17話




 しかし、一体どういうことだろう。広也は今までのことを順を追って思い返してみた。

 そうだ。自分はあの蛍のような光を追ってきて、ついにはこんなところまで来てしまったのだ。

「ねえ、僕は白い小さな、蛍みたいな光を追って来たんだけれど……えっと、その、心当たりないかな? 」

 少女は怪訝そうな表情で広也を見た。その目に見据えられて、広也はどきりとした。なんだか自分がひどく突拍子のないことを尋ねたような気がした。

 案の定、少女は心当たりがないと答えた。この分では、歌声のことをきいても返ってくる答えは同じだろう。  

 広也は大きくため息をつき、それから思った。もしかしたら、これは全部夢じゃないだろうか。白い光を追ってきたことも。山の中で道に迷ったことも。今ここにいることも。

 だが、夢で片付けてしまうにはあまりにリアルだ。山の中を歩き回った証拠として、Tシャツもジャージもスニーカーも泥まみれ汗まみれで、鼻を近付けるとちゃんと土の臭いもする。おまけに、先程山の中で転げ落ちた時につくった擦り傷もじんじん痛む。

(夢でも、なさそうだけれど……)

 さりとて、これほど現実離れした状況を、素直に受け入れる気にはならなかった。

「ねえ、ときわ。ねえったらねえ」

 難しい顔をして黙り込んだ広也のTシャツの裾を、少女がぐいぐいと引っ張った。

「ねえってば。ときわ」

「ああもう、少し静かにしてくれよっ。それに僕はときわじゃないってばっ」

 少し強い調子で言って、広也は少女を振りほどいた。だが、少女は少しもめげた様子を見せずに言う。

「あなたはときわよ。あたしはこの目で見たんだから」

「何を見たっていうのさ」

 いい加減この押し問答に嫌気が差した広也は投げやりな口調で問うた。

「あのね。この神殿に奉られているときわという岩はね、時が来ると人の姿に変わり、トハノスメラミコトを見出すと言い伝えられているの。その言い伝えの通りに、あたしの見ている前でときわは人の姿に変わったわ。急にときわから霧のようなものが吹き出して辺りが真っ白になって、それが晴れた時には、祭壇の上に岩ではなくあなたがいた」

 少女は一つ一つ、言い聞かせるように語った。

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