終話 零時
時計の針は六時二分を指していた。
今日は、週末の日曜日。
今日は、終末の日曜日。
世界の終わりが預言されている日。
だからといって、何も変わりはない。時間通りに起きて、妻と二人きりのこの家で向かい合って食卓についたばかりだ。
そうして、日常を始めて、そして全てを終えるはずだった。
「英くん」
妻は俺を呼んで、包丁を振りかざした。
その顔は、観葉植物に水をあげる時と同じ、何気ないものだ。
間髪入れずに繰り出される攻撃をコーヒーカップでかわす。
「どっなっ…?!」
「私があなたを救ってあげる」
首に一閃。刃には静かなる殺意が込められていた。
その時、ぷつりと何かが切れる感覚がした。
指輪が——!
瞬間的に思って、手を伸ばす。フローリングの床に跳ね返って、回転しながら飛んでいってしまう指輪。
この指輪だけは——!
無我夢中で指輪に飛び付き、しっかり握り込んだ。
すかさず斬撃が俺を襲い、「——っう」肩を負傷した。
右手で肩口を押さえながら、左手の中を確認する。
指輪は傷つくこともなく手中に収まっていた。
「ふぅ」
安渡で気が緩みかけたが、また攻撃の気配がして慌てて叫ぶ。
「加織! あれか! あれだろ……昨日、俺が皿洗うのサボったから…それとも、隠れてポテチ食べてたのバレてた…?」
「昨日の話はどうでもいいの」
そしてついに、能力を使った攻撃までが繰り出される。
音波に脳内を掻き乱されて、無我夢中で隣の部屋に飛び込み、そのままウッドデッキに飛び出す。引っ掴んだ靴を持ったまま、地下通路を目指した。
壁の向こうのフェンスの外には陽炎の様な人々の怨嗟揺れている。
俺は走った。取り返しのつかない苦痛はから目を背けて。
握り込んだ指輪が、手の中に確かな存在感を残す。
俺は地下通路を進んだ。階段をよじ登り、ハッチを開けた。
そうして、俺は再び、外の世界へと飛び出した。
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