第10話 翼

「いくぞ!」


 そう言って彼女は走り出した。


 目の前にある障害に向かって。


 実際、これで何度目だろう。


 跳ね返され跳ね返されを繰り返してきた。


 だが彼女は諦めなかった。


 身体は限界に達している。


 それでも彼女には確信があったんだ。


 必ず突破できると。


 そんな彼女の背中を僕は追いかけた。


 揺るぎない心をもつ彼女の背中を。


 今の僕に大きな力はない。


 でも彼女なら不可能を可能にするだろう。


 内に秘めた光は輝きを失わない。


 願いが変わることはない。


 真っすぐに一つの未来をみている。


 そして、ついにその瞬間はおとずれた。


 彼女の背中から現れる大きな翼。


 僕にしか見えない希望の翼。


 障害は彼女の熱い想いに耐え切れず消し飛んだ。


 跡形もなく完全に。


 奇跡は起きた。


「言っただろう? 必ずできるって」


 そう言って笑う彼女の笑顔は太陽だった。

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