Encounter witch the Unknown<読み切り>
金木 惺
#1 A fateful encounter ~運命の出会い~
高層ビルが建ち並び、眼下には人々が日常を謳歌しようと忙しなく行き交っている。
北欧風の美女が風によって靡く金色の長髪を手で軽く押さえながら周囲を見た。
「……どうやらこの辺りのようね。確かに微かに魂の痕跡を感じるわ」
そう言うと女性はビルの屋上に設置されている手すりを乗り越え、静かに目を閉じ感覚を澄ました。
「……あっちのようね」
女性は瞼をあげるとなにかを感じ取った方角を向きながら静かに呟いた。
女性は脚に力を込めるとビルの屋上の小さな足場を軽く踏み込んだ。
トンッと軽やかな音の後には薄っすらと淡い光が立ち昇り女性は何処かへ消えていた。
光の残滓が煙のように風に流され上空へと舞った。
*
半年程前、僕は初めて不思議な光を見た。
場所も何か特別なところとかではなく、都内のいたって普通のマンション内にある自分の部屋の窓からたまたま見えた。
雲は一切なく晴れた夜で、都内にしては珍しく星も見えた。
都内で星なんてそんなに見える事もないし、見えたとしても精々4.5個程度なのにその日はどう言うわけか本当にたくさんの星が見えた。それが珍しくて部屋の電気を消し、真っ暗にしてから軽い天体観測をする様に星空を眺めていると、ソレは突然現れた。
瞬く星の光の中に一つだけおかしな光があった。その光はゆっくりと上昇をすると今度はゆっくりと下降を繰り返し行い、上昇下降をしながらも右左へ移動もしていた。
その行動を数分繰り返すと光は徐々に上昇していきながらパッと消えてしまったのだ。あれがいわゆる
幽霊を信じている人は割と結構いるのかもしれないけど、
僕も幽霊は結構信じてる気がする。夜に街灯の少ない道は普通に危険ってのもあるけど、もしかしたら出るかもしれないと思うとあまり通りたくないし、心霊スポットと呼ばれるところも憑いて来たら嫌だし、それで何か悪い事が起こっても嫌だからできれば行きたくないと思ってる。
UFOも宇宙人も決していないとは思ってない。だけど多分自分が生きているうちに光の剣を持って戦うような宇宙戦争は起こらないだろうし、別の惑星の生命体に侵略されるような事もないと思う。仮に侵略されても大金持ちの赤いアイアンスーツを着て戦う人もいなければ、氷漬けにされていた正義の超人もいないし、神話の世界の神様なんて当然降りて来ないだろうから、どの道そうなったら負けるだろうなと思う。
けど自分の知らない世界があるんだなって言うのは最近わかった。
身近な知らないはいっぱいある。芸能界の事もテレビでの事しか知らないし、政治の事なんか授業で習いはするが、今現在なにが行われているのかなんていまいちわからない。
極端な話、自分が気になる子の事なんてほとんどわかってない。学校で会えば話もするし連絡も取り合うし、たまに共通の友達を含めて数人で遊んだりもするけど、その子が何が好きなのかとか逆に嫌いなこととかそんなに知らないと思う。
渋谷の繁華街を物想いに耽りながらスクールバックを肩にかけ歩く少年がいる。
繁華街は相変わらず人々が忙しなく行き交い、その光景が名物となるくらいだ。
だけどその中には不釣り合いなモノもある。
「…またあの黒い影だ」
ブラウンの髪に学ランを着た少年は小さく口にしたが当然誰も気にも留めない。
目線の先には黒い影がゆらゆらと揺れながらただそこに佇んでいる。
あの不思議な光を見て以降、僕の中の何かが変わった。
チャクラに目覚めて忍術が使えるようになったりも、気を操って手から気弾も出せない。
だけど不思議な影を見るようになった。
その影は街の至る所にいるわけじゃなく、たまに街中や時には学校で見る事がある。その程度。
別にこれが、霊感とかじゃないとは思うけど幽霊が見えるとしたらこんな感じなのかなって少し思うようにもなった。
もちろん見えたからと言って何かできるわけじゃないし、ただ見えるだけで特殊な力もないから気が付いても僕にはどうする事もできず見て見ぬフリしかできない。
だから特にどうする訳でもないが、ただジッとその黒い影の様子を眺めていると、黒い影は痩せ細った様な腕を伸ばし始め、近くを通りかかったサラリーマンに触れようとした。
「…おい!!」
思わず叫んでしまった。
周囲の人達は突然大声で「おい!」なんて言った少年を当然変な目で見てくるが少年にとってはそれは些細な事だ。
あの黒い影が誰かに触れようとする瞬間を今まで一度も見た事もなかった。
もしアレがサラリーマンに触れてしまった事によってサラリーマンが突然暴れ出したり、もしくは死んでしまったらどうしようと思うと間違ったことをしたとは思わない。
声が届いたのか黒い影は触れる手を止め、サラリーマンは何事もないかの様にスマホで誰かに電話をしながらこの場を後にした。
「ふぅ……今のなんだったんだ?」
安堵の気持ちがドッと押し寄せ思わず深く息を吐いていた。
少年は黒い影を見つめながらなぜ影はあのサラリーマンに触れようとしたのか考えたが、そもそもあの黒い影がなんなのかがわからずたいした答えが出ずにいると、黒い影は
少年もその様子をジッと見ていると、どういうわけか目も鼻も口もない真っ黒の顔と目が合っている様な感覚に襲われた。
「あー…もうほんと最悪」
黒い影はゆらゆらと揺れながら徐々に距離をつめて来ているのがわかり、少年は直感的に危ないと思いすぐさま反対方向を向き直ろうとするがどういうわけか身体を動かせない。
「!?」
声を出そうとするが喉の奥で言葉が詰まってしまい声が出ない。
何が起こったのかわからず周囲を見たいが視線は黒い影に固定されてしまい動かせない。
そうしている間にも黒い影は僕の方へ蛇のように身体をくねらせながら距離をつめてくる。
黒い影と少年との距離はわずか2メートル程しかなく、何もないはずの顔から笑みが溢れた…そんな気がした。
「……n………n!…n…!………n…!」
叫びたいが声の代わりに虚しく空気が漏れ出るだけで、どうにか身体を動かそうとするが身体はピクリとも動かない。
そして少年に触れようと黒い影は痩せ細った腕を伸ばした。
キンッ!と音を立て少年と影の間に境界線を作る様になにかが地面に突き刺さった。
当然空から何かが落ちてくれば騒ぎになるはずなのだが、周囲の人は上空から飛来したモノに気がついていないのか何事もないかの様に素通りをしていく。
直後、鈴の様な綺麗な声音が背後から響き渡る。
「
その言葉を合図に騒がしかった渋谷の街が一気に静寂に支配された。
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