第五話② やっぱお前なんか大っ嫌いだァッ!!!
やがて飲み会もかなり進んだ。みんなお酒が回り、最初に座っていた席も関係なくなり、自由に立ち歩いて好き勝手にやっている。
主に騒いでいるのは、リンさんとカズヤの二人だ。グビグビ飲む彼女に負けまいと、カズヤもドンドン飲んでいっている。大丈夫かアイツ?
ヨイチさんはそんな彼らのおかわりの注文に必死になっており、ジュンジさんとウラニアさんはそれを眺めながら笑っている。
キョーコは届いたおつまみの全員分を小皿に分けて配ったり、ヨイチさんのお手伝いをして注文を受け取ったりしていた。
「いやー、君みたいな男の子がまだいたんだねー! ヨイチは全然飲まないしさー、いっつもお小言ばっかで退屈なのよ、全く!」
「オレもリンさんみたいな飲める人、初めてっす!」
「先輩! お小言ってなんですかお小言って!? 先輩がしっかりしてくれないから、いっつも僕がフォローしてるんじゃないですか! あとカズヤ君に無理にすすめないでください! ハラスメントですよそれッ!」
いつの間にかカズヤはリンさんと肩を組んで揺れており、ヨイチさんがそれを咎めている。
「気が合うわねカズヤ君ッ! どう? 私のお婿さんに来ないッ!?」
「い、いやー、その。自分、まだ学生っすし。俺には心に決めた人が……」
「は? 何よ、それ……君もそうやって、私を置いていくのね……うわーん! どうせ私なんか―!」
「……えっ? えっ!? き、急にどうしたんすかリンさんッ!?」
「ああもう! 先輩の面倒くさいスイッチが入っちゃったァァァッ!」
鬱モードに入ったリンさんが一気に暗くなり、ヨイチさんが必死にフォローを始めている。カズヤもいきなり態度が変わった彼女を見てオロオロとしており、とりあえず声をかけているみたいだ。
「はっはっはっはっは。良いですね、飲み会というのは」
「そうですね。楽しそうで何よりです」
「ウラニアさんも混ざれないのが、本当に残念ですなぁ。ところでそちらの世界にも、お酒はあるのですか?」
「はい、ありますよ。こちらのビール、美味しそうですよね。私達の世界にはありませんが、代わりにこういったお酒が……」
「ほほう……」
ジュンジさんとウラニアさんがそれを眺めながらお話している。内容も世界間の文化の違いっぽい話ので、結構面白そうだった。
そんな一方で、俺だが。
「ちょっとユウ! あたしの話聞いてんのッ!? 何一人で気取ってんのよ、ユウの癖に生意気よッ!」
「だから何の話だっつってんだろうがァッ!?」
「ユウちゃ~ん。わたし~、酔っちゃったみたい~……」
「嘘つけェッ! オメーが酔い潰れてるとこなんざ見た事ねーぞッ!?」
顔を真っ赤にしてひたすら俺に怒鳴ってくるエルザと、普通となんら変わりないままに酔ったフリをしてこちらにもたれかかってくるキョーコの相手をしていた。
いやゆっくり飲ませろよ、なんでこうなるんだよ。
「信じらんないッ! あたしの酒が飲めないってのッ!? あたしの話を聞きなさいよッ!」
「聞いてるっつってんだろうがッ! 酒ぐらい自分のペースで飲ませろやッ! で結局話って何だって聞いてんだろうがァァァッ!」
酔っ払うと同じ事しか言えなくなるのか、エルザはずっとこうやって怒っている。
「ねぇ、ユウちゃ~ん……暑く、ない……?」
「暑くねーからッ! って何で俺を脱がそうとしてんだオメーはよォォォッ!?」
そして何故か人を脱がそうとしてくるキョーコである。何、何なの? 男を脱がせるとかどこに需要があんの?
すると、座ったままあーだこーだとやっていた俺の頭の上に、ストンっとエルザが自分の頭を乗せてくる。以前の吐かれた記憶を思い出して思わず身構えた俺だったが、彼女の口から出たのは意外な言葉だった。
「……ホントにありがと、ユウ……」
その言葉を聞いた俺は、思わず固まってしまう。改めてそう言われると、胸の辺りにむずかゆいものがあったが、それでも嬉しいことは確かだった。
「……こんなあたしだけど……これからも、よろしくね……」
「……ああ。よろしくな、エルザ……」
まあ、誰しも許せないことだってある。そりゃ、簡単にはいかないだろう。俺だってそうだ。
だけど、一つでも許してやれるようになっていければ、少しは、俺も、大きくなれるかな?
だろ? 天国の婆ちゃん。馬鹿な俺でごめんな。ちゃんとできるとこ、婆ちゃんに見せられなくてごめんな。
でもよ。俺、ちゃんと進んでくからさ。見守っててくれよ、な?
あの小さくて大きな背中にちょっとでも追いつけるように、俺、頑張るからさ。
「……オロロロロロロロロロロロロロロ……」
でもやっぱ、人の頭の上でゲロるエルザは許せねぇ! 二度目だぞこれでェッ! せっかく良い雰囲気だったのに一気に台無しにしやがってェェェッ!
「……くー……スピー……」
しかもスッキリした顔で鼻ぢょうちん出して寝てやがるとこまでキッチリ再現しやがってよォ、このアマァァァッ!!!
「……やっぱお前なんか大っ嫌いだァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
なるべく誰かを許していこう。でも人の頭の上でゲロるコイツは許さねぇ。
そんな決心をした俺の絶叫が、居酒屋に響き渡ったのだった。
―― 第一章、完。
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