流刑地
阿紋
流刑地にて
寒々とした海が目の前に広がっている。暖かい気候に慣れてしまっていた体には苦行の日々が続く。これならまだ刑務所にいたほうが良かったじゃないか。あそこは温暖な土地に立っていて、それなりに自由でいられたから。断然ここにいる方が窮屈なのだ。
「そんなはずないですよ、秋斗さん」
シスター加藤は、微笑みながら僕にそう言う。
「だいぶ痩せちまったから、これまで以上に寒さがこたえるんだ」
「いいじゃないですか。あたしなんて痩せようとしても痩せないのに」
「骨身に染みるんだぜ。なって見ればわかるよ」
シスターは僕の言ったことには答えずに、ただ微笑んで僕を見ている。
「何でそんなに楽しそうなんだ」
「何か言いました」
小声のつぶやきにシスターが反応する。さっきはスルーしたくせに。
「いや何も」
僕はそう言って、シスターから目をそらす。
健康上の理由、療養のため。などと、何やかやと理由をつけられて僕はここに預けられている。島流しのようなものだ。僕はただおとなしく、時が過ぎるのを待つ。性犯罪の再犯率は高い、ということらしい。それなら、シスターを僕のそばに置いておいていいのか。シスターといってもまだ学生で、この教会の手伝いをしているボランティアのようなもの。便宜上シスターと呼ばれているだけ。ここに居るときだけそれらしい格好をして、ここを出るときは短いスカートをはいて出ていく。本当に寒くはないのかと思うくらい。たとえ性犯罪者じゃなくても、シスター加藤のあの格好には反応してしまうだろう。ましてや彼女はあの子によく似ているのだ。僕が今ここに居るきっかけになったあの子にだ。まわりの大人たちは何も言わないのだろうか。本当にシスター加藤だけなんだ。他はみんな人生を半分あきらめた人たちばかり。女だろうが、男だろうが。僕と彼女だけなんだ。
「本当、何を企んでるのか」
都会から僕の様子を見に来た役人の女性は僕の前でポツリと呟く。彼女は今この村にいる2番目に若い女性だ。といっても40を過ぎて、シスターと同じくらいの子供がいるという。そして彼女もまた、体にぴったりと張り付くスーツを着ていた。まあ彼女に関しては、僕なんかよりも、この村のじいさんたちのほうがニヤついている。
「誰も何も企んじゃいないですよ」
別にどうでもいいことだけど、僕はそうミセス葉子に言ってみた。
「ミスでいいのよ。離婚しているので」
何かそれは、さらにどうでもいいことじゃないか。どうして自分がまだ雌だということをアピールするのか。ミセス葉子は僕を見て、ニヤリと笑った。
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