第24話 まさかそんなところに!?

 


 地響きをたてながらオーレスワイバーンの巨体が巨大な枝や骨などで作られた巣を破壊していく。

 砂煙が立ち、ワイバーンを見失うほどではないけれどやや視界が少し悪くなった。


「いっつつ」

「大丈夫?」


 砂煙を浴びて少しほこりをかぶった兄がこちらに近づいてきた。頭上に表示されているHPバーが半分以下まで減ってしまっているので、完全に回避できたわけではないようだ。


「んあ? あぁ、大丈夫大丈夫。回避しきれなくてダメージはくらったけど、回復できる範囲だから」

「そう」


 ボイチャを使う必要がない距離なのでそのまま声をかけたのだけど、どうやら兄は私の近くに来ていたことに気づいていなかったらしく、少し驚いた様子で返事をしてきた。


「あれ、大丈夫だと思う?」

「あれって?」

「巣が壊れているの」


 回転に巻き込まれかけたことではっきり見ていなかったのか、兄は巣が壊れてしまっていることに気付いていなかったようだ。


「あぁ、あれか。うーん…まあ、おそらく問題ないんじゃないか? 変にポリゴンが散っているわけでもないし、想定された挙動な気がする」

「…なるほど」


 確かにそうかもしれない。本当にバグだったらあんな風に砂埃が舞ったりはしないはずだし、壊れた際に飛び散った枝とかも変な動きはしていないから、最初から壊れるようになっていたということか。


 でもロックワイバーンたちは頑なに巣を破壊しないように戦っていたから、オーレスワイバーンもそうだと思っていたのだけどそうではなかったのかな。


「とりま同じところに居たらまずいから離れるな」

「あ、これ」


 ポーチから取り出した下級ポーションを兄に渡す。100くらいしか回復しないものだけどないよりはましのはず。それに無理を言って来てもらったのだからこれくらいはしないと。

 【回復魔法】が使えればそっちの方がいいのだけどね。


「え? まだ……いや、貰っておくわ。ありがとう」

「ん」

 

 そう言うと兄はポーションをあおりながら一気に離れていった。


 兄を見送ったところでオーレスワイバーンが砂煙の中から出てきた。

 あとどれくらいで倒せるのかとHPを確認しようとしたところで、明らかに先ほどとは異なるオーレスワイバーンの雰囲気に少したじろぐ。すぐにHPを確認してみればすでに3割を切っていた。


 まずい、失敗した。兄の行動に気を取られて確認するのを忘れていたけど、HPの残り具合からしてこれは特殊行動の兆候だ。


『特殊行動注意!』


 まだ回復中のため、オーレスワイバーンの様子に気付いていない兄に警告を飛ばす。


『え、マジで。マジだ!』


 今の状態は完全に兄へオーレスワイバーンのヘイトが向いている状態だ。HPが完全に回復していない状態で今攻撃を食らえばどうなるかなんて考えるまでもない。

 

 オーレスワイバーンの視線が兄を捉え、咆哮を上げながら今まで以上の速度で兄へ向かって走り出した。


 今までは走って突進を繰り返す動きとは異なり、ただ走って突っ込むだけでなく、翼を使って広範囲に攻撃を繰り出してきたワイバーンから必死に兄が逃げる。しかし、鈍重っぽい見た目ではあるが巨体ゆえの一歩の大きさから、AGI高めのステータスである兄との距離が一気に縮まっていく。


『うおおおお!? 今まで以上に殺意マシマシじゃねぇか!』


 例えるなら今まではとりあえず、突っ込んで押しつぶせば倒せるだろう、という激オコ状態であっても若干の驕りがあったのだけど、今は壁に追突せず追走し続けていて、明確にあいつを殺すといった殺意があるのがわかる。


 まあ、背中に乗られて一方的に攻撃されたらこれくらい殺意が芽生えてもおかしくはないと思うけどね。


 しかし、オーレスワイバーンの残りのHPと残りの時間を考えればぎりぎり討伐可能な範囲。ここで兄が死んでしまうと、どうにもならなくなるのは確実。だけど、オーレスワイバーンにとって背中に乗られて攻撃されるのは相当嫌なヘイトを買うことだったらしく、どうにかしたいのだけどなかなかヘイトが兄から剝がれない。


 兄が逃げるのに必死でろくに攻撃が出来ていないのに、オーレスワイバーンはこちらをほとんど見てこないのは相当だ。

 攻撃を当てれば多少反応はしているけど、その一瞬だけでまた兄に襲い掛かっている。


 リスクなくダメージを稼げているのは良いけど、このままだといつか兄は攻撃を躱せなくなる。そして完全にHPを回復しきれていない兄が今攻撃を食らえば致命傷になりかねない。


「ん?」


 兄からヘイトを剥がすために援護をしていると、オーレスワイバーンが自ら壊した巣の場所に目立つ何かがあることに気付いた。


 巣があった場所に何かある? はっきり見えないけど岩っぽい? もし岩だったらすごい不自然な場所にあるけど。

 

 それが少し気になったので、攻撃をしながら移動しその岩っぽい物の近くまで来てみると岩だと思っていた物の正体が分かった。


 岩の上に表示される逆三角形。採取ポイントだ。


 なんでこんなところにこれがあるのか。

 一瞬そう疑問に思ったけど、フィールド上にあるものを破壊したら採取ポイントが出てくるのは割とあることだと思い直した。

 そして、こうやってギミックを解除することで出てくる採取ポイントは、総じてレアアイテムが手に入りやすい。


 何が出てくるかわからないけれど、これってログアウト時間前にこいつを倒さないと採掘できないのよね?

 次にログインした時まで巣が壊れた状態である保証もないし、基本的にこの手のギミックってエリアチェンジして戻ってきたら元通りになっているのが多いわけで。

 まあ、UWWOならすぐに元に戻るってことはないと思うけど、それは絶対じゃない。


 巣である以上、元に戻らないってことはないだろうから、確実に採掘するのは意地でもログアウトまでに倒しきらないといけない。

 オーレスワイバーンと兄のことを無視すれば採掘できないこともないと思うけど、さすがに助けに呼んでおいてそれはよくないよね。


 うぅむ。またログアウトまでにオーレスワイバーンを倒さなければいけない理由が増えた。




 ―――――

 ロックワイバーンが巣を壊さないように戦っていたのは、戦う理由が巣と卵を守るためであり、オーレスワイバーンは自分のテリトリーに入って来た相手を排除するのが目的のためロックワイバーンとは戦う理由が違う。そのためオーレスワイバーンにとって巣を守るのは二の次になっており、場合によっては自ら巣を破壊する。

 

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