第20話 呼び出し
アルス鉱石って私が前にガチャチケで手に入れた鉱石セットの中に入っていたものだよね?
もう一種類あるけど、どちらも手に入る場所がわからなかったから一切手を出していない鉱石素材だったのだけど、アルス鉱石の方はこいつから採取できるわけか。
説明を読んだ限り、このオーレスワイバーンからしか採取できないってことはなさそうだけど、特定の特性っていうのはこいつみたいに体に鉱石を纏っていることを指すのかな。いや、生成されるってことだからもしかしてこいつ鉱物食?
いや、まあそのあたりはどうでもいいか。
よく確認してみれば鉱石と思われる石がオーレスワイバーンの付近にちらほら落ちているのが見えた。
今私の足元に転がってきたものと同じように体に付いていた物が衝撃で外れたのだろう。
拾いに行きたいところだけど、オーレスワイバーンが倒れてもがいているから雑に近づくと巻き込まれるかもしれない。
ダウン状態になっているとはいえ、ぐったりしているわけではないからね。某狩ゲーみたいな感覚で近づくと体の一部が当たってダメージどころか吹っ飛ばされかねないのだ。というかサイズからして下手すれば死にかねない。
ちょっと遠くに飛んだものは回収できそうだからするとして、どれくらいでダウンから復帰するのだろうか。
体が重そうだから少し長め……あ、ダウン状態から復帰したみたいだ。
のっそりと、しかし今までよりも少し機敏に動いているような気配がするオーレスワイバーンが立ち上がる。
「グギャオオオアアアアアァア!」
怒り心頭、といった咆哮を放つとすぐにこちらに向かって突進を開始した。
ダウン状態から復帰するまで30秒といったところかな。正確には計っていなかったからちゃんとした数値ではないけれど、ざっくりそのくらいだと思う。
数字にするとかなり長く思えるけど、勝ちにつなげられる長さか、ってなると微妙な時間。
コントローラーを使ってプレイするゲームだといろいろできる時間ではあるのだ。ただ、自分が実際に動いてするゲームだと体感時間って全く違う。
ポーションを飲みながら次に使うアイテムをインベントリの中からピックアップするとか、できる人もいるらしいけど私にはできないし。
今までよりも速い速度で突っ込んできたオーレスワイバーンを、これまでよりも大きく横へ回避する。
「ガアアァア!」
オーレスワイバーンの状態が『怒』から『激怒』状態に変わっていたから、何かしら行動パターンに変化があると踏んでいたのだけど、案の定、今までの突進とは異なり、私が回避した方向へほんの少しだけ進路を変えてきた。
【看破】スキルを使っていなかったらこの辺りは気づけていたか微妙なところだよね。
咆哮した時の様子からして、今までよりも怒っていることはわかるのだけど、状態が変化している部分はわからないし。
気づきやすい部類ではあるけれど、たぶんこの変化は初見殺しとかその類の変化だよね。ギリギリで回避して攻撃をするタイプの近接職プレイヤーだと、気づいて回避できなかったら致命傷になりかねないし。
思い返せば最初のオルグリッチ戦。途中で翼での攻撃を躱しきれなかったのも今みたいに状態が変化していたからだろうし、あの時から【看破】スキルを使っていたらギリギリ躱せたかもしれないのだよね。
そんなことを思い返しながらオーレスワイバーンの動きを見てもう1つ、先ほど足元に転がってきたものと同じ鉱石らしきものを拾い上げる。
【鑑定】を使って確認してみれば先ほどと同じアルス鉱石が表示された。
こうなると見た目も同じだし他のやつもアルス鉱石っぽいね。また同じように爆破したとして同じように鉱石が取れるかはわからないけど、これはもう少し欲しい。
少量とはいえ魔力を含むと説明されている鉱石だ。武器などに使えば良い効果がのる可能性は高い。
魔力云々の説明がされている鉱石は今のところ他に存在しない。魔石は石とついているだけで鉱石ではないし、一般的な素材とは違うのかそのまま使うと微妙な結果にしかならない。おそらくちゃんとした使い方があるのだろうけど、今のところそれは知らない。
差し当たって、再度怒り心頭といった咆哮を上げながら、突っ込んできているオーレスワイバーンからさらに鉱石を手に入れる方法を考えなければ。
倒せるなら倒したい。そうした方が手に入る素材が多いのだから当然。しかし、現状易々と倒し切れるほどの火力もないし、さらには時間もない。
残りの爆弾を使ってアルス鉱石を手に入れる。
まあこれが一番妥当なところ。ただ、2回目はともかく3回目が当たるかどうかはわからないし、同じようにアルス鉱石が手に入るかも不明。
先ほど右足だったから、今度は左足に当てれば同じようになるとは思うけど。
ただそれだけだと物足りないというか、絶対足りなくなると思うのだよね。見まわした限りさっきので落ちた数は10もいっていないのだから。
エンチャントしないとしても最初の一回でいいものが作れるとは思えないし、ある程度試行できるだけの数は確保しておきたい。
次に遭遇するのがいつになるのかもわからないし、今より状況がいいとも限らない。
やっぱり今こいつを倒した方がいいよね。となれば、あまり使いたくはないのだけどあれを使うか。
そう判断して鉱石拾いとちまちま攻撃していた手を止め、ウィンドウのチャット画面を開く。
それと同時にある機能をオンにした。
アユ:ヘルプ
アユ:手伝って
チャット画面にそう書き込んで返事を待ちながら怒り狂っているオーレスワイバーンの相手を続けることにする。
ログインする前にこれからの予定は聞いていたから、急遽予定が変わっていない限りどうにかなるはず。
うまくいけば倒せる可能性は上がるし、場合によってはより多くの素材を手に入れることもできるかもしれない。
―――――
どこかで説明したような、していないような記憶があいまいですが、UWWO内でのワイバーンとドラゴンの区別は翼腕であるかどうかで区別されています。翼腕である方がワイバーン(二足歩行)で、翼と腕が分かれている、もしくは翼がないのがドラゴン(四足歩行)になります。
なお、ドラゴンはワイバーンの上位種扱いですが、必ずしもドラゴン>ワイバーンというわけでもないです。上位のワイバーンは下位のドラゴンよりも強い種類は存在しますし、上位のドラゴンであっても条件次第ではワイバーンの方が強いこともあります。
まあ、上位種だけあって最上位になればどのような状況であってもドラゴンの方が強いのですけどね。
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