第48話 フィールドギミック

 

 幻視。

 ギルド書庫で幻視毒のレシピを手に入れた時にどのような状態異常なのかは、その段階でヘルプに記載されているので把握はしている。

 幻視の状態異常は、本来存在しないものが見えるようになるというもの。しかも触れた感覚もある程度再現されるらしい。

 さすがに幻視で見えているエネミーからの攻撃でダメージを負うようなことはないだろうけど、触れたような感覚を覚えるとなると、すぐさに気づくことは難しいかもしれない。


 それで目の前にいるモンスター、もとい、もンスターでNAMEがファントム・パイソン。NAMEの方も『・』で区切られているのもおかしい気がする。今までこうやって区切られているエネミーは一体もいなかったからね。

 

 うん。このパターンで言えば実は本体はずっと小さいサイズだったとか、他の場所にいるとかそんな感じのやつだろうね。NAMEにファントムって入っているし。ああでも、【鑑定】で表示される情報もおかしくなっているし、もしかしたらNAMEも本来のものとは違うのかもしれない。


 となると、さっきから回避していた攻撃は食らってもダメージは受けない可能性は高いかな。攻撃が当たらずにすり抜けたりする……いや、でも、こちらの攻撃が相手のどこに当たってもダメージは入っているから、存在していないというわけでもないのかも? それともそれも幻視の効果でダメージを与えているように見えているだけなのか。


 実体がなければ問題ないけど、あった場合それを確認するために回避せずに攻撃を喰らうのは危ないかも。

 完全には回避せず、軽く当たるように回避してみよう。それでダメージを受けなければ目の前に存在している大蛇は、幻視によって見せられているだけの存在ということになる。そうではなかったらダメージを食らうことになるのだけど、直撃でもない限り一撃死はないはず。


 ダメージが入る可能性も考えてなるべく回避しやすい攻撃が出るまで攻撃を躱し、大ぶりの噛みつき攻撃が来たのでそれを少しだけ手が当たるように擦れ擦れで回避してみる。


「あっ」


 予想とは異なり蛇の頭が手に当たったことで腕が弾かれ、私のHPバーがわずかに減った。


 とりあえず実体はあるらしい。常に実態があるのか攻撃の時だけ実態があるのかは不明。こちらの攻撃が常に当たっているので、前者の可能性が高そうだけど。

 しかし、手を態と当てただけとはいえ巨体による攻撃なのにダメージが少なすぎるのが気になる。


 さすがに一桁ってことはないけど十数のダメージとなるとマザーコットンクラスの攻撃力しかないことになる。当然、掠っただけなのでイコールになることはないけど、腕が弾かれるくらいの衝撃はあったのでそれを考えるとかなり低い。


 うーん。耐久値が高くて攻撃力が低い。嫌がらせエネミーとしてはなくはないのだけど、よくわからない相手だ。こうやって存在している以上何か意図があるのだろうけど、戦うだけではその辺はわからない感じだろうか。倒した後で周囲を探ったらわかる感じかな。


 まさか、これもハウスを手に入れるためのギミックの一部ってことはないよね? 倒したら手に入らなくなるとかはないだろうけど、戦っている最中に何かをしないといけない奴だったら面倒すぎる。

 すでにHPも半分は切っているから倒すだけなら難しくないのだけど、うーん。

 

 攻撃を回避しながらどうするかを考える。

 

 今のところ攻撃した感じからして、倒したら駄目といった様子はないのだよね。だから倒しても問題はないと思うのだけど……

 それに幻視の状態異常がスタック(10)から一向に減らないのだよね。この蛇を倒さない限りずっとこのスタックのままなのかもしれない。

 となれば普通に倒すのが正解かなぁ。


 結局、ヒントが無さ過ぎるからどんなに考えても答えはわからないし、倒してみよう。駄目だったら駄目だったで、もう一度やればいい。さすがにハウスを手に入れる依頼はあの本由来だからユニークだろうし、やり直しがきかないはないだろうからね。まあ、失敗したら一定期間何もできないとかはありそうだけど。


 ずっとここに居ても他のプレイヤーが来ないとも言えない。やると決めたならさっさと攻撃して倒してしまおう。


「シャドウニードル」

「シャァガア!?」


 ん、あれ? 思った以上にダメージが入ったのだけど?

 見たところファントム・パイソンのHPバーが全体の30%くらい減っている。もしかして影属性が弱点だったのかもしれない。いや、それにしてもダメージが大きい気はするけれど。


 まあ、さらに倒しやすくなったからいいか。

 影属性が弱点だとすれば、シャドウニードルのクールタイムが過ぎたらまた攻撃すれば良い。多分それで目の前の蛇のHPは尽きるはず。その前に他の攻撃で倒せてしまうかもしれないけど。


 そうして攻撃を回避しつつ牽制のための攻撃をし、シャドウニードルのクールタイムが終わったと同時に再度シャドウニードルを放つ。

 そしてその攻撃によりファントム・パイソンのHPは0となった。

 

 小さな音を立てて大蛇の体が草原の上に倒れ次第にポリゴンになって消えていく。他のエネミーとは違い、死亡した際にでるポリゴンが体全体から湧いていない上に倒れた時の音もそれほど大きくなかったので、やはり見た目の大きさと本来のサイズが異なっていたのだろう。


 しかし、倒したはいいもののドロップアイテムらしき物が見当たらない。それに大蛇を倒したところで特定のアナウンスは無し。少し特殊なエネミーだったようだが、【鑑定】の表記通りモブエネミー扱いらしい。


 今回の戦闘ログを確認してみれば、先ほどの大蛇を倒したことで手に入れたアイテムは蛇の抜け殻だけのようだ。他に今回手に入れた物はない。


 蛇の抜け殻の使用効果は、状態異常を一度だけ受け持ってくれる使い捨ての状態異常専用の身代わりアイテムで、悪くないアイテムではあるのだけど、これ1つだけだと割に合わないなぁ。

 周囲に何か落ちているかもと思ったけれど、そんなものは一切見当たらないし。

 それとあの蛇を倒したというのに幻視のスタックが未だに(10)のままだ。通常ならおそらく10秒で1スタックずつ減っていくはずなのに減る気配が一切ない。

 蛇を倒したのに状態異常が治らないということは、この状態異常の原因はあの蛇ではなく別にあるということで……

 もしやフィールドギミック?


 そうなると今はどうやっても状態異常を解除出来ないのだけど。今手に入れた蛇の抜け殻だって1回だけ受け持ってくれるだろうけど、またすぐに状態異常に掛かるだろうし……って、もしかしてこれを解除しないとどうやっても目印となる物が見つからなくて、ハウスが手に入らない流れでは?


 本来だったら幻視の対策をとった上でここにきて先に進める感じなのかな。少なくともWIKIには幻視の状態異常については一切記載されていないし、おそらく発見できているプレイヤーは一握りしかいない。


 多分本格的に幻視の状態異常が出てくるのはまだ先のことなのだろうね。少なくとも幻視毒の素材となるミレナイの花は見つかっていないし、幻視の状態異常を使ってくるエネミーもいない。さっき倒した大蛇もおそらく幻視の状態異常は使っていないと思う。

 こうやって何かを隠しているところにちょこちょこ出てくるくらいで、対策できるアイテムなり素材が手に入るのはまだ先とか、ある条件を満たさないといけないとか、そんな感じなのかもしれない。


 まあ、私は前に幻視耐性付きの装備を持っているから、それを使えば良いのだけど、普段使わないアイテムはギルド倉庫に預けているからインベントリの中には入っていないのだよね。それにその装備を付けて、スタック(10)を打ち消せるもわからない。でも試してみないことにはどうなのかはわからないし、とりあえず持って来て試すことにしよう。


 それでだめなら当分は諦めることになりそう。少なくとも幻視耐性を得られるアイテムや素材は現状手に入らないし、どうすることも出来ないからね。


 という訳でさっそく幻視耐性を持つ装備を取りにセントリウスに戻る。


 時間の関係で一度ログアウトを挟んでから、倉庫から取り出したそれを装備して再度この場所に戻ってくれば最初に見たやや背の高い草原は跡形もなく、しっかりと整備されたような背の低い芝が辺り一面に広がっていた。




 ―――――

ファントム・パイソンの弱点は多段ヒット攻撃。

蛇の抜け殻は身に着けていることで1度だけ状態異常を受けてくれるアイテム。別に装備枠に装備する必要はなく、防具に括り付けたり、装備しているポーチの中に入れておけば効果が発動する。※インベントリの中では発動しないし、フィールドギミック(効果)のように常時かかるような物には状態異常が無くなった瞬間にまたかかるので無意味。


他にも同じようなところが点在しており、アユと同じようにハウジングの依頼を進めているプレイヤーもいます。


なお、アユはセントリウスへ戻る時間を短縮するために1度死んでいます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る