第45話 不自然な場所は大体何かある
周囲の安全を確認してから一旦足を止める。
森の中ではあるけれど他の場所とは違い、ぽっかりと空間に穴が開いたように半径15メートル程の範囲に樹が生えておらず、代わりに倒木が無数に転がっている場所なので、それに腰を掛けて休憩するにはもってこいの場所だ。さらに周囲が比較的開けているので、あの犬に限らず奇襲を受け難い場所でもある。
こういった場所って森の中にちょこちょこあるのだけど、何のための場所なのだろうか。今私が使っているように休憩用に用意されているのかもしれないけど、他の用途があるとしたらちょっと気になる。
丁度いい高さの倒木に腰を掛けてマップを開き現在地を確認する。
マップを見ると本来進もうとしていた方向とは大分違う方向へ来てしまっていることがわかった。
ということはプレイヤーにつけられていることに気付いた場所よりも目的地から遠ざかってしまっている、ということでもあるのだよね。これはログアウトの事を考慮すると時間的に厳しいかな。
まさかあそこでフィールドBOSSに遭遇するとは思っていなかったから、逃走する方向を気にする余裕がなかったのだ。
シャドウダイブであのプレイヤーたちの視線とマップを振り切った後、見つからないように本来進む予定だったルートを外れて遠回りすることを選んだのだけど、その先でこのエリアのフィールドBOSSであるグランドディアに遭遇する何て想定していなさ過ぎた。
グランドディアの遭遇報告があった場所は街道跡がある場所だけと、WIKIと掲示板で調べた時にそう載っていたからそうだと思っていたのだけど、そうではなかったらしい。
まあ、鹿なのだから森の中で出てもおかしくはないのだけど、今まで出てこなかったのはどういう事なのか。
何か条件があった感じなのかな? いや、単純に森の中でも浅い場所では出ないようになっていたとかそんな感じかもしれない。
……まさか、あのハウスに行く時に必ずエンカウントするようになっているとかはないよね? ……さすがにそれは無いと思いたい。
そう言えば、グランドディアにエンカウントした時、少ししてから何故か一瞬体が硬直したのだよね。すぐに確認するべきだったのかもしれないけどそんな余裕はなかったし、硬直が解けてすぐに攻撃されたから忘れていたけど。
あの時、一撃目はどうにか回避できたのだけど、2撃目がどうにも避けることが出来なかった。その所為で吹き飛ばされてしまったのだけど、その攻撃でHPが6割近く消し飛んだのは本当に驚いた。
まあ、私のステータスの中で装備でのアップ分を除けばVITが一番低いから変って程でもないのだけどね。それでもコートを新調したことで今までよりVITが上がっていたから、あそこまでダメージを受けるとは思っていなかったのだけど。
気になったのでウィンドウを開いて戦闘ログを読み返していく。
戦闘ログを少し遡って確認していると、スタンの状態異常になっていたことがわかった。
やっぱり状態異常を食らっていたのか。
あの時、戦う戦わないにしても一回は【鑑定】しておかないとと思ってグランドディアのことを見た瞬間にスタンの状態異常を食らって、そのスタン中にグランドディアが一気に接近してきて、攻撃をして来たってところね。
硬直した時に何かのスキルを食らった感覚はなかったのだよね。何のスキルを食らったのだろうか。もとから戦うつもりがないからと、グランドディアの行動とか攻撃方法をあまり確認してこなかったのが今回の失敗どころかな。
次に遭遇した時には気を付けないとまた同じことの繰り返しになりかねない。しっかり調べておかないと。この森で活動するならいつエンカウントするかわからないし、備えておかないと駄目だね。
それと一応気にはしていたのだけど、最初に確認した時にいなかったからと後を追って来るプレイヤーのことを意識の外に持って行っていたのも良くなかった。
吹き飛ばされた時にチラッとあのプレイヤーたちらしき影がみえた気がしたけど、あの後どうなったのだろうか。私の方にグランドディアの攻撃が来なくなっていたからヘイトがあっちに移ったのだろうけど。
うーん、まあ気にしないでもいいか。あそこにいたのはあのプレイヤーたちの意志によるものだし、それに私は関係ない。
まあ、結果的にMPKっぽい感じになってしまったけど、意図的にやった訳でもないしPKしたって判定も食らっていないから大丈夫ってことだよね。
さて、出来れば一回でハウスがある所に到達したかったのだけど、ログアウトの時間的に今からハウスがある場所に向かうのは難しいから一回廃村へ戻ることにするかな。
たぶんここから移動して時間内にはハウスがある付近には到達できるとは思うのだけど、その後どうなるのかがわからないからね。流れによっては、すんなりハウスが見つからないってこともあるだろうし、そうなると安全にログアウト出来ないかもしれない。
まあ、素材も結構集まったしリスポーンでセントリウスに戻るって手もあるのだけど、そうすると今まで稼いだ経験値と熟練度が減ることがわかっているから、これは最後の手段って感じだよね。
ここまで来ておいて若干未練があるけれど、ここは素直に安全にログアウトできる廃村まで戻ることにしよう。
腰掛けていた倒木から腰を離す。
そして、気分を切り替えるために一度グッと背筋を伸ばして少しストレッチをしたところで、倒木と倒木の間に何かが埋まっているのが見えた。
んん? あれ、石……にしては表面が滑らかすぎるような? 土の中に埋まっている感じだから全体がよくわからないけど、何か人工物っぽい? 違うかな。
気になったので近付いて確認してみる。
ただ、奇襲目的で近付いて来たエネミーの可能性や何か触れたら危ない物の可能性があるので【感知】を使い目の前のモノがエネミーなのかそうでないのかの確認をする。
……特に反応なし。少なくとも【感知】の反応を見る限りエネミーではない様子。
今度は【鑑定】を使って確かめる。
[(不明)遺物 Ra:- Qu:-]
正体不明の遺物。全体の大半が埋まっており全貌が見えていないため、詳しい情報を鑑定することが出来ない。しかし、過去の遺物であることは確かである。
埋まったままだと【鑑定】出来ないのか。まあ、危険物ではなさそうだから掘り起こしてみようかな。たぶん大丈夫だよね?
【土魔術】の初期スキルである[アース]でその周囲に在る土を掘り、退かしていく。
少しずつ、なるべく埋まっている物が傷つかないようにゆっくり掘っていき、次第に埋まっていたものの全貌が見えて来た。
うーん。何か人型っぽいかも? 割れているというか折れているような感じの所もあるからなんとも言えないけど、もしかして人型のゴーレムかな。イスタットの坑道で採掘を手伝っているタイプのゴーレムよりはもっと人型に近い奴?
イスタットの採掘を手伝っているゴーレムは足が4本脚で、これは2本みたいだから用途の異なる別型かなぁ。
何でこんな場所に埋まっているのかはわからないけど、何時頃から埋まっていたのだろうか。
過去の遺物って鑑定したら出ているくらいだから結構前だと思うのだけど、あくまで過去の遺物なのだよね? 古代の遺物とかではなく。
そう考えると結構最近の物の可能性もあるかも。遺物って聞くと結構昔の物って感じになるけど、別にそれほど昔の物でなくとも意味は通じるし。
そうとなると100年前に起きたらしいスタンピードの時のやつかな。この辺りでも戦ったのかはわからないけど、それならゴーレムがここに残っているのもわからなくはないね。
今まで見たゴーレムは暴走しているのを含めて採掘用ゴーレムだけだけど、戦闘用のゴーレムだってあるだろうし、それに対応するJOBとかもありそう。
慎重に掘り進めること10分と少し。ようやく埋まっていた物を完全に掘り起こすことが出来た。
出て来た物は予想通りゴーレムらしき物。倒木の横で横たわった状態で埋まっていたので、深く掘らなくて済んだ代わりに結構な範囲の土を掘ることになって、そこで少し時間がかかった。
[(アイテム)ゴーレム(破損) Ra:Uc Qu:- Du:0/0 SAS:-]
壊れたゴーレムの躯体。損傷が激しく、どの用途で使われていたゴーレムだったのかは不明。躯体自体は修理が可能だが、コアが無くては動くことはない。
タイプ:人型・不明 コア:なし
修復用素材:石膏、銀、水晶
[(アイテム)ゴーレムコア(破損) Ra:Uc Qu:- Du:0/0 SAS:-]
ゴーレムを動かすためのコア。これがあることでゴーレムは主を定め、記憶し、指示を理解できるようになる。コアを作る際に使用した素材のRa・Quに応じてゴーレムの性能が変動する。このコアにはダイヤモンドが使用されているようだ。
このコアを砕くことでダイヤモンドを取り出すことができる。
修復用素材:ダイヤモンド、金
埋まっていたのはこの2つ。
コアはゴーレムを掘り出している時に近くに埋まっていたらしく一緒に出て来た。おそらくこのゴーレムの物だろう。
そして掘り出したゴーレムは説明通り胴が上下に割れていて腕も折れていたり、、欠けていたりする部分が多く、人型であったことくらいしかわからなかった。ただ、見る限り割と細身なので戦闘用のゴーレムではないのかもしれない。
コア以外にも何か一緒に埋まっていればもう少しわかったのかもしれないけど、そういう物もなかったのだよね。
それにしても修復するのに必要な素材がキツイよ。
石膏は簡単に手に入るし、銀も委託にある時が結構あるから問題はないのだけど、ダイヤモンドなんて採取出来たことは一度もない。それどころか見たこともない。イスタットの坑道で出るらしいというのは知っているけど、相当低確率らしく手に入れたという報告は殆どない素材なのだよね。
金も水晶もあまり出てこない素材なので、この2つを修復できるのは当分先になるだろうね。使う素材のQuも必要となればさらに時間がかかるだろうし。
うーん、おっと。ここから廃村まで結構掛かるし、ここでずっと考えている時間はそんなにないかな。それにここも安全という訳でもないし、考えるのはリアルに戻ってからも出来るからさっさと戻ることにしよう。
そうして私はインベントリに掘り出した壊れたゴーレムとコアをしまってから、廃村へ戻るために森の中を駆けだした。
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