第26話 巣穴
普通には回避できないと判断し、スタンの状態異常が切れた瞬間からダークブラストのチャージを開始する。
ロックワイバーンの頭部が眼前に迫る中、一瞬でも時間を稼ぐためにバックステップ。地面が砂利で覆われた足場の悪い中だったため上手く後ろに下がれなかったものの、ダークブラストをギリギリ放つだけの時間は稼げた。
チャージが完了次第すぐさにダークブラストをロックワイバーンの顔面目掛けて放つ。それと同時に体勢を低くし前方へ飛び込む。
少ない時間で咄嗟に選んだ回避方法はロックワイバーンの脚の間を強引に通り抜けること。
最近のゲームではそうそうないけど、攻撃判定が雑なゲームだと出来ないやつ。アバターや攻撃の当たり判定をしっかり作り込まれているUWWOなら普通に出来る。まあ、これが出来るエネミーは今のところフィールドBOSSの2体とこのワイバーンくらいだろうけど。フォレストシャドウウルフも大きいエネミーではあるけど、足の間が通り抜けられるほどではないので無理。
ダークブラストを放ったことで視界が塞がれたけど、それはロックワイバーンも同じ。何もしないで前に移動すれば即座に噛みついてくるだろうけど、互いに見えていない状況でそんなことはしてこないはず。
飛び込んだ後、ロックワイバーンの体や脚に当たることはなく、タイミング的に脚の間を通過した――
「へぷっ!?」
前に飛び込んだことで両手から地面に着地し、それまで衝撃が無かったことで回避できたと判断した瞬間、真横から体が弾き飛ばされるほどの衝撃。
衝撃によって浮いていた体が落ち、地面を滑る。
痛覚設定のお陰で痛み自体はないけど、現実の感覚に引っ張られて痛いような気がして来る。いや、本当に痛みは感じていないのだけど何だろうこれ。
あれかな。昔の実験で思い込みによって常温の水が熱湯に感じられて、実際はただの水を掛けられただけなのにやけどを負うとか。ノーシーボ効果だっけ? 詳しくは知らないし、実際にそれがあるかはわからないけど、そんな感じかも。
って、これ今考えることじゃないね。
とりあえず、何が当たったのかわからないけどダメージを受けたので攻撃を受けたらしい。
衝撃からして、もしかしたら他のエネミーが乱入して来た可能性がある? 最悪のパターンは同種のロックワイバーンが参戦だけどそれは……、レアモンスターだからそれは無いよね?
追撃を受けないようすぐ立ち上がり、体勢を整える。ロックワイバーンが進んで行った方を確認すると、ダークバーストに驚いたのか体勢を崩していたようだ。
ロックワイバーンの正面に位置しない様に移動しながら、先ほどまで居た場所を確認したところ、両脚のブレーキ痕?の始まり付近に何かが横薙ぎに地面をこすったような跡が見えた。
うーん? あぁ、なるほど。当たったのは尻尾か。それに意図した攻撃じゃなくて偶然当たった攻撃かな。ダメージも思ったほど大きくはないし、そんな感じだろう。
ロックワイバーンとの戦いが始まってから3時間が経過。出来る限り斜面の上を取るようにしていたら、だいぶ鉱山の上の方まで来てしまった。
想定外に時間が掛かったもののそろそろ討伐出来そう。
HPを30%以下に減らすまでは割と順調だった。そこまでだったら1時間も掛かっていなかったと思う。ただ、ロックワイバーンのHPが30%を下回ってから思うようにダメージが稼げなかった。
攻撃が出来ていないとか当てられなくなったとかではない。ダメージが通らなくなったのだ。
原因はおおよそ見当がついている。
ロックワイバーンのHPが30%を下回った時、特殊行動をしなかったのだ。70%、50%と特殊行動が続けば次は30%のはず。しかし、30%の時には何もなかった。
いや、たぶん気付けなかっただけかな。
要は、HPが30%の時の特殊行動はステータスアップ系だったのだろう。そして、その結果ダメージが通らなくなった。攻撃のモーションや移動速度に変化がなかったから気付かなかったけど、防御面で変化があったということだね。
カッチカチだよ。元からの耐久もあって本当に硬い。状態異常の耐性も上がってそうだよね。
ともあれ3時間も掛かったけれどようやくロックワイバーンのHPが10%以下になった。
10%の時の特殊行動は普通にブレスだった。いや、普通って言うのはおかしいけどフィールドBOSSのワイバーンが使ってきた連続ブレスと同じ感じの奴。ただ、少し色?が違ったので風属性ではなさそう。毒属性かな?
回避したから効果がどうなのかわからないけど、明らかに食らったら不味そうな色だった。
「グギャア!」
突然ロックワイバーンが私から視線を外し、他の所へ移動していった。
逃げ出した? よくわからないけど戦闘中に背を向けるのは愚策だよね。そう思いながら追撃。
しかし、どうして今更逃げるのかなぁ? たしかにHPがそろそろ尽きそうだからというのはあるけど、それだったらもう少し前に逃げ出していてもおかしくはないはず。なら他に理由がある?
背後から攻撃を受けてもこちらを見る気配がない。まあ、ダメージにして十数だから振り向く必要がないだけかもしれないけど。
それに逃げているようには見えないね。表情からあまり感情は読み取れないけど若干焦っている気配? でも逃げるならこちらを気にしないものおかしい気が。
ん? あれは……何だろう。穴……洞窟?
ロックワイバーンが向かった先には地面が隆起した場所があり、そこにロックワイバーンが通過できるくらいの穴が開いていた。
ロックワイバーンはその穴の前に到着すると、こちらを向いて威嚇の姿勢を取った。
何故そこで……あ! あの場所が巣穴ってこと? もしかしてあの追われていた犯人3人組ってあの中に入って隠れようとしたら見つかって追いかけられていたとか?
まあ、その辺はどうでもいいか。
とりあえずロックワイバーンを倒してからあの先を確認しよう。
「グギョァァァ……」
巣穴の前に陣取ってから30分弱。ようやくHPが尽きたことでロックワイバーンが地に伏した。
最後の数%が本当に長かった。明らかに巣穴の前に居たことで背水の陣みたいなバフが載っていたから、耐久どころか攻撃も結構気が抜けないくらいには上昇していたと思う。おそらく一撃食らえば即死していたくらいには強化されていた。
幸い速度は上がっていなかったから慎重に攻めることで攻撃を食らうことはなかった。その所為で時間がより掛かったけど、死ぬくらいならそっちの方が断然いい。
ロックワイバーンからドロップした素材を回収する。回収できた素材は普通のワイバーンとほぼ同じ感じで、アイテム名にワイバーンではなく劣岩竜と付いていた。
アイテムの回収も終わったので穴の中に入ってみることにする。ただ、何があるのかわからないので【感知】で周囲の状況を探りながら慎重に進む。
ロックワイバーンが守っていた穴は奥に30メートル程続いていた。そしてその先に大きな空間があり、上空から光が差しているのが見えた。そしてその空間の地面には大きな枝などで組まれた巣と思われるものがある。
光が差しているという事は上に穴が繋がっているってことで、メインの入り口がそこって感じなのかな。そもそもここってロックワイバーンの巣ってことで良いのだよね? あまり飛ぶのが得意そうになかったから、上から出入りするイメージが湧かないのだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます