第10話 古きヴァンパイアの日記

 

 机の上に先ほど復元してもらった[古きヴァンパイアの日記]を置き、内容を確認するために表紙を開いた。

 最初に手にした時とは打って変わって、本はあっさりと開いた。新品同中様とまでは行かないまでも、中の紙は状態のいい古い本といった感じだ。


 リアルの本よりも1ページの紙の厚さがある日記の内容を確認してく。


 ヴァンパイア語とかノーディレス帝国の標準語とかあの人が言っていたけど、普通に読めるね。これはプレイヤーだから言語は関係ないのかな。ヴァンパイア語はRACE関係で読めている気がするけど、言語を学ぶと言っても何処でって話だし、こういう物なのだろうか。


 まあ、読めないよりは断然いいか。

 そう思い読み進める。


 前半の内容は普通の日記だった。

 いや、普通と言うかどうも100年前の日常を綴っている感じ? 先に進むにつれて殺伐と言うか切羽詰まってきているような雰囲気が醸し出されているけど、その日にあったことが纏められている感じ。


 日記を残り少しという段階まで読んだところで書いてある言葉が少し変わったことに気付いた。さらに文字が薄ら光っているようになっているから、おそらくここからが魔法書という事なのかもしれない。

 内容はともかくここまで全部普通の日記だったから多分そのはず。



『この文章を読むことが出来るという事は我らがヴァンパイアの真祖の血を引く者なのだろう。ここに記されている内容はヴァンパイアとしての力を十全に扱うための知識だ。

 私たちには時間がない。どうやら帝国はここまでだろう。この結果は今までの傲慢な対応の付けが来てしまったのかもしれない。

 本来ならここに記されている物は親から子へ受け継がれていくものだ。私たちには子はいなかった。しかし、このままでは知識が断絶してしまう可能性が大きい。そのため、私はここにその内容を記すこととした。ただ、多くに広めるべき知識ではないため、このように資格ある者にしか見ることが出来ないよう魔法書としている』



 ……遺書? いや、最初は日記として使っていたけど、途中でどうにもならないことに気付いたから遺書として使った感じかな。

 とりあえず続きを読もう。



『我らヴァンパイアは夜の一族だ。故に日中はあまり得意ではない。特に血の濃い者は慣れるまで日に当たると傷を負ってしまう。まあ、それは次第に慣れ、いずれは傷を負う事は無くなる。しかし、慣れたところで日のある場所では本来の動きをすることは難しい。

 しかし、我らが真祖は一時的とは言え私たちにそれを無にする方法を伝えてくれた。それが【血統魔術】【血統魔法】だ。知識が無ければ大したスキルを覚えないが、ここに書かれている知識を獲得すれば秘めたる力が目覚めるだろう』



 え、ここに来て私の取得しているスキルの中で一番よくわからないスキル筆頭の【血統魔法】君強化されるの? 

 最初から使えている[夜目] と熟練度50%で覚えた、【血魔術】系統スキルに影響する[血液操作補助] 以外何もなかったから、強制取得スキルの中でもぱっとしないなぁとか、最近影薄いスキルだなって思っていたのだけど、むしろそれは伏線だったのかもしれない。


 このスキル、条件を満たさないと強化されない、本来の能力が使えない系だったとは。というか【血統魔術】って何? 私、最初から【血統魔法】だったのだけど、もしかして同じヴァンパイアでもRACEによって取得したスキルって違うのかな。

 うーんWIKIに載っているかな。確認したい。



『スキル名は[真祖覚醒]だ。

 一時的に我らが真祖の力を得ることが出来る。その結果少しの時間ではあるが、日光の影響を受けることなく活動することが出来るようになるのだ』



 なんですと? 一時的って書いてあるけど日中弱体化消せるの? 凄く嬉しい……けど、まさか3分とかじゃないよね? さすがにその時間だけだと短すぎるのだけど。


 スキルの確認……あ、取得はまだ出来ていないのか。レシピと同じで本を読み終えないと覚えないのかな。


 このままでは[真祖覚醒]スキルの確認も出来ないので、本の先を読み進めて行くことにする。



『他にも【血統魔法】で取得できるスキルはあるが、ここには記載しない』



 え? 何でここに来て焦らされる展開になるの。全部記載しておいて欲しかったのだけど。


 もったいぶっているような書き方にちょっとだけイラついた。まあ、でも全て教えて貰ってもつまらないかも知れない。不満は不満だけど。



『[真祖覚醒]を取得した上で熟練度を上げて行けばおのずとそのスキルを取得できるはずだ。[真祖覚醒]もそうだが上手く使えるかどうかは其方たちの腕次第だ。

 これから居なくなるだろう私たちが出来るのは、この本に情報を記載しそれを教えることだけ。出来れば自ら教えられればこの上ないが無理だろう。魔物の大群がこちらにも迫っている』



 あ、情報が書かれているのはここまで見たいだね。後は近況報告的な内容だ。これなら流し読みで大丈……夫? ん、何だろうこれ。


 本の最後のページの文字が異様に光っていることに気付いた。先ほどまでの文字もうっすらと光っているようなエフェクトが掛かっていたけど、それとは明らかに違う物だ。



{最後に1つだけ記しておく。

 ここが読めるという事は私と同じ(純血)のヴァンパイアだろう。

 出来ればで良い。妻が管理していた別荘の管理を継いではくれないだろうか。

 この本同様に幻影魔法を施したうえで保護魔法を掛けてあるため、誰にも見つからずそのままの状態で残っているはずだ。

 あそこには私たちの思い出が詰まっている。誰もいないまま、放置しておくのは忍びない。

 なに、無償でとは言わない。あそこに設置している設備はそのまま使って構わない。私たちが写っている写真さえ捨てなければ、建物の中を弄るのも構わない。


 建物の場所と幻影魔法を無効化する方法を記載している。


 どうか、私と妻の思い出を受け継いでほしい。


 レイス・ハイデンベルク

 オーレル・ハイデンベルク }



 …………? えっと、うん?


 最後の最後で遺書か、と思ったけど、これもしかしてハウジング手に入れられる系やつかな。しかも最初からある程度手が入れられているやつ。どんなものなのかわからないから反応し辛いけど、今のところプレイヤー個人で持っているって話は聞かないから割と凄い事なのだとは思う。

 どう反応していいかわからないけど。


 とりあえずこの本の感想は、日記というよりも遺書だよね。死ぬのがわかっていたから後世に知識を繋げよう的な内容の。


『アナウンス

【血統魔術】の制限が外れました。これによりスキル[真祖覚醒]を取得しました。詳しくはスキル説明欄を確認してください』


『アナウンス

 依頼:古きヴァンパイアからの想い、を受諾しました』


 ああ、別荘のやつは依頼扱いなのか。しかも強制で受けないといけないのね。他の人に譲るつもりはないから良いけど、依頼になるってことは何かあるってことだよね。ちょっと不安だ。


 【血統魔法】の方は新しいスキルを覚えるのとは違って制限解除なのか。となると、同じように制限を受けているようなスキルがあるかもしれない?



【血統魔法】

 ヴァンパイア専用の魔法。攻撃スキルは内包しないが、ヴァンパイアの活動を補助するスキルを使うことが出来る。ヴァンパイア必須の魔法。ただし、ヴァンパイアの血が薄い場合は取得できない。

[夜目(P)]夜闇や暗闇など暗い場所でも日中のように周囲を見渡せるようになる。見やすさは基となるスキルの熟練度による。


[真祖覚醒](1%)内に秘める真祖の血を一時的に覚醒させるスキル。このスキルを発動している時は日光下での行動に制限が掛からなくなる。発動時間の長さはスキルの熟練度に依る。日光が当たる場所でのみ発動可。効果時間:10m CTクールタイム:12h


[血液操作補助(P)]【血魔術】系統スキルの操作性を上昇させる。上昇率はスキルの熟練度による。



 しっかり取得されているね。でもどのくらいの熟練度で獲得できていたのかわからないな。一応50%で取得した[血液操作補助(P)]よりも前に出ているからそれより前に取得できるみたい。


 あと、スキル名の後に個別で熟練度らしきものがあるのは何だろうなぁ。もしかしなくても【血統魔法】その物の熟練度上げても[真祖覚醒]の熟練度は上がらないよねこれ。それに熟練度を上げれば他のスキルも取得できるみたいなことが書かれていたけど、たぶんこっちの熟練度だよね。


 熟練度の方はまあ良いとして、効果時間10分は良かった。これくらいあれば何とか使えそう。ただ、案の定というかだろうなぁと思っていたけどCT長い。一時的とは言えデメリット帳消しに出来るスキルだし、これくらいじゃないとバランス取れないよね。長いけど。


 うーん、[真祖覚醒]の確認をしたいところだけど、UWWO内の今の時間は夜だから確認出来ないのだよね。なら、これは当初の予定通り、この後はさっき覚えたレシピを作る感じでいいかな。


 古きヴァンパイアの日記をインベントリにしまい、私は今度こそギルド書庫から生産施設へ向かった。




_____

 今回出て来た[真祖覚醒]は簡単に言うと奥義のようなものです。通常RACE、レアRACEどちらにも、同じようなスキルが存在します(ただし例外在り)

 ついでに、CTに関しては[真祖覚醒]の熟練度を上げれば多少短くなります。効果時間は少し伸びる感じです。

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