第9話 本を復元する
この司書、笑顔だけどちょっと圧を感じるね。それだけ見てみたい、読んで見たいという事なのだろうけど。
司書のその様子に若干引きながら私はインベントリからあの本を取り出した。
[知らない言語で書かれた本 Ra:Ep Qu:F Du:-/-]
あなたの知らない言語で書かれた本。日記のような魔導書のような、書き方が不規則に変わっているためどのような本なのか書式だけでは判断できそうにない。何らかの保護魔法がかけられているようで完全に破損することは無いようだが、経年劣化が激しく真面に開くことが出来そうにない。この本を読むには復元魔法で読める状態に戻し、対応する言語を覚える必要がある。
殆ど忘れていた説明を見る。そう言えば復元しないと読めないらしいけど、この司書に聞けばどうすればいいかわかるのかな。というか、これだと司書も読めないのでは?
「これですか。いや、凄く古い本……というわけではなさそうですが傷みが激しいですね。このままだと復元しない限り読むことが出来ないでしょうね。無理に開くのは駄目でしょう。やはり復元魔法を使わないと駄目みたいです」
「復元魔法」
ピンポイントでそれを言ってくれるの? 聞かないでも説明してくれるならありがたいけど。
「ああ、復元魔法なら私が使えますよ」
まさかすぐにその単語が出て来るとは思っていなかったからオウム返ししてしまっただけなのに、どうやら司書は質問として受け取ってくれたようだ。
「そう……なのですか」
これはまさか、自分で取得する必要がない? 所得する必要が無いのならSKPの節約になるからありがたいのだけど。
「【複製魔法】も復元魔法も司書としては必須技能ですから。むしろ使えなければ司書にはなれません」
複製魔法とかまた知らないスキルが出て来たけど、話の流れからして復元魔法は使ってくれそうだね。
「それでアユさん。この本なのですが、復元魔法を使ってしまってもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
直してくるなら否はないです。ASが必要だとしても超高額でもない限りPKKで稼げているから問題ないし。
「じゃあ、ちょっと待っていてくださいね」
そう言って司書の男性はまた奥の倉庫に向かった。本を持って行かなかったところからして、復元魔法をするために必要な道具を取りにいったのだろう。
「お待たせしました」
司書の男性はすぐに戻って来た。手には2枚の板と何故か本が1冊。どうして本を持ってきたのだろう。説明書?
「では、始めますね」
そう言うと司書の男性は持ってきた板の内、一枚をカウンターの上に置いた。その板は錬金板のような見た目の物で、その上へいくつかの素材と私が持っていた読めない本を置くと、すぐに板に魔力を通し始めたようだ。
板が淡く光る。見た目や光方からして錬金板のようだけど、微妙に違う気もする。次第に光が強くなり本を包んで行く。そしていくらか経ったところで光が一気に収まった。
「ふぅ。これで復元は完了です。念のため鑑定はしておきますね。もし、見るだけで問題が起こるような本だったら大変ですから」
ああ、見ただけで問題が起きるってことは、UWWOの中にも呪われている系のアイテムってあるか。となると、廃墟とかが多い第3エリアにそういったアイテムが多そうな気がするね。
「…………うん。問題ないようですね」
司書の男性はそう言うと板の上から本を退かしカウンターの上に置いた。
ああ、私も【鑑定】しておこう。
[古きヴァンパイアの日記 Ra:Ar Qu:A Du:-/-]
ノーディレス帝国の常用語とヴァンパイア語を混ぜて書かれた日記。この日記には当時の想いが綴られている。『日記ではあるが一部に魔法陣が施され、読む資格のあるものにしか見えない部分が存在する(秘匿文)』復元魔法により状態は回復したが、元の状態が悪すぎたため保護魔法の効果は消失してしまっている。
秘匿情報:魔法書
保有者:アユ(有資格者)
え……っと?
う、うん。とりあえず復元は問題なく終わっているね。
……いやいや待って。秘匿文ありのアイテム説明って何? Ra:Arって初めて見たよ!? それにArってことはartifactだからEpicの1個上のRa度? Ra:Epならいくつか見たことあるけどこれは完全に初めてだ。
あといきなり魔法書ってなにさ。しかも有資格者って、どういうこと?
「あの、申し訳ないのですが」
「え、あ、はい」
まさか魔導書だから回収されるとか、そういう流れ……いや、さっき問題ないって言っていたから違うよね。情報多くて頭の中パニックになるよ。
「出来ればこちらの本、【複製魔法】を使ってこちらの本に複写したいのですが、いいでしょうか?」
司書の男性はそう言いながら先ほど持ってきた本と使わなかった方の板をカウンターの上に並べた。
「構わない、ですけどその板は?」
「あ、これは錬金板ですね。特殊な加工をして【複製魔法】に特化させたものです。先ほど使ったのは復元魔法に特化させた錬金板です」
「なるほど」
特化させた生産装備か。プレイヤーには使えなさそうだ。
「許可もいただけたのでさっさと進めてしまいますね」
司書の男性はささっと準備を進め、日記を複写していった。
「ありがとうございます。これで書庫になかった本がまた1冊増えることになりました。特にヴァンパイア語で書かれた本は数が少なくて貴重なんです。まあ、その分、解読出来る者も少ないのですけどね」
「はぁ」
手元にない新しい本が手に入ったからなのか、複写してから妙にテンションが高い司書について行けず、修復してもらった感謝をしてからカウンターを離れた。
この後、新しく手に入ったレシピで作れる物を一通り作る予定だったけどでも、先にこの本の内容を確認しないといけないよね。
そういう事で私はまたギルド書庫内にある机の場所に戻った。
_____
本の内容は次回
司書が日記を複製した理由は他のヴァンパイア系プレイヤーに見せるためです。これにより、条件を満たしたヴァンパイア系プレイヤーが訪れるとイベントが発生するようになります。
追加情報:Ar(artifact)はプレイヤーには製作不可能なレア度になります。人工伝説級ということで過去の遺物とか、偉人が使用したことで変質したアイテムといった形で使われるためレアa度になります。簡単に言えばレア度の低いイベントアイテム。いえ、Ar自体のレア度は低くはないですけどね。比較するイベントアイテムのレア度がGoなので低い扱いというだけです。
それと、復元魔法と【複製魔法】の違いはプレイヤーが取得できるか出来ないかです。【】付きのスキルは取得可能です。
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