第3章 第3エリア

第3章 プロローグ

 

 今日は待ちに待った新作VRMMO、UWWOの2陣プレイヤー向けのサービス開始日だ。


 1陣プレイヤーから遅れること約1月、4週間。本当ならサービス開始からプレイしたかったのだが、生憎βプレイヤーに知り合いは居ないし、数少ない1陣用の枠に申し込んでみたものの選外だった。


 4週間は大きい。ゲーム内時間はリアルの倍なので実質8週間、ほぼ2カ月分のプレイ時間の差が付いているようなものだ。ここからトップ層に追いつくには並大抵の努力ではどうにもならない。

 だが、既にある程度のプレイ情報があるから、その分1陣プレイヤーたちよりも難は少ないし無駄な事を省くことは出来るのはありがたい。


 ああ、いや。こんなことを考えている前にさっさとチュートリアルを終わらせて、すぐにスキルの熟練度を上げよう。フィールドに出るのはその後だ。




「トトリンだ。見習い剣士」

「ニネです。JOBは見習い魔術師です。よろしくお願いします!」

「イオナリア。見習い調合師」

「ドーン。今は見習い戦士をしている」

「あぷぷりけよ。JOBは見習い弓術士ね」


 ウエストリアの街を出てフィールドに出たところで声を掛けられた。最初はソロでLV上げをするつもりだったが、死ぬリスクを下げるためにパーティーを組むのも悪くは無いだろう。今後、関わり続けるかどうかはわからないが、こうやって見知らぬプレイヤーと一緒にプレイするのもオンラインゲームの醍醐味だしな。


 フルパーティーなら6人だが、ここには5人。まあ、この辺りのエネミーは弱いらしいからこれでも問題は無いだはずだ。



「ファイアボール!」


 ニネが放った攻撃が視線の先に居るプラインゴートへ向かって飛んでいく。


「トトリン。たぶん倒しきれないから止めをお願い」

「ああ!」


 プラインゴートはこの辺りのエネミーとしては強い部類だ。さすがにファイアボール1発では倒せない。


「お……らぁ!」


 プラインゴートの突進の威力は高いが真横の位置を取っていれば容易に食らうことはない。

 ファイアボールが着弾してHPの減り少しよろめいているプラインゴート目掛けて剣を振り下ろす。ステータスが足りていないのか少し重く感じている剣はプレインゴートにダメージを与え、そのままポリゴンに変えた。


「よしっ!」


 今度はノーダメージで倒すことが出来た。最初の1匹目は油断しすぎて正面から突進を食らってしまったのだ。すぐに初級ポーションを飲んで事なきを得たが、総HPの3割以上のダメージを食らったことはかなり驚いた。WIKIや掲示板で調べた時に大して強くない、という情報を俺は鵜呑みにし過ぎたらしい。


「今度はノーダメで行けましたね」

「ああ」


 パーティーの最後方で支援に回っているイオナリアが声を掛けて来た。こうやって声を掛けて来たのは最初の失敗を見ているからだろうな。俺に初級ポーションを渡してくれたのは彼女だから、また同じことをやるんじゃないかと思って待機していたのかもしれない。


「次、持ってきたぞー!」


 ヘイト管理系のスキルを持っているドーンが新たに1体エネミーを引き付けて来た。


 2陣プレイヤー参入初日の今日。ウエストリア周辺のフィールドは2陣プレイヤーで溢れている。

 リアルの関係で少し遅れてログインした俺たちはスタートダッシュで出遅れてしまっている。フィールド上のいい狩場、エネミーがリホップしやすい場所は既に他のプレイヤーに占領されてしまっているのだ。


 狩場の占領はあまり良い目で見られるものでもないし、別に狩場に占有権がある訳でもないので俺たちが割り込んでも問題はないが、他のプレイヤーとギスギスしたい訳でもないので、俺たちはフィールドの端の方で狩りをしている。


 そのため、すぐ近くにエネミーがリホップする場所がないので、ドーンにエネミーの引き付け役をやってもらっているのだ。


 次はプラインシープか。

 こいつと戦うのは初めてだが、プラインゴートとは羊毛があるか無いかの違いしかないので、それほど強さに違いは無いだろう。


「先手、出しますよ」

「お願いします」


 あぷぷりけが攻撃をする宣言してから弓矢を射る。弓矢よりもニネの魔術の方が威力は高いがMPを消費してしまうので連射は難しい。そのためニネとあぷぷりけは交互に攻撃を行っている。


「めぇええ!」


 弓矢がプラインシープの胴に刺さり、悲鳴を上げる。その隙に俺は接近し、プラインシープ目掛けて剣を振り抜く。


 よし。これは躱せない。今までの事からしてこれで倒せるな。


 そう思った瞬間、俺の剣はプラインシープの羊毛に阻まれ完全に振り抜けなかった。


「は? まさか斬撃耐性持ち!?」


 ダメージは与えられた。しかし少ない。プラインシープのHPはまだ半分近く残っている。


 拙い。今の一撃で倒せることを前提として攻撃した所為ですぐに動けない。


「トトリンさん。回避してください!」


 目の前にいるプラインシープが動き始めたと同時に、後ろからイオナリアの声が聞こえる。


 俺もすぐに移動出来たらしている。しかし、剣が阻まれたからなのか次の行動に移れない。【短剣術】にあるスキル:スラッシュを使った後にある硬直時間みたいなものかもしれない。


「うぐっ お……あ」


 硬直が解けた。すぐにその場から移動しようとしたところでプラインシープの尻尾が視界に入った。完全に後ろを向いている状態だ。ここからどうやって攻撃に移るのか。そう思った瞬間、プラインシープが既に攻撃モーションに入っていることに気付いた。


 あ、これ、馬の後ろ蹴りみたいなやつだ。


 そう理解した瞬間、俺は腹部に強烈な衝撃を受けた。


「うべぇっ!?」


 肺から空気が抜ける。いや、ここはVRの世界だからそんなことは無いだろうが、本当にそんな感じの衝撃を受けた。めっちゃ痛い。

 痛覚の設定は初期のまま30%のはずだ。それでこれだけ痛いという事はリアルで同じことをされたらどうなる? 死ぬんじゃないかな。


 余りの衝撃に関係ない事を考えてしまう。


「ファイアボール!」

「大丈夫ですか!?」


 ニネが放った攻撃がプラインシープに当たる。そして羊毛に火が付いたのかプラインシープは大げさな程に炎上していた。


「ちょおっ!?」

「うわぁ……」


 その光景に驚いたのかニネが声を上げ、あぷぷりけが憐れむような声を出していた。


 プラインシープはニネの攻撃によって倒された。俺がミスった所為で余計な攻撃をさせてしまった。次からはもっと気を付けなければならないな。


「トトリン、HP大丈夫? 早く回復した方がいいと思うけど」

「ああ、そうだな。って、うえっ」


 視界の端にあるHPバーを確認したら残り半分を切っていた。

 マジか。あの攻撃、めちゃくちゃ威力高いのかよ。これじゃあ、初級ポーションだと2本使っても全回復しないわ。


「どうしたの?」

「HP全快だったのにもう半分以下になってる」

「あれ、そんなに威力高かったんだ」


 最初にギルドから支給された初級ポーションは5本。さっきイオナリアに貰ったから減ってはいないが貰い続けるのは駄目だろう。


「仕方な、え?」


 ポーションを飲もうと瓶の蓋を開けようとしたことろで突然俺の体が光った。


『プレイヤー:(*´з`)りっぷ からヒールを受けました』


「は?」

「え、辻ヒール!?」


 減っていたHPが全快する。近くにいたニネがそう叫んだことで俺の体が突然光りHPが回復した理由を理解した。


「ここでも辻ヒールして来るプレイヤーっているんだ」

「トトリンのHPの回復した量を見るに1陣プレイヤーかな」


 まだLV3とは言え、RACE:獣人(黒犬)である俺のHPの総量は200を超える。だから今のヒールで回復した量は100以上。今日からプレイしている2陣プレイヤーのトップでも、これだけの量を回復させるほどスキルの熟練度やステータスを持っている奴はまだ居ないだろう。


 礼を言わなければと周囲を見渡す。しかし、それらしきプレイヤーの姿は見えない。少し離れた所に凄く大柄なプレイヤーの姿が見えるが、あれはRACE:ジャイアント系のプレイヤーだろう。それなら魔術師系統のJOBとは考えられない。他のプレイヤーだろうからもうここから見えない場所へ移動してしまったのかもしれない。


「―――――」


 少し離れている場所で俺たちと同じように狩りをしていたプレイヤーたちから悲鳴が上がった。


「どうした!? 何が起きたんだ!?」


 近くで何かが起こった以上、俺たちにも被害が出る可能性があるのですぐに状況を確認する。


「わかりません! わかりませんが、あちらに居たプレイヤーの1人が突然攻撃を受け、倒されてしまったようです!」

「強いエネミーでも出たのか?」


 ここは初心者向けフィールドの端だ。近くに森があるからそこから強いエネミーが出てきても不思議ではない。


「―――――」


 さらに悲鳴が上がる。そして俺たちはその原因を知った。


「PK」

「レッドネームがどうしてこんなところに!?」

「初心者狩りか」


 ああ、掲示板の注意書きにあったな。

 初心者を狙う悪質プレイヤーが居るというのは知っていたがまさか、自分が被害に遭うとは想像していなかった。まさか初日に遭遇する何てなんて運が悪い。


「初心者を倒しても旨みなんて何も無いのによくやる」


 ドーンが苦い表情をして言う。


「とりあえず逃げるぞ!」

「ああ」


 今被害に遭っているパーティーが全滅する前に逃げ切らないと次の標的になりかねない。

 そう判断して逃げ出したが少し遅かったらしい。


「逃げんじゃねぇぞ! 雑魚ども!」


 速攻で向こうに居たプレイヤーたちを屠ったPKerは凄い速度でこちらに迫って来る。

 見た目からして1陣プレイヤー。ステータスの差が大きい以上、低LVの俺たちが逃げ切るのは不可能だな。


「俺が時間を稼ぐ。お前たちは逃げろ!」


 そう言ってドーンが足を止め、盾を構える。

 かっこいい事をしてくれる、そう思うがドーンが時間稼ぎをしてくれたところで俺たちが逃げ切れる見込みは少ない。これなら皆で立ち向かった方がマシだろう。


「お前だけにいいカッコはさせん! と言うか、足止めしたところで逃げ切れると思えないしな」

「そうですよね」


 横を見ると他のメンバーも足を止めて迫ってきているPKerと対峙する。


「逃げないで向かって来るとはいい度胸だなあ! ぶっ殺してやるべぅ?!」

「え?」


 PKerの振り抜いた剣がドーンの盾に当たるその直前、視界の中に赤い何かが横切った気がした。そして気付けばPKerの体がポリゴンに変わっていっている。


「どういうことだ?」


 盾に大きな衝撃を受けることを確信していたドーンが、今まさに目の前で消えて行っているPKerの姿を確認して理解できない、といった表情で聞いてくる。


「いや、俺もよくわからん」


 ≪ワールドアナウンス

 賞金首のレッドNAME:きのこたけのこ戦争が討伐されました。

 討伐判定の際、カルマ値が一定以下にならなかったため、逃走扱いになります。レッドNAME:きのこたけのこ戦争に懸かっていた懸賞金が半減しました≫


 あのPKerのNAMEに突っ込みたいところだが、どうやら俺たちは誰かに助けられたようだった。


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