第49話 禁止行為

 

 

 生産工房の使用時間が過ぎたため、生産施設へ戻ってきた。


 あれから何度か金属塊やポーションを作ってみた結果、【錬金】は完全に器用貧乏という事が判明した。

 高品質を求めないのなら【錬金】だけで多くのことが出来るけれど、高品質且つQuロスを減らすなら適正生産スキルを使うといった感じかな。


 拡張鞄や圧縮ポーチを作るとか【錬金】じゃないと出来ないこともあるけど、他の生産スキルで作ったアイテムにもうひと手間掛けるのが【錬金】スキルの使い方なのかもしれない。

 一応、素材のQuアップにも使えるけど、採算度外視になるから余程の理由が無い限り自分用のアイテムを作る時くらいにしか使わないよね。


 この段階でわかる通り、ソロで生産を極めるならほぼ全ての生産スキルを取得しないといけない。武器を作るにしても、UWWOでは剣身の部分と柄の部分は別制作になる。防具にしても金属部分と皮の部分は別だ。

 一応、柄の部分をデフォルトにすれば【鍛冶】スキルだけでも作ることは出来る。だけど、それだと剣身と柄を別々で作った場合よりも少し性能が落ちる。現状だとそこまで影響はないらしいけど、武器が強くなって性能が上がれば無視できない差になって来るはずだ。


 この事を理解しているのかはわからないけど、一部の生産メインのプレイヤーは既にクランを作っている。クラン名は生産組合とか連合とかそんな感じだったはず。

 1人でいくつも生産スキルを極めるのは時間が掛かるし、違う生産スキルを持っているプレイヤーが集まった方が効率が良いのはわかる。しかし、集まったら集まったで面倒なことも起きやすくなるし、分業作業みたいになるから自分の作りたい物を作るだけではいかなくなる。

 下手すると自分がやりたいことが一切できなくなる状況になったりするし。


 まあ、そんな訳でマイペースに生産するのであれば1人でやるのが一番なんだけど、スキルはどうするべきか。


 【鍛冶】スキルも取得したし、【裁縫】スキルもあるから【細工】スキルは取得予定だけど、初期から取得可能の生産スキルって6種類あって【錬金】【調合】【料理】【鍛冶】が取得済みで、残りは【木工】なのだけど、【木工】いる? 

 弓とか盾の軽量化に使えるけど弓は使わないし盾も同様。使うとしたら住民用の家具作り? 出来のいい物を総合委託に流すと買われるらしいからAS稼ぎにするならありかもしれない。

 だけど、現状使わないから後回しかな。いつになるかわからないけどプレイヤーハウスが手に入るようになったら取得しよう。小物とか家具は自分で作りたい。でも少なくとも今は必要ない。



 さて、指輪の修復も終えたのでイスタットに来た目的は達成した。

 次はウエストリアとサウリスタの転移石像に登録して移動しやすくしておいた方が良いよね。ついでに第1エリアにいるエリアBOSSも倒しておいた方が良いだろうし、やることが意外とある。2陣が来れば初期地点になっている3国は混むだろうし、出来るだけその前に済ませておきたい。


 ああでも、その前にASを稼いでおいた方がいいか。

 転移石像を修復するために重力石と宝石を買い込んだからASが凄く減っているんだった。なにかあった時のためになるべくASは溜め込んでいた方がいい。パーティーを組んでいたり、クランに所属していたりすれば一時的にASのやり取りは出来るだろうけど、ソロだとそれは出来ない。兄に頼めば多少融通してくれると思うけど、あまりそういったことはしたくない。


 今一番AS稼ぎに向いているのはウエストポーチかな。委託でも数は少ないしASも高めで需要もある。ついでに【裁縫】熟練度上げにもなるから、10個くらい作って委託に流しておこう。


 使う素材は羊でいいかな。森狼の素材もそこそこあるのだけど、熟練度的に難しそう。

 そう言えば、ポーチって元となる素材を替えたらどうなるのだろう? 性能が上がるのか、ただ見た目が代わるのか。うーん、一回試してみるか。上手く出来れば、今使っているやつと交換でも良いし。


 森狼の毛皮をポーチ5つ分取り出す。


 慎重に森狼の毛皮を縫いポーチを作っていく。サイズは今使っている物と同じ。サイズに関してはプレイヤーのアバターサイズによって使い勝手が代わって来るだろうから、少なくとも今装備している物に不自由さを感じていないので私が使う分にはこれが理想。

 あ、それを考えると委託に流す物は少し大きな物も作った方が良いかもしれない。


 そんなことを考えながら森狼の毛皮でポーチを5つ作り出した。

 後はこれを錬金で圧縮して容量を大きくしていく。重量がそのままかからないよう重力石

 を加えていく。


 錬金板の上にポーチを5つと重力石を1つ置いて、錬金板を発動させる。


 錬金板が発動したことで光始める。最近は【上級錬金】の熟練度が上がったからなのか、3倍圧縮までならダメージを受けなくなった。もしかしたらただ単にステータスのおかげなのかもしれないけど、とりあえずダメージを受けなくなったのは有り難い事だ。


 光が収まり錬金板の上にはポーチが1つ載っていた。錬金板の上からポーチを取り、性能を確認する。


 容量自体は3倍なので今使っている4倍圧縮のポーチよりも少ない。他の性能は……あ、微妙なやつだけど能力付きだ。なるほど、使う素材が良くなれば容量はともかくとして使い勝手は良くなる感じなのかな。


[(アクセサリー)容量3倍圧縮ポーチ Ra:Uc Qu:C Du:100/100 SAS:24000]

 森狼の毛皮で作られたウエストポーチ。見た目よりも容量が大きく、錬金で作成した際に重力石を混ぜ込むことで最大まで物を入れても重さが感じることはない特殊なポーチになった。

 容量:4.5L

 能力:内容物の取り出し易さ上昇(微)


[(アクセサリー)容量4倍圧縮ポーチ Ra:Uc Qu:C Du:100/100 SAS:28800]

 羊の皮で作られたウエストポーチ。見た目よりも容量が大きく、錬金で作成した際に重力石を混ぜ込むことで最大まで物を入れても重さが感じることはない特殊なポーチになった。

 容量:6L


 今使っている物と比べるとこんな感じか。

 アイテム名とSAS、能力があるか無いかくらいしか違いはない。何の素材が使われたのかは記載されているけど、それは見た目からわかる。

 これなら今付けているやつと交換してもいいかな。まあ、その前にもう一個同じ物を作って容量を4倍にするけど。


 能力の内容物の取り出し易さ上昇って、どのくらい効果があるのだろうか。とりあえず、一回使ってみないとわからないか。


「ねぇ君、ちょっといいかな」


 能力を確認しようとウエストポーチを取り換えようとした時、後ろから声を掛けられた。もしかしたら錬金板が光った所為で苦情でも言いに来たのかもしれない。


 そう思って後ろに振り向くと男性プレイヤーがにこやかな笑みを浮かべて立っていた。何だろう。嫌な予感、というかあまり良い展開が予想出来ない。


「今作っっていた物を俺に売ってくれない? 基本価格の1割増しで買うからさ。な? いいだろ?」


 ああ、今まで他のプレイヤーの多いところで生産していなかったから知らなかったけど、ここで直接買おうとするプレイヤーもいるのか。

 面倒だし、これは私が使う予定だから売るつもりはない。それに1割増しで買うというのは安すぎる。委託に出せば最高額でも殆ど買い手が付くのだから、このプレイヤーが提示した値段で売るのは損でしかない。


「これ、自分用なので」

「え、あぁなら、俺が所属しているクランに入らないか? 俺の入っているクランは人多いしさ、素材集めとか楽になるよ」


 えぇ? なんでそんな話になるの。

 それに提案の順番間違っていない? 普通だったら、クラン入らない?で断られたらそれ売って、だと思うのだけど。いや、だとしても売るつもりはないけど。あ、もしかしたらクランへの勧誘が本命?


「いえ……」

「あの、すいません」


 本命だろうが何だろうがクランに加入するつもりはない。断りを入れようとしたところで生産施設の受付をしているギルド職員が声を掛けて来た。


「生産施設内ではアイテムの直接取引は禁止されています。また、クランなどの勧誘も同様に禁止になっています。今回は一応初犯なので注意のみに留めますが、次に同様の行為を行う場合は別の場所でお願いします」


 生産施設内って直接取引禁止だったのか。前に兄に毒ナイフ売った時はギルド側だったし、全く知らなかった。


「は? いや、NPCのお前が話に入って来るなよ。俺はこの子と話をしているだけだ。プレイヤーの行動に指図してんじゃねぇよ」


 あぁ、やっぱり面倒なプレイヤーだった。

 こうやってギルド職員が出張って来るということは、しっかりとこの場のルールとして決まっているってことだよね。それを無視するどころか食って掛かっている時点でまともなプレイヤーではないから、こういったプレイヤーには関わらないことが一番いい。


「それじゃあ、私はこれで」

「あ、ちょっと!」


 これ以上このプレイヤーに関わったところで私には何の益もない。そう判断してギルド職員があのプレイヤーを足止めしてくれている間に私は逃げ出した。


 ASを稼ぎたかったから生産施設で生産していたけど、平日の昼で生産施設内にもプレイヤーが少ないからって油断していた。次からはどんな理由があっても生産工房の中で生産することにしよう。

 

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