第46話 想定外

 

 とりあえず、あの空間を調べる前に採掘できる場所は全てやってしまおう。


 もしもあの先がエリアBOSSとの戦闘エリアだった場合、勝てるかどうかなんてわからない。あの先に進めればいい鉱石がもっと取れるだろうけれど、当初の目的は達成しているので無理をする必要もないのだ。いや、行けたらそれに越したことはないのだけどね。


 いきなり戦闘エリアに飛ばされないように慎重に採掘を続ける。そして最後の採掘ポイントが消えたところで、空間に続く坑道の端まで来ていた。


 さて、今のところ目の前の空間には何も居ないみたいだけど、入ったところで見えるタイプかな。他のエリアBOSSもそうだし、足を踏み入れたら別空間に飛ばされるのだろう。


 坑道内の採掘ポイントが復活するには大分時間が掛かるからずっと待っているのは非効率だし、さっさと行くか。死んだら死んだで移動時間が省けるしね。


 坑道から広がった空間の中に足を踏み入れる。すると、他のエリアBOSSとの戦闘エリア同様に目の前の空間が切り替わっていく。


『アナウンス

 エリアBOSSの戦闘フィールドに入りました。これからエリアBOSS:【4脚の採掘ゴーレム(暴走)】との戦闘が始まります』


 ゴーレムか。まあ、他のエネミーからして想定内ではあるけれど、最後に(暴走)って付いているのに不安しかないけど。


 エリアBOSSとの戦闘開始アナウンスが出たのに肝心のBOSSの姿が見えない。上から来るのかと思い見上げてみたけれど、それらしきものは見当たらない。

 ゴーレムというのだから岩でできた体だろうけど、周囲を見渡してもそれらしき姿はどこにもない。


 これはバグなのだろうか。そう思ったところで空間の奥。おそらく先に進むための坑道から何か重いものが動く音が聞こえてきた。


 少し先に見える坑道の様子を見ていると、そこから四つ足のゴーレムが現れた。サイズは坑道を余裕で移動できる程度ではあるけれど、この鉱山の坑道は割と広いので高さは2.5メートル、横幅が1.5メートルくらいはありそうだ。


 現れたゴーレムはよくある人型のとは異なり、頭のような部分はない。腕も人型のものとは違い先端が尖っている。見た目的には重機を思わせるような見た目だ。まあ、NAMEに採掘用ゴーレムとあるのだから似たような物なのかもしれない。


 一瞬、ブラッドウェポンを構えようと思ったけど見た目的にも坑道内に出てくる他のエネミーと同系統なので、相性が悪いと判断してすぐに魔法スキル主体で戦うことにした。


 4脚ゴーレムはこちらの様子を伺っているのか、すぐに動き出す様子はない。ただ、あくまでも足が動いていないというだけで腕、おそらく採掘に使うためだろうツルハシのような形状をしている腕は小刻みに動いているのが見て取れる。


 完全に人型のゴーレムならある程度動きがわかるのだけど、4脚タイプは他のゲームでも戦った事はない。はっきり言ってどのように動くのかの予測ができない。


 足があるタイプのゴーレムは片方でも足が壊れればほとんど動くことが出来なくなるのだから、4脚ゴーレムも1本でも破壊できれば相当機動力を削ぐことはできると思う。

 ただ、それでも完全に動けなくなることはないだろうから少々厄介そうではあるかな。まあ、これは破壊できることが前提だけど。


 というか、よく見たらあのゴーレムの脚、他の部位に比べて色が濃い気がする。もしかしたら、他のところよりも硬くて壊し難かったりするかもしれない。採掘用とある以上、この鉱山で爆弾石や爆弾岩が採掘できるので、それに対する耐性があっても不思議ではないよね。


 しかし、そうなると面倒だ。足が壊せないなら機動力を削ぐことは出来ないし、あの腕も同じように破壊耐性があるかもしれない。いや、ない方がおかしいか。


 って、なんでここまであのゴーレムは攻撃してこないのだろう。他のエリアBOSSは率先して攻撃をしてきたというのに変だよね。

 うーん? あ、もしかしてゴーレムだから視覚がないとか? そうなれば振動とか他の情報で敵の場所を把握している感じなのかもしれない。単に私が動いていないし攻撃もしていないからヘイトが0ということなのかもしれないけど。


 このままじっとしていても先に進まないし、攻撃……いやその前に【鑑定】しておいた方がいいか。



[(モンスター・BOSS)4脚の採掘用ゴーレム(暴走) LV:40 Att:土]

 HP:8840 / 8840

 MP:320 / 320

 状態:暴走

 スキル:■



「は?」


 いや、ちょっと待って。いやいやLV40……? ワイバーンよりも上ってどういうこと?

 これ勝てないよね!? どう見てもゴフテスよりも強いから第3エリアBOSSではないだろうし、どう見ても無理だよね。

 それに、この強さというかLVを見る限り、まさかこの先は第4エリア?

 第3エリアも碌に見て回っていないのにその先に行けるとかおかしくない? そもそも第1エリアに存在する場所からすぐの場所に、こんな存在が出てくるのもおかしい気しかしないのだけど。何か理由があるのかだろうか。


 鑑定で出てきたステータスに驚いていたところでゴーレムが動き出した。こうして動き出したということは私に対するヘイトがなかったからあのゴーレムは動いていなかったのがわかった。


 うわぁ、とりあえず攻撃しないと。勝てないにしても少しでも多くの情報を得られるように動かないと。次……があるかはわからないけど、やれるだけはやろう。こういうのって積み重ねが大事だからね。……これが先に役立つのかはわからないけど。


 ゆっくりと近付いてくるゴーレムに最大までチャージしたダークショットを放つ。そしてすかさずシャドウニードルをゴーレムの下に展開しダメージを与えていく。

 しかし、ゴーレムは一切攻撃に反応することなくこちらに向かって来ている。


 あれ、これはもしかして魔法も効かない系?


 今までのエリアBOSSであれば怯むまでは行かないまでも、この位の攻撃がクリーンヒットしていればそれなりの反応を見せていたのだけど、このゴーレムは一切反応が無い。

 ゴーレムだから声というか鳴き声が無いので反応がわかり辛いし、岩で体が作られているから動く度にゴリゴリ岩同士が擦れているような音はするけれど、それ以外の音が一切しないから反って恐怖が増している気がする。


 何事もなかったように近付いてくるゴーレムに少し慄きながらも、ゴーレムの正面に立たないように移動する。

 どのくらいダメージを与えることが出来たのかを確認するために【鑑定】したところ、300程ダメージを与えられている事がわかった。


 あれで300くらいってことは、普通にどころかそれ以上にダメージが入っているよね。なのに反応が無いのは何故? ゴーレムだからなのか、他に理由があるのか。あ、もしかして暴走状態だから?


 そう思ったところでゴーレムが急に上部を捻り、上部がこちらを正面になるような状態になった。


「え?」


 ぎゅるん、という擬音が付きそうな今までの動きとは比べられない速さに驚き声が出た。それと同時にゴーレムが先ほどの動きとは打って変わって結構な速さで距離を詰めて来る。


 このゴーレム殆ど真横に移動しているはずなのに、それを感じさせない動きで一気に迫って来ている。


 えあ!? このゴーレムもしかして前後左右、同じように動けるタイプ!? そうだよね、空間が限られている坑道内でスムーズに動くには、そういうタイプの方が向いているからね!


「シャドウダイブ!」


 想定していなかったゴーレムの動きに体が反応しきれないと判断して、時間稼ぎをするために影の中に潜る。坑道内は基本的に薄暗いのでシャドウダイブの発動には打って付けで、大半の場所で発動することが出来る。


 様子見をするために影の中からゴーレムの様子を窺う。すると私が影の中に潜った場所目掛けてゴーレムが腕を突き出しているところが見えた。


 シャドウダイブ中だから攻撃は受けな――


「ふへ?」


 ゴーレムの腕が地面に当たった瞬間、視界が一気に変わり、何故か私は影の中から空中に放り出されていた。

 状況が理解できず変な声を上げてしまった私の目の前には、先ほど地面に突き出していた腕とは反対の腕が迫って来ている。


 ああ、これは躱せない。よくわからないけど、強制的に影の中から出されたからなのか現状浮いているので回避行動をとることが出来ない。うん、無理。


 突き出されたゴーレムの腕によって吹き飛ばされる。


 痛くはないけど視界が凄く揺れる。酔いそうって、今の一撃でHP全損した!? HP一切減っていなかったのに、一撃って嘘でしょ?


 まあ、信じられないとけど最初から勝てるとは思っていなかったし、後は帰るだけだったから問題はないかな。


『HPが全損したため、当アバターは死亡しました。周囲に蘇生が可能なプレイヤーがいないため、蘇生待機時間を短縮し、最も新しいリスポーン地点に転送します』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る