第13話 料理を作ってみる

 

 いつものように生産施設に入り、いつも使っている場所に行こうとしたところで私は足を止めた。


 何か知らないプレイヤーが居る? 上にネームが出ているからプレイヤーなのはわかるけど、誰? 


 ん? いや待って、もちもっち……どこかで見たような、どこで…ああ、アナウンスで見たNAMEだ。確かイスタット側のエリアBOSSを倒したパーティーにNANEがあった。という事は私がオルグリッチを倒している時にここに着いた感じかな。


 あ、こっちに気付いて…頭を下げて来た。とりあえず私も頭を下げておく。するともちもっちはそれ以上私を気にするような様子は無く、作業に戻った。


 気にしてこないなら私も気にしないことにしよう。もし、干渉してくるようなら別の場所に移動しても良いのだしね。


 とりあえず、いつも使っている場所とは違う、もちもっちから離れた位置の机に携帯料理セットを広げる。そして先ほど購入した調味料を出して、…胡椒とスパイスシードの入れ物がミル付きのやつなのだけど、入れ物は使い捨てなのかな。まあいいか、そのうち分かるはず。そして最後にウサギ肉を出す。


 …これはウサギ肉? 何か普通のブロック肉的なやつが出てきたのだけどウサギにしては形がおかしい気が。いや、ゲームだからある程度扱いやすいようになっているのかな。サイズ的には1匹分っぽい? 見ればちゃんと普通の肉とは違って脂肪分が少ない赤身の肉なのがわかる。

 確かウサギ肉は脂身が少ない赤身肉で、鶏肉みたいな味らしいから形以外の見た目は変ではないのか。味に関しては焼いてみないとわからないけど。


 まあ、気にしたところで先には進まないのだから、さっさと焼いてみよう。ああ、その前に気になるから料理セットにクリーンを掛けておく。


 コンロに魔力を通して火を付けてから、フライパンに食用油を引く。とりあえず最初なのでウサギ肉の味とかを確かめるために、特に味を付けずにウサギ肉を焼くことにしよう。


 フライパンが十分に熱くなったところでウサギ肉を入れ…そう言えば菜箸は、あ、袋のそこに入っていた。良かった。フライ返しは…なさそう。こっちは別途購入なのかな。それとも初心者って付いていない物なら付いているのだろうか。


 ウサギ肉ってどれくらい焼けばいいのかがわからないけれど、リアルの鶏肉と同じような感じでやってみる。

 片面を焼いて十分に火が通ったあたりでひっくり返してもう片面を焼く。見た感じ、しっかり焼けてはいるけど、肉自体が縮む様子はない。これは単純にそこまで再現はしないという事なのだろうか。それともウサギ肉は縮まない物? 肉である以上、焼いて縮まないのは在り得ないと思うから再現していないだけかな。


 そしてもう片面も十分に火が通ったところでもう一度ひっくり返してちゃんと焼けているかを確認。うん。しっかり焼けている。問題なし。これで火を消して、お皿を出して…ああ、出てきた。というかいきなり肉が瞬間移動したのだけど、こう言うところはゲーム的な動作なのか。


 出来上がったものはこんな感じ。


[(アイテム・料理)焼きウサギ肉 Ra:C Qu:F SAS:150]

 ウサギ肉をそのまま焼いた料理。味付けもしていないため、素材そのままの味が楽しめる一品。

 製作者:秘匿


 単に焼いただけだからだと思うけど、説明の内容が薄い。うーん、これでも依頼の納品に使えるのか。それに使った金額よりもSASが高いから損もない。まあ、これだと委託に流したところで買うような住民もいないだろうし、ましてやプレイヤーも居ないだろうから、依頼の納品一択になるのだけど。


 それにこれはあくまでも肉の味を確かめるために焼いたのだから、これは私が食べるのだけどね。

 ……見た目、鶏肉感は薄い。ただ、他の肉に似ているかと聞かれれば否だ。まあ、普通の牛肉と鶏肉の中間みたいな感じ?


 食べてみる。って、そう言えば箸とかフォークって買ってない。菜箸で食べなきゃだめ? 手づかみはあまり好きではないのだけど、あ、皿の近くにフォークがあった。これは念じたから出て来たのか、お皿と一緒に出て来たのかがわからないな。まあ、どうあれ出て来るのなら問題は無いか。

 ナイフ……はさすがに出てこなさそうだから、セットに入っている包丁で切って、いざ実食!


 ……ふむ。味はまあ、肉だなって感じ。当たり前だけど。ただ、結構さっぱりしている感じだなぁ。たぶん脂身が少ないからだろうけど、それと鶏肉よりは歯ごたえがある。筋張っているとか噛み切れない訳ではないので問題はない。若干焼き面が硬い気がするから、次は表面に切り込みを入れてみるのもありかもしれない。


 結構悪くなかったな。リアルで食べたことが無いからリアルのウサギ肉と一緒かどうかはわからないけど、少なくとも食べにくいとかは無い。臭みもなかったしね。


 食べ終わったので、次からは納品用として作っていこう。

 ウサギ肉を出して、今回は切り込みを入れていく。そして胡椒と塩を振って軽く揉み込む…スパイスはどうしようか。臭みがなかったから使う必要は無いのだけど、…使ってみるか。使うのはスパイスシードの方にして、ウサギ肉の表面にスパイスシード振りかける。


 フライパンは先にクリーンを掛けてからコンロに火を付けて油を引く。そしてさっきと同じように焼いて、あ、さっきとは違ってスパイスの香りがほのかにする。スパイシーって感じの香りとまではいかないけれど、やっぱりスパイスは使った方が良いかもしれない。


 そんな感じで完成!


[(アイテム・料理)ウサギ肉の香実焼 Ra:C Qu:D SAS:250]

 ウサギ肉に下ごしらえを施してから焼いた料理。あっさりとした味付けとほのかに香るスパイスの香りが食欲をそそる。最低限の味付けであるため肉本来の味も楽しめる一品。

 製作者:秘匿


 おお! Qu上がった。というかアイテム名が変わった。香実というのはスパイスシードのことだと思うけど、スパイスグラスを使ったら香草に変わるのかな。


 納品用のつもりで作ったけど、やっぱり味の確認は必要だよね。どんな味なのかもわからない料理を納品するのは良くない。

 という事で食べてみる。


 ……ふむ。さっきのは味付けしていなかったのもあるけど、大分おいしくなっている。さっぱりした肉に少しの塩味。時折感じる胡椒の辛さとほのかに香るスパイスシードの香り。うん。悪くない。


 すごくおいしいという訳ではないけど、十分においしいと思う。ただ、スパイスシードを後から追加したからなのか、若干胡椒が強い気がするから次からは少し減らすことにしよう。

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