第7話 兄の誘い

 

 昼食を終えて、ログインした。


 予定は特にない。元は生産に当てるつもりだったのだけど、先ほどのショックが抜けていないので、生産をする気力は無い。なので、予定が未定になった訳なのだけど、どうしようかな。

 今はまだ夜の時間だから、いくつか依頼を受けてギルドポイントを稼ぐでも良いのだけど、それでも直ぐにはギルドランクは上がらない気がする。


 うーん。とりあえず、依頼を受けよう。納品系で出来る依頼は全て終わってしまっているから討伐系の依頼しか受けられないけど、むしろちょうどいいか。


 そして依頼を受けてギルドを出ようとしたところでフレンドチャットが届いた。とりあえず歩きながら確認すると、まあフレチャを送って来るのは1人しかいないので、わかっていたことだけど兄からのものだった。


 ファルキン:アユさん 一緒に プレイ しません か?

 ア   ユ:何で


 何か文面からしてイラっとしたので短めに返事をする。


 ファルキン:いや、昼にギルドランクが足りなくてギルドの工房が使えないって言っていたから、ギルドポイントを稼ぐのを手伝えないかなって


 む。何かを感じ取ったのか兄からのフレンドチャットの文面が普通になっているな。

 まあ、こうやって軽い感じの態度で接してくるときがあるけど、場を和ませようとしているだけだから悪気がある訳じゃないし。たぶんお昼を食べている時の私の様子を見て提案してきてくれたのだろう。

 ちょっとイラっとはするけど心配してくれているのだと思う。


 ア   ユ:別に要らない それに手伝って貰ったからって効率が上がる訳でもないし

 ファルキン:うっ、確かに討伐系の依頼でも人手が増えたからって確実に早く終わるとは限らないか

 ア   ユ:だから要らない

 ファルキン:そうだよな。あ、そう言えばエリアBOSSって再戦すると少しだけどギルドポイント貰えるって知っているか?

 ア   ユ:え?

 ファルキン:最初の討伐時に貰えるのに比べると少ないけど、元の3割くらいは貰えるぞ?

 ア   ユ:そう

 ファルキン:BOSS討伐のお供に、どうですか?

 ア   ユ:別に一人でも問題ない

 ファルキン:回復・ヘイト・壁として使えますが

 ア   ユ:・・・


 回復か。確かにBOSSを周回するなら必要かもしれない。ああでも、私は自動回復があるからそこまで重要ではない気もする。


 ファルキン:周回中に取得したアイテムは全てあなたに差し上げますよ


 アイテムかぁ。それにここから移動して周回できるようなBOSSってオルグリッチ以外に居ないよね。ゴフテスだと周回できるような相手ではないし。


 BOSSドロップって1人当たりの獲得量が基本的に決まっているらしいから、2人で行けば2倍取れることになるんだよね。それを考えれば悪くはない……かもしれない。


 でもオルグリッチ素材って、何に使えるだろうか? ダチョウだから羽……と皮? そう言えばダチョウの皮って現実だと高級素材だった気がする。ブランド品には興味は無いけど、あの粒粒な感じの素材がダチョウだった気がする。

 たしか皮の名称はオーストリッチ……ん? あれ、これってオルグリッチの名前の由来? 運営は最初から皮素材として使われることを想定していた? いや、今これは関係ないよね。


 とりあえず素材的にオルグリッチ素材で出来るのは、ポーチとか小物入れようのバック? いや、その前にポーチとかを作るには【裁縫】のスキルが必要だった。

 うーん。雑魚とはいえBOSS素材だし、オルグリッチの素材が沢山あっても困らないよね?


 ファルキン:あの・・・アユさん? 大丈夫ですかね? 反応がありませんが

 ア   ユ:あ、ごめ


 ちょっと考え込んでいたせいで少しの間反応していなかったからか、兄から少し心配していそうな感じの文面が送られてきた。


 ファルキン:それで、どうします?

 ア   ユ:うーん。行くならダチョウになるけど

 ファルキン:オルグリッチ? いやまあ、場所的に他に選択肢はないか

 ア   ユ:……まあ、さっき言ったみたいに素材を渡してくれるなら、一緒でも

 ファルキン:いいんですか!?

 ア   ユ:あ、うん。まあ

 ファルキン:よっしゃあ!


 ちょっと早まったかもしれない。何かもうこの後のテンションについて行けない気がする。


 ア   ユ:あ、それと追加で条件

 ファルキン:条件?

 ア   ユ:掲示板に書き込まないで

 ファルキン:さすがにしない。と言うか、あいつらにも色々言われてさっきログアウトした時に掲示板の機能一切使えないようにしてきたから

 ア   ユ:そう。ならいい


 他の人にも指摘されていたのか。まあ、使えないようになっているならいいか。


 ア   ユ:あ、それと討伐依頼受けているから、先にそっちを消化する

 ファルキン:了解! して、今どちらに?

 ア   ユ:…………ギルド


 そこはかとない不安はあるけれど、許可した手前、今更やっぱりダメとは言いづらかったため私は今いる場所を伝えた。



 そして兄は数分もしない内にギルドにまでやって来ていた。今見た感じ、フレチャから伝わってきた変な感じは伝わってこない。基本的にいつも通りの兄だ。


「さてアユ、もう出発するのか?」

「うん」

「走る速度は…まあ、俺がアユに合わせればいいか」

「じゃあ、行く」



 そうしてギルドから出発したのだけど、ステータスの差なのかRACE的な物なのか私が全力で走っているにも拘らず、兄はかなり余裕を持った表情で並走してきている。確か獣人(兎)はAGIが高いRACEだったはずだからその影響かもしれないけど、これはそれだけなのだろうか。


「何だ? そんなに見てきて。何か気になる事でも在ったのか?」

「走る速度」

「速さ? ああ、俺が思いの外早いから気になると?」

「思いの外ではないけど、そう」

「一応これでもAGIは190くらいあるからな。その差じゃないか?」


 190……確か私のAGIは140を超えていなかったはずだから、差にして50ちょっとか。うーん、50でこんなに余裕そうになる?


「ステの差だけじゃない気がする」

「ステ以外となると、アバターのサイズか? それとも……、あ。そう言えばアユは【走法】のスキルは持っているのか?」

「走法?」

「あ、無いのか。だったらそれかもな」


 【走法】? 見たことが無いから、おそらく取得可能スキル一覧にも載っていない気がする。もしかして取得するのに条件がある系のスキル?


「見たこと無い」

「ああ、【走法】は戦闘中に一定時間走ることで取得可能になるスキルだからな。条件を満たしていないのなら知らなくても変じゃないさ」

「なるほど」


 条件系か。それなら早めに条件を満たして取得しておいた方が良いかもしれない。今後満腹度が実装されれば、今までのようにずっと走り続けられるとは思えないから、それを補助するようなスキルは必要だろう。ただでさえUWWOのマップは広いから、どうあれ必須級のスキルだと思うし。


 そうして走りながら兄から情報を得つつ、討伐依頼で指定されているエネミーを倒しながら移動し、オルグリッチとの戦闘エリアがある場所に到着した。

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