第4話 毒の短剣
うーん。とりあえず、短剣の方を確認しよう。私は受付の方にこうなるかもと言っておいたし、おそらく受付の人もそれの警告なり忠告はしているはず。それを無視したり、聞く前に入ってきたりしたのなら私の責任ではない……はずだ。
とりあえず、さっさと確認しよう。
[(武器)毒の短剣 Ra:C Qu:E Du:80/80 SAS:8500]
毒属性が付いた鉄製の短剣。元は鉄のみで作られた普通の短剣だったが、錬金で合成された際に毒性を含む素材が使用されたため毒属性が追加された。この短剣による攻撃が相手の体に直接当たった場合、毒属性の元となった素材と同じ効果を発揮する。
追加効果:攻撃が相手の体に直接当たった場合、40%の確率で毒(3)の状態異常を与える。STR+18 作製者:秘匿
む。元の短剣はQu:CだったのにEまで下がっている。しかもDuも80になっているし、確率も40%。これは実質失敗……かも。Qu:EでもSASが高いから、結構難易度が高かったのかもしれない。
ナイフの方はQu:CからDになってDuは下がっていないから、一応成功と言えるはずだ。……そうであって欲しい。
あ、でも短剣の方が毒のスタック値は上だ。これは何故だろう。武器としてのサイズの違いかな? それとも偶然? 攻撃頻度の差が出たのかな? まあ、考えても比較対象が少ないからわからないか。
さて、確認したし後ろでまだ騒いでいる声の元に行こう。さすがに放置は良くないよね。周りに迷惑が掛かるかもだし。
道具や素材をインベントリにしまってから、生産施設の出入り口に向かう。
そこには兄と思われるアバターが床に倒れていた。どうやら顔を抑えているので先ほどの光を直接、もしくはかなりそれに近い状態で見てしまったのだろう。
「んお? あ、アユちゃん居たのか。と言うか、今のやつはアユちゃんがやったのかな?」
「うん。そう」
兄のパーティーメンバーの確かふとももが私に気付いて話しかけて来た。
「え!? まじ」
≪ワールドアナウンス
エリアBOSS【不動のベテュード】が、さふらん・ぐるぐるぐるるん・ミュヘロ・( ゚д゚)、ペッ・ころんビアー・他1名のパーティーによって初討伐されました≫
「お? サウリスタ側も第2エリアのBOSSが討伐されたな。これで3国家からプレイヤーがここに来るな。まあ、直ぐに来るかはわからんが」
兄が何か言おうとした瞬間にアナウンスが流れた。【不動のベテュード】って言うのは聞いたこと無いけどエンカッセの言葉からして、いつの間にかあの物量攻めが不評だったイノシシが倒されていたようだ。と言うか、何か変なNAMEがあるな。
気になったのでアナウンスのログを確認すると、どうやら先ほどアナウンスがあったらしい。タイミング的にナイフを合成していた時かな? 丁度集中している時だから気付かなかった……のだろうか? いや、でも気付かないのはおかしいような。もしかして作業中とかだと勝手にアナウンスはオフになるのかも?
「1人はイベ8位のやつだな。他は知らないが」
「え? ランキングに掠りもしないのか? ふともも、確認しているんだろ」
「少なくとも100位には入っていないな。と言うか、話すなら立ち上がれよ」
未だに立ち上がらないで、話に加わろうとした兄にふとももが注意する。さすがに床に寝そべったまま話をするのは相手に対して失礼だと思う。
「仲間が気遣ってくれない。アユ、慰めて」
「……何故?」
いや、本当に何で慰めないといけないの? 注意された原因は直ぐに立ち上がろうとしない兄の責任であって、私は関係ないと思うのだけど。
「アユにまで見捨てられた。……わかったよ、立てばいいんだろう?」
私と他のメンバーの冷めた視線を受けて兄は渋々1人で立ち上がった。
まあ、そう言うネタと言うか遊びでやっているのだろうけど、話を聞いていた感じいつもだったらジュラルミーんが乗ってくれていたみたい。ただ、今は近くに居ないみたいだから余計にうざく感じるのだと思う。
この際、兄のことは無視でも、いや、いっそさっき作ったナイフか短剣の試し切りを……と思ったけど駄目か。確か武器類はDu少しでも減っていると委託に流せなくなるのだよね。
「アナウンスの件はまあ、良いとして、アユは何していたんだ? さっきの光もだが」
「錬金で武器作っていただけ」
「武器? 錬金で作れるのか?」
ん? 普通は作れないの? いや、そんなはずは…ないはず。少なくとも委託には流れていたし、兄が知らないだけだろう。
「0からは作れないと思うけど、合成で属性付けたりは出来た。それに似たような奴なら委託に流れているし」
「え? そうなのか?」
「専用委託では見ていないな。総合の方は見ていないからわからないけど」
そう言えば専用委託、プレイヤーが作っている方は確認していなかった。もしかして錬金で武器を作ると言う発想が無いのかも。それか作っているけど直ぐ売れて見つからないとか。
「総合の方。専用は確認してない」
「総合かぁ、あんまり見ないんだよな。RaとかQuが微妙なのが多いから、プレイヤーが作った方がちょっととはいえ性能は良いんだよな」
「そうでもない。割と良いやつが在ったりする。あと参考になる奴も多い」
「あーまあ、そう言うのって使い勝手が悪いと言うか、使う当てが無かったりするんだよ。だから最初の内は確認したりしているんだけど、次第にしなくなる」
うーん。確かにそうかも。水筒とかは今の所使わないし、他のやつもそう言うのが多かった気もする。
「そう言えば何を作ったんだ?」
「ん。これ」
たぶん、見せろって言われるだろうと思っていたから、直ぐにインベントリからナイフの方を出して兄に渡した。一応、UWWOではこう言った場合に持ち逃げできないようになっている。【鑑定】は出来るけど装備は出来ないしインベントリに入れることも出来ない。たぶん、正式な取引をしない限り、武器とかのアイテムにある所有者が変わらないからだと思う。まあ、例外はあるらしいけど。
「毒のナイフか。確かに見たこと……ない、え? 毒? 微毒でなく?」
「う? どうしたファルキン」
「いや、これ追加効果が微毒じゃなくて毒なんだけど。確かまだ状態異常の毒って見つかっていないよな?」
「ちょっと見せてくれ」
「……ああ」
兄が私の顔を見て、見せて問題ないかの確認をして来たので頷いておく。別に見たからと言ってどうこうする人ではないし、問題はない。
「確かに毒の状態異常が付くようだな。ただ、発動が確率だし、STRが低いから使い勝手は微妙な気がするけど」
「試しに作ったやつだから」
「そうなのか。まあ、そうか」
「うん。使うつもりないし、これから委託に流す予定」
そもそも、熟練度上げのために作ったやつだから大して思い入れ、と言うか無くなったところで未練が生まれるような物でもない。そもそも私は【毒魔術】持っているから使う必要は無いしね。
「え? 売るのか? だったら欲しいんだけど」
「……これでいいなら売るけど? あ、短剣の方もある」
「いや、ナイフで良い。サブウェポンとして使いたいだけだからな。短剣だと大きすぎる」
「そう」
そうしてナイフは兄が買い取ってくれた。短剣の方は欲しいと他の人にも言われなかったのでそのまま専用委託の方に流した。果たして売れるのだろうか。まあ、兄たちの反応からして売れるとは思うけどね。
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