第39話 今更の討伐報告
総合ギルドについて直ぐに受付に寄った。
「お早いお帰りですね。何か問題でもありましたか?」
「あの、教えてもらった防具屋に行ったんですけど」
「もしかしてもう閉まっていましたか? それなら明日行かれればいいと思いますけど」
「あ…いえ。それは大丈夫です、ちゃんと開いていました。そうでなくて、えっとですね、その防具屋でエリアBOSSを討伐した場合はギルドの方に報告した方が良いと聞いたのですけど、本当…ですか?」
「まあ…そうですね。報告していただければ助かります。ですが基本的に討伐した証はギルドカードに自動的に記載されていきますので、特殊な場合を除いて口頭での報告はあまりしないですね。騙りとかも多いですし、ギルドカードを提示されるのが一番信頼がおけます」
確かにその方が確実か。でも私の場合ギルドカード持っていなかったし、これって特殊な場合に該当するのでは? とりあえず私のギルドカードを確認してみると、そこにはまだ討伐記録などは記載されていなかった。
これはどうしたらいいのかな。あ、そう言えば、壁と言うか関所的なところを通る時に出した通行証がインベントリに入っていたよね? それを見せれば多分報告扱いになるはず。
あそこの軍人らしき人に見せた時も信じて貰えたし。いや、完全に信じて貰えたかはわからないけどね。
そうしてインベントリを開いてみると、そこには[2-3エリア通行証]とか言うアイテムが入っていた。
あれでも、防具屋で見た時は入っていなかった気が? もしかして出そうとしない限り見つからない系のアイテムだったりしたのかな。よく見るとインベントリの枠を消費していないし、イベント系のアイテムだったのだろうか。取り敢えずそれを取り出して受付の人に提示した。
「んん? どういうことですこれ? 普通だったらギルドカードに記載されているものですよねこれ。どう…って、そういえばアユさんは今日ギルドカード作ったばかりでしたね。と言うことは、これはその前に取得したと言うこと…ですか?」
「そう、なります」
「なるほど、と言いますかこれ、この通行証と言うことは……討伐したのは岩腕のゴフテス?」
「…はい」
何か防具屋で受けたリアクションと同じ感じだ。もしかしてあのゴリラ倒すのは問題があったのだろうか。同じような戸惑った反応を繰り返されると不安になってくる。
「何か問題でも…? もしかして倒しちゃいけないやつとか」
「え、あぁいえ。そういうのじゃないので大丈夫ですよ。ただ知らないうちに邪魔で排除できなかったのがいきなり居なくなったので戸惑っているだけです。すみません。ちょっと上に報告してきます。ついでにギルドカードの更新もしておきますね」
そういって受付の人は小走りで奥へ走って行ってしまった。
えーっと、ここで待ってればいいの? それとも時間掛かる? できればどうすればいいかくらい言ってからにして欲しかった。
受付の前で数分経ったくらいで受付の人が戻って来た。ただし、もう一人見た目からして強そうな男を引き連れてだけど。
「すまない。待たせてしまったな。まあ、今日ギルドに登録したって話だから俺のことは知らないよな。ギルドに登録している以上、今後また関わるかもしれないから自己紹介をしておく。俺はギーノリスだ。ここのギルドの副マスターをしている。よろしく」
「え、あ…はい。よろしくお願いします」
いきなりギルドの副マスとかどうして出て来るんだろうか。あのゴリラの所為?
「別に緊張しなくていい。何か問題があって出て来たとかじゃない。あくまでゴフテスを倒した奴がどんな奴かを確認しに来ただけだ。いや、しかし。このなりでよく倒せたな。あいつ硬いだろ。普通だと攻撃通らないと思うんだが」
「副マス。アユさんは魔術系がメインのようですからそちらで倒したのだと思います。副マスみたいに誰もが物理特化ではないのですよ?」
何かこの副マス脳筋臭がする。まだ粘着質な感じはしないからましだけど、出来る限り関わりたくないタイプだ。
「……すまない。そうだよな。あいつ相手ならそっちの方が有効だ。ってそうでなく、岩腕のゴフテスの討伐に感謝したかったんだ。あいつを討伐するだけの戦力はあるにはあるんだが、被害がそう大きくないし、北側に行ってもあまり利益に繋がらないからってことで、討伐のタイミングが伸びに伸びていたんだ。特に今は異邦人が多く来ていて人員の多くが3国に移動してしまっているからどうにもならなくてね。そんな中で討伐してくれてもらったら感謝しかないさ」
ふむ、ゴリラの討伐作戦自体はあったと。単に費用対効果が釣り合わないから実行しなかっただけと? まあ、森の方に行っても廃墟しかなかったからゴリラを倒してまで行く必要は私も感じられないからなぁ。
「それで、討伐の報奨金だが、すまないがそれを決めていなくてな。いまから決めることになると思うんだが直ぐには無理なんだ」
まあ、実行しなかったとはいえ自分たちで討伐するつもりだったのなら決めていなくてもおかしくはないね。それに貰えるのなら直ぐじゃなくてもいいし。
「という訳で今から会議して急いで決めるから、明日の昼以降に来てくれないか?」
「わかりました。それ以降でも大丈夫…ですよね?」
「問題ない。大丈夫だ」
「なら…それいいです」
私がそう言うと副マスはすまないと言って奥に引っ込んで行った。
「すみません。手間を掛けさせて。副マスがどうしてもと言ってきかなかったもので。お預かりしていたギルドカードです。しっかり更新しておきましたよ」
受付の人からギルドカードを受け取る。確認するとしっかり2-3エリア通行証の文字が書かれていた。
このまま防具屋に戻ると9時は過ぎそうだなぁ。いや、走れば間に合うかな。間に合わなかったら間に合わなかったでいいし、あ、ついでに討伐系の依頼を受けて行こう。戻ってくるの面倒だし、間に合わなかったとしてもどのみち街の外に行く予定だから。
そうして、クリアできそうな討伐依頼を幾つか受けて、走って防具屋に向かった。
ふう、何とか間に合った。今はもうすぐ21時ってところか。
「おっ、間に合ったな。もう出来てるぞ」
どうやら外で待っていてくれたらしい店員の男に頭を下げる。近づいていくと店員は店の扉を開けて中に入るように促してきた。
「どうも」
「ギルドの方はどうなった。報奨金は出たか?」
「一応。ただ、まだ決まってない…から明日だって」
「そうなのか? まあ、ギルドの方も何度も倒すって言ってたから決めてなかったってことか」
「そんな感じ」
「まあ、その辺は俺には関係ねぇよな。っと、で、これが注文の品だ。なんかあったら今のうちに言えよ」
そう言って店員は店のカウンターの奥から箱を取り出して中から布製のアイテムを取り出した。ってカウンターの奥から取り出すってことは私が間に合わないって思っていたと言うことだよね。なんか複雑なんだけど。
とりあえず渡されたアイテムを【鑑定】してみる。
[(アクセサリー)岩陰色のコート Ra:Ep Qu:B Du:120/120 SAS:6700]
やや暗い岩色の裾の長いコート。動きを阻害しない程度に裾が長くフードが付いている。フードを被ることで日を遮ることが出来、多少ではあるが認識阻害の効果が発揮される。本来は土属性のマントだったが職人による手が加わり、さらに森影狼の毛皮が使われたことで後天的に属性が追加された珍しいコートとなった。
効果:VIT+23 斬撃耐性(微) 土属性付与(小) 影属性付与(小) 隠蔽系強化(小) フードを被った際に認識阻害(微)
「若干、元あった効果が弱くなっちまっているがどうだ?」
「大丈夫。問題ない」
問題ないどころか、かなり良い。ぶっちゃけ斬撃耐性と土属性付与は無くなっても問題はなかったし、VITは元よりも上がっている。しかも隠蔽系強化(小)は【隠蔽】を普段使いするつもりだからこれがあるだけでも十分な気もする。
「そうか。ならよかった」
「うん」
「じゃ、用も済んだしこれから店じまいするが他に用はあるか?」
「あ、こう言うの…直す…にはどうしたら?」
そういって店員に身に着けている腕輪と指輪を見せる。すると店員はそれをじっと見た後に口を開いた。
「まあ、そんな難しいのじゃないな。って直すにはってことは自分で直すのか?」
「できれば」
「そうか。嬢ちゃんのJOBは何だ? 自分で直すってことは生産系のJOBだろ?」
「錬金」
「うーむ錬金か。それならそんなに難しくはないな。腕輪の方は製錬した鉄があればできるだろう。指輪の方は難しくはないが使われている金属素材が金と銀の合金っぽいから素材と熟練度次第って感じだな」
「そう。ありがとう」
「いいさ。何かあったらまた来てくれ。どうせ、まだ防具もそろえていないようだし、必要ならここに来ればいい。安くはしてやれないが相談くらいは乗ってやるさ」
そう言って店員は直ぐに店の奥に引っ込んでしまった。最後にもう一度くらいお礼を言っておいた方がいいと思うけど奥に行っちゃったしいいよね?
そう言うことで私は防具屋を後にして、街の外へ向かった。
フィールドに出る前に街の入り口にある詰め所で、忘れかけていた身分証としてギルドカードを提示してから街の外に出る。
セントリウスの街の外は一面草原になっていた。木もぽつぽつと生えているものの数は少ないし疎らだ。
私が来たのは街を東に抜けたところだけど、北側から入った時も周りは草原だったからおそらくこの周辺は全体的に草原のフィールドと言うことだろう。
まずは依頼で受けた討伐対象モンスターを倒していこう。ついでに拾えそうなアイテムがあったら拾っていけば多少ASにはなるはずだ。
討伐の対象は、グラスシープとグラスゴートそれからグラスラビットの3種類。比較的セントリウス周辺に生息しているらしいので見つけ次第討伐と言う形になると思う。ただ、ビッグラットみたいに常設の依頼じゃないから予定数以上を倒しても依頼的には意味はない。と言っても倒せば経験値は手に入るしアイテムもドロップするだろうから出来るだけ多く倒していこうと思う。
では【感知】を使って敵を探しながら移動していこう。
おっしゃー! サーチ・アンド・デストロイだー!
ログアウトする時間に間に合うように、依頼の報告のためにギルドに戻るのに掛かる時間を確保した上で夜闇に紛れて草原のモンスターを狩ること数時間。依頼にあるモンスターも狩り終えて、それ以上に倒しアイテムも十分に拾って満足した私はセントリウスに戻って行った。
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