第20話 クマァァッ!!
放ったダークショットは10発中9発がヒットした。目に見えて大きなダメージを出したわけではないけど、十分なダメージを与えたようだ。
熊は一度に沢山の攻撃が飛んできて驚いたのか、こちらをさらに警戒したような雰囲気で睨んでくる。ある程度距離は取っているけど、明らかに怒気を含んだ視線は正直怖い。
「グオォオァアアア!!」
熊は先ほどよりも速い速度で突進して来た。それをすれすれのところで躱そうとするが、躱し損ねた左腕が思い切り弾かれた。
「痛っくはないけど、なんか力はいらなくなってる?」
躱せなかったこともそうだけど、左腕の感覚がなくなっていることに驚いて声が出てしまった。状態を確認するとどうやら部分的に大きなダメージを受けたことによる部分麻痺とか言う状態異常になっていた。
放っておけば治るようだけど、どれくらいで治るのかがわからない。毒状態みたいにスタック値がある訳ではないようで、もしかしたらHPを回復しないと治らない可能性もありそうだ。
私がそんなことを確認している間、熊は無理に加速した所為だと思うけど思いっきり川辺の岩にぶつかっていた。気絶するほどではないようだけど怯んではいるようだ。
その状態は私にとって攻撃のチャンスではあるのだけど、片腕が動かさなくなっているし、今更だけどHPが100近く削れていることに驚いていて攻撃しようという思考になっていない。
とりあえず、前に作ったポーションを飲んでおこう。50しか回復しないけどしないよりはましだよね。ポーションで回復したことによって腕の状態異常にスタック2が付いた。やっぱり、回復しなかったらずっと腕は動かないままだったかもしれない。
20秒は経ったと思うのだけど熊はまだ動きだす気配はない。ポイズンミストを発生させて減って来ていた微毒のスタックを溜める。するとそれに気づいた熊が動き出した。
もしかしたら、動かなかったのは罠だったのかもしれない。迂闊に近づいていったら不意に振り向いてガブッとやられていたのかも。
熊のHPは、あれ大分減っているな。いつの間に? あ、さっきのやつ自爆ダメージでも入っているのかも。ぶつかった時に地面もすごく揺れたし、ダメージが入っていても不思議ではないな。
熊が起き上がってすぐに攻撃を仕掛けてきた。最初と同じように突進から腕による攻撃と続いていく。それらを回避しながらダークランスを放つ。ダークランスはCTの時間は長めだけど、ダメージに対してMPの消費が少なめだから長めの戦いだと使い勝手がいい。それに単発の威力が高い分、相手も怯んでくれるし。
戦い始めてから10分くらいが経過した。熊のHPはようやく半分を切ったくらい。こっちはまだまともな被弾はないけど、じわじわHPは削られている。
このゲームはリアル志向だけど、このずっと動き続けてもほとんど疲れない仕様は本当にうれしい。動き続けられること自体がうれしいわけじゃないけど、これが無かったら私は楽しめていなかったかもしれない。
いや、戦うことが楽しいわけじゃないけど、リアルじゃ体力ないからね私は。そもそも疲れがあったらすぐにキャラメイクからやり直していたはずだから。
さっきから戦いに関係ない事ばかり考えているけどこれは熊の攻撃を躱す動きが若干作業になっているから。
この熊もちゃんとしたAIを積んでいるようだけど攻撃方法が限られている。それで私が同じような動きをし続ければ熊もそれに合わせた攻撃をしてくるので、結果同じ行動の繰り返しになるということ。
ポイズンミストで微毒状態にして継続ダメージを与え、ダークランスでダメージと少し怯ませる、の繰り返し。
おそらくこれが通じるのは今回限りだと思う。全部がそうだとは思わないけど、あの犬の話からUWWOのモンスターに積まれたAIはプレイヤーの行動を常に学習して対処するようになっているようだし。
多分この熊だけじゃなく他の熊も、この嵌め技とは言わないけど対処がワンパターンな状況は危ないということを学習し、自ら違う行動をしようと動いてくるようになるはずだ。もしかしたら、今この状況で対処してくる可能性もあるから気をつけておかないといけない。
空が明るくなってきた。早く戦いを終えないと日光によるダメージが入るようになってしまう。別に死んでしまってもいいのだけど、ここまでやって日差しのダメージで死ぬのは釈然としない。だから私が日差しのダメージで死ぬ前にこの熊を倒したいのだ。
MPの消費速度はそんなに多くない。魔術のスキルを使って攻撃しているけど、CTもあるし、まだMPの消費が大きいスキルを持っていないから自然回復も相まってようやく150を切るくらい。このままのペースで順調にいったらおそらくMPが尽きる前に熊は倒せると思う。
でも、モブモンスター扱いであろうこの熊もHPが一定以下になることで特殊行動をする可能性はある。50%の段階では特になかったけど、他のゲームをやっていた経験上、一定以上の強さを持つモブモンスターでも特殊行動を起こしやすい30%を下回る時は注意しなければならない。さっきみたいに自滅によるダメージを食らって、とかを除いてしっかり対処できるように備えておく。
熊と戦い始めてポイズンミストを多用していた結果【毒魔術】の熟練度が上がり30%になった。そして新しいスキル[パラライズミスト]を覚えた。兄に聞いた通り麻痺系のスキルを覚えることが出来たのはうれしい。
戦っている最中なので状態異常について詳しく載っているヘルプを覗くことはできないけど、スキルの説明を見る限りポイズンミストとほとんど変わらないようだ。
ただ、CTがポイズンミストに比べて倍あるので頻繁に使うことはできない。まあ、麻痺系は一度かけた後、CTが短いと嵌め殺しみたいなことが出来てしまいかねないから当たり前なんだけど。
パラライズミストで与えられる状態異常は微麻痺。そのまま微毒の麻痺版なんだろうけど、どう効くのかがわからない。無理してヘルプ見るのは、なんかさっきから熊の動きが早くなっているから無理。だから使ってみて判断する方が早いはず。
「パラライズミスト」
発生エフェクトもポイズンミストとほぼ同じ感じで、白っぽい霧が目の前に現れた。それを熊に接触させる。効果は……あんまり効いていない? スタックは8と割と大きい値を示しているけど効いている感じはしない。
いや、若干動きが鈍くなった感じ? 攻撃を避けるのか多少楽になったくらいだな。微毒と違って継続ダメージがない分、効果が目に見えて分かり辛いのは判断に困る。
ここまで効果が薄いのは何かあるかもしれない。単純にこの熊の麻痺耐性が高いだけかもしれないけど、スタックが一定以上溜まると効果が強くなるとかはありそう。ただ、パラライズミストのCTは60秒もあるので、スタックを溜めるのは難しいかもしれない。
熊の攻撃を躱しつつ、【闇魔術】のスキルを放っていく。熊のHPは少しずつだけど順調に減ってきている。
あ、日差しによるダメージが入ってきた。まだ日が昇り始めたばかりだからダメージが入ってくる間隔は20秒くらいあるけど、これで私が死ぬまでの本格的なカウントダウンが始まったことになる。
そこから、着実にダメージを与えられているけど熊のHPはまだ30%を切っていない。そろそろ切りそうだけど、一度に与えられるダメージがそれほど多くないので30%を切るタイミングが計り辛い。ダークランスを放って直ぐダークボールのチャージを開始する。
すると熊はダークランスがヒットすると同時に私から距離を取り、溜めモーションをし始めた。どうやらようやく30%を切ったようだけど、タイミングが悪い。
直ぐにチャージしていたダークボールを放つが、ダークボールの弾速はダークランスよりも遅いので溜め行動を事前にキャンセル出来るかは怪しい。
「ガァオォアアァアアアッ!!」
キャンセルは間に合わなかっ!? えっ、あ、ノックバック!? しかもダークボール顔面に当たってるのに行動キャンセルどころか怯んですらいない!?
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