第6話 リアルで兄と会話

 


「あゆ、UWWOどんな感じ? どれくらい進んだんだ」


 UWWOからログアウトして少し、夕飯を食べている時に兄がそう聞いてきた。兄もUWWOをやっているから他の人の進捗が気になるらしい。

 本当なら最初から一緒に進めていく予定だったのだけど、私がレアRACEを選んだからその予定は白紙になったのだよね。まだ兄に言っていないけど。


「悪くない。まだ初期地点」

「初期地点って、街から出ていないってことか?」

「違う」

「違うって……もしかしてレアRACEにしたのか?」

「そう」

「まじかよ。そもそもベータの時にはレアRACEなんてなかったから、アバター作っている時割と驚いたんだよなぁ。できれば事前に告知しておいてほしかった」


 どうやら兄もレアRACEについて知らなかったらしい。この分だとレアRACEを知らないままUWWOを始めた人も多そうだ。


「しかもランダム限定ってのもなぁ。俺、ランダム使って、ヒューマン、ヒューマン、獣人で全部普通のだったんだけど。確率どんなもんだよ」

「私はエンジェル(レア)、獣人で最後がレアだったけど」


 私が3回中2回レアRACEだったから、確率は高いと思っていたけどそうでもないのか。それとも兄の運が悪いだけなのか。


「エンジェルって初耳なんだけど、そんなRACEあったのか。他のは、っていうか2個目は何獣人だ」

「……確か熊」


 獣人は論外だったから、獣人って言われた瞬間にランダムボタン押したけど確か熊って言っていた気がする。


「熊? 獣人に熊はなかったはず。ということは獣人にもレアRACEがある? って、ということはあゆ、お前全部レアだったんじゃねぇかよ!」


 RACE選ぶとき獣人の特性読んだ段階で論外認定していたから詳しく見ていなかったのだけど、どうやら獣人(熊)は選べなかったらしい。兄は自分の運のなさに打ちひしがれて夕飯が載っているテーブルに突っ伏した。


「テーブルにごはん乗っているのだからそんなことしないで。それと話していないで温かいうちに食べて、2人とも」


 話してばかりで夕飯に手を付けていなかった私たちは、お母さんの指摘に返事をして夕飯を食べ進めた。




「この後あゆはどうするんだ? 直ぐUWWOにログインするのか?」


 夕飯を食べ終わって部屋に戻る前に兄が声をかけてきた。

 すでに暫くは一緒にプレイできないことは話しているので、これからどうするかを聞いておきたいのだろう。


「お風呂入ってからログイン」

「そうか。俺はさっさとログインして進めるかな。あ、そういえば結局何のRACEにしたんだ? よくわからない場所からのスタートって結構なレアだろ?」

「言わない。兄さん口軽いから」


 兄は基本おしゃべりである。かなり口が軽いとも言える。さすがに絶対に話さないでと言えば8割がた話さないでくれるが、8割である以上残念ながら確実ではない。

 過去、大した内容ではなかったとはいえ言わないでと言ったにもかかわらず話されたことは忘れない。故に、その時以降、本当に話して欲しくないことは兄に言わないことにしている。


「あー、うん。そうか」


 兄は少しばつの悪そうな顔をして言った。

 あの件はどうしようもなかったことだと今では理解しているけれど、根には持っている。


 あの件というのは過去にあるオンラインゲームで兄がとある情報を話したせいで、結果的にそのゲームを引退することになったという話。まあ、これに関しては兄が悪かったわけではないけれど、切っ掛けは兄であることに変わりはない。


「それじゃあ、さっき言ってたRACEは掲示板に書き込んで大丈夫か?」

「どこの掲示板?」

「UWWOの。いきなりレアRACEが出てきて騒ぎになったんだけど、その後、どんなのがあるのかって感じで掲示板に書き込まれてる。運営で用意している物だから変な使われ方はしないはず」

「ふーん」


 運営が用意したものだからって完全に信用できるものではないけど、掲示板なら大丈夫かな。書き込むのであれば情報は残るし、前みたいに言葉だけ伝わって、伝言ゲームみたいにありもしない情報が足されても情報元がわかれば修正も難しくない……はず。


「あ、じゃあ、称号とったから、それもついでに」

「は? 称号? もう取れたのか、早くね!?」

「良いやつじゃない。デメリットある」

「え、どういうこと?」


 私は称号(タイトル)ゾンビアタックについて兄に話した。できれば掲示板に警告の意味で書き込んでほしいと頼む。まあ、掲示板に書き込めば、面白半分で取得する人もいるだろうけど、その場合は自己責任である。


「ゾンビアタックねぇ。何でこれ取得できたのか聞きたいところだけど、まあ書き込んどく。それと証拠としてスクショ撮って送ってくれ。フレンド登録しておけばチャット通して送れるから」

「フレンド登録? UWWOで会ってないのに?」

「ああ、アカウントナンバーとアバターネームがわかればフレンド申請送れるんだよ。ついでにログインする必要もない。まあ出来るのは申請だけで、それを受けるにはログインしないといけないけどな」

「そうなんだ」


 そのあたりの機能はあまり確認していなかった。使うつもりがあまりなかったからだけど。


「ということでフレンド申請送っとくから、ログインしたら許可出してくれ」

「私の方から申請送って兄が直ぐに許可出した方が早い」

「あ-、まあ、その方が早いけど、そうするとあゆがログインしているかどうかわからんし、作業中だったらチャット貰っても気づけないかもしれないからな」

「……わかった」


 申請の許可もチャットしても気づかなかったら同じような気もするけど、兄がその方がいいというならそれでいいだろう。書き込んでもらうわけだし。


「アカウントはヘルメットの後ろに書いてあるやつで、アバターネームは何にしたんだ?」

「カタカナでアユ」

「Oh、ほぼそのままなのか」


 そんなことを言いつつ兄はフレンド申請をするために自分の部屋に向かい、しばらくして戻ってくると、申請できたから後で許可してくれ、と言って部屋に戻っていった。私はそれを確認した後にお風呂に向かい、用事を終えてから少ししてUWWOにログインした。





 ―――――

 アユが過去に引退に追い込まれた原因は、兄が話した相手が他のプレイヤーと話しているところを同じゲームをプレイしていた厄介層に聞かれたうえ目をつけられ、本来の情報に尾ひれどころか背びれまで付けられた在りもしない情報を広められたことで、変な人物が釣れてしまった結果であり、兄は最初に話した以外かかわっていません。

 とはいえ兄が話さなければ起きなかったことなので、結構兄は気にしているし、無茶苦茶反省している。

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