不思議な荷物④
14時過ぎには送馬のアパートへと帰ってきていた。 単純な疲労に精神的な疲労が加わりすっかり疲れ果てているのを感じていた。
ドアを開けると見える大量の箱に死体が詰まっているのかもしれないと思うと身震いしそうになる。 弟の送馬がそれを知らないのが唯一の救いだ。
「はぁ、重ッ・・・」
送馬はドサリと荷物を置いた。 孝行はその横に丁寧に箱を置く。
「お疲れ様。 配達の人って何時に来るのか分かるか?」
「どうだろう? 学校から帰った時には既に届いているかな。 16時過ぎとか?」
「そうか・・・」
適当に昼食を済ませ孝行は玄関へと向かった。 置き配されるため、家の中にいれば知らない間に終わってしまうことになる。
「もう外へ出るの?」
「あぁ、表へ出てる。 見逃すわけにはいかないからな。 あとさ」
「・・・うん、何?」
孝行は視線だけで荷物を見る。 自分が開けたものを特に容認するように。
「その大量の荷物、開けんなよ」
「え、どうして?」
「どうしても」
「・・・?」
「何かあったら呼んでくれ」
孝行は外へと出ると、アパートの階段に腰を下ろす。 ここからなら配達のバイクの音だけではなく、目視で来たことも分かるからだ。 おそらく配達員は毎回同じ人間だと予想していた。
―――どうしてあんなものを送るのか問い詰めてやる。
―――住所が違うと分かっておきながら、ここへ届けるなんてわざとしか考えられないからな。
しばらく待っているとアパートの前に一人の配達員が現れた。 特に見た目からはおかしな点を感じられない普通の配達員だ。
―――あの人か?
素早く立ち上がると配達員の前に立つ。
「あ、ここの方ですか? 荷物を届けに来ました」
「貴方がここへ毎日荷物を運んでいる方ですか?」
「あ、はい、そうですけど」
「その荷物、どうしてここへ届けるんですか? 嫌がらせですか?」
「え?」
「この荷物の宛先はここではないですよね!?」
そう言って貼ってある住所を指差した。
「あー、それは『配送先の変更を受けて、ここへ届けてほしい』という依頼をいただいたからです」
「はい?」
「新たに指定された住所がここだった、というわけです」
「・・・一体誰に配送先の変更を言われたんですか?」
「それは僕も分かりませんよ。 配送先の変更に本人確認は必要ないですから」
「・・・」
「ちょっと待ってください。 電話番号はあるのでかけてみます」
そう言いながら配達員は電話をかけ始める。 だが、何度かかけても会話は始まらず首を傾げていた。
「・・・この番号にはかかりませんね。 デタラメなのか間違いなのか分かりませんが」
「結局何も分からず、か・・・」
またもや手がかりを失ってしまったと思った時、配達員が妙なことを口にした。
「僕はただのバイトなんだけど、今までここへ届けた荷物って全て違う郵便局からもらっているらしいですよ。 それを先輩たちも少し気味悪がっていて・・・。
だけど仕事だから気にしないようにって言われちゃって。 はは、不思議ですよね」
「ちょっと箱をください」
一応箱の中身を確認してみた。 中には右の手首から先が入っていた。 予想はしていたため驚きはしないが、やはり気持ちは悪い。
―――手首か・・・。
―――もしかしてさっきの人のものか?
―――こんなものをここへ送る意味が分からない。
「あの、何が入っているんですか?」
そういって覗き込もうとしてきたのを、孝行は手で制した。 どうやらこの配達員は仕事よりも好奇心が勝ってしまうタイプなのかもしれない。
「・・・あー、いえ、大丈夫です。 今日もご苦労様でした」
孝行は足早にアパートの中へと入った。
―――きっと全ての荷物は同じ人が送っているんだよな・・・。
―――一体誰が?
しかし、その時だった。 鼻っ柱を曲げる程のおぞましい臭いが奥から漂っている。 それが意味することは一つしかない。
―――うッ、この匂いは・・・。
―――ッ、まさか!
鼻をつまみながら急いで送馬のもとへと駆け寄った。
「送馬! ・・・送馬?」
荷物の箱は全て開いていた。 送馬に見られてしまったという気持ちもあったが、それは送馬が何故か泣いていたことにより打ち消された。
「・・・兄さん、ごめん。 本当は僕、兄さんを利用しようとしていたんだ」
「・・・は?」
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