百合の花 ー22ー

A(依已)

第1話

 老人はわたしを見るなり、いったい何を思ったのか、突然こちらへ近寄ってきた。

 わたしは、身構えた。交番にでも、連れて行かれるのだろうか?

 老人は、わたしの感情などどうでもいいとでもいうのか、わたしにそのしわくちゃな顔を、グッと寄せた。そして、わたしの目の奥を、ジッと見つめた。

"わっ、なに?ちょっと、近い近い"

 老人は、何かを感じとったのか、わたしの手を強引にとり、キリスト像の前へと連れていき、ひざまずかせた。

 そして、クロスを握りしめながら、手にした羽を左右にわさわさと大きく振り、呪文のようなものを、唱えはじめた。わたしは、何が起こっているのかサッパリわからず、されるがままなのである。

 ひとしきり祈祷が終わると、今度はわたしの頭を下げさせ、頭の上に手をかざした。

 老人は、直接わたしの頭に触れていないというのに、強烈な熱を感じた。気のようなものを、飛ばしているようだ。

 わたしは、頭の中が、みるみるスッキリとしていき、浄化されているのを、ひしひしと体感した。

 ポロポロと、自然に涙が溢れ落ちた。

 わたしの肩に、老人が両手を置いた。肩からスッと力が抜けていった。わたしはすっかり、生まれ変わった気がした。

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百合の花 ー22ー A(依已) @yuka-aei

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