第13話

 そう言い終わると同時に、てのひらの上の物体を、水筒の水と共に嚥下えんげした。彼女の持つ、エメラルドグリーンの瞳が、今は緑青ろくしょうの様に混濁こんだくしてきている。

 

 「・・・ぅぐぐぐう・・・何度やっても慣れないわね、これは・・・。」


 暗黒な怒りに身を任せた、アイバァの全身に樹木の枝葉の紋様もんようが心臓を起点として全身に駆け巡っていく。


 それと同時に、瞬時に彼女は立ち上がり、両腕と両剣を大鷲おおわしの様に拡張させ、こう叫んだ。


 「私の武技は女が悪戯いたずらでやってる代物では無いぞ!!!この場で要殺ようさつされたい者は立ち向かって来い!!!」


 彼女はいつもの金切かなきり声よりも、1オクターブ以上低い、伝法でんぽうな怒声を張り上げた。


どうに入っており、何度も修羅場をくぐってきた者だけが持つ、威厳であろう、気炎万丈きえんばんじょうの気迫が彼女の頭上、9フィート(約3メートル)程に達したかと、周囲の微生物まで錯覚したろう。


 「・・・・・・・。」


まるで、粉雪が舞う真夜中のような沈黙が継続する。

 

 継続する、と表現したのは喉がカラカラに、成る様な瞬間、瞬間がコマ送りの様にその場に居合わせた一同が固唾かたずを飲んで、過緊張、過覚醒状態になっているからだ。


三秒・・・。


五秒・・・。 


十秒・・・。


十五秒ほど経過したころ、寄せ手から、その無間地獄むげんじごくのような静寂は終わりを告げた。      


「・・・仕方無い。今日の所は勘弁してやる。ただ、次に会った時は覚えておけよ!」


灌木かんぼくの陰からアイバァのそばだてている耳に届いた。


 「アンタ、本当に莫迦ばかね・・・。自分の姿を見せても居ないのに、覚えら れるワケないじゃない!」

 

相変わらずこの女戦士は口が減らないようだ。

しかし、特徴的なこの塩辛声しおがらごえが内耳まで、染み渡って居る事を再確認してからのあてこすりである事がこの、アイロニー好きの騎士の非凡さを示しているのだが、仲間の、二人の異性は感じている余裕が無いだろう。


 「おのれ・・・!」


果然かぜんの反応であろう。


 「おい、やめろ!ここは撤退だと言った筈だ!」


 もう一段大きい馬鹿声が周囲にき散らされ、舌打ちの音が木霊こだました後、50フィート(約15メートル強)四方を支配していた殺気も撤退していった。

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