第12話 解決
「サエさんを見て、私には分かりました。島崎先生に似ているんですよ、なんとなく」
「私も、それは感じた。どこかで見たことのある顔だな、と。しかし、似ていることが、夫婦であることと、どうつながるんだ?」
込み上げる笑いが我慢しきれなくなったらしく、総司はおなかをかかえて笑い出した。
「えーっ? 全然、気がついていなかったんですか。一時期、『水原は島崎先生を好いているようだ』って噂になったのに。かわいそうだなあ」
「は。私のこと、を? 水原が?」
「サエさんの面影を、島崎先生に重ねていたのでしょうねえ。かわいそうに、かわいそうに」
「私を『好き』ではなく、サエさんは『憧れ』だと言っていたではないか」
「憧れ、ねえ。まあ、そういうことにしておきましょうか」
稽古稽古、隊務隊務の自分を、水原は見てくれていた? にわかには信じられない。全然気がつかなかった!
というか水原、サエに似ていたとはいえ、男姿の自分に思いを寄せていたのか? 先ほどの態度からして、正体がばれていたとは考えづらい。
「あの様子だと、水原の兄さまの子っていうのも、アヤシイですよ。脱走してまでサエさんを支えようとしたぐらいです。子の父親は、もしかして……」
総司の含み笑いなんて、初めて見たかもしれない。ずっと、弟のようなものだと思っていたのに。
「なんだって。じゃあ、水原……の?」
「ほんとうのことは分かりません。この世には、知らないほうがいいこともあります。土方さんには、『水原に遭遇できなかった』という報告でいいですよね。山崎さんとも擦り合わせ済です。今日一日、温泉を味わって、じゃない宿の騒ぎを見守って、明朝に出立でいいですね。さて、食事を出してもらいましょうか。声をかけてきます。島崎先生は着替えておいてくださいよ、じゃなかった『おサク』、でしたか」
知ったようなことを言い放って、総司は部屋を出て行った。
参った。
恋の道に、興味も関心もまるでないような総司に教わるなんて。しかも、今後の次善策も練っていた。弟分の成長がうれしいような、さびしいような。でも、いちばん強い思いはほかにある。
「くやしい!」というものだった。
京に戻ったら、稽古で打ちまくってやる。そもそも、密命が終わったら、ずたずたにしてやるつもりだった。覚悟しろよ、総司!
遅めの朝餉をいただきながら、さくらは考えた。
あれ、もしかして歳三も最初から気がついていた可能性は、ないよな?
この仕事に、さくらを選んだ理由は、はなっから水原のためだった、というものだったら、歳三も打ち据えてやらないと我慢ならない。あやつ、最近は副長職を理由にして稽古に来ないし、ちょうどいい。屯所に戻ったら久しぶりに試合を挑んでやる。否は言わせない。
総司、歳三、そして山崎。知らなかったのは、さくらだけだったかもしれない。少し腹立たしいけれど、水原のことを思うと胸に安堵が広がった。
さくらは、ごはんをお代わりする。さあ、力をつけて、隊務に励もう。(了)
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