第6話 対話①
「えー、そんなことになったんですか! さすがおサク」
入れ替わるようにして、さくらと総司は入浴を済ませ、若女将の話をした。はからずも、夫婦設定が生きてきている。
「お前、ボロを出すなよ」
「おサクこそ『総司』なんて、いつもの調子で気安く呼ばないでくださいよ。『お前さん』なんてのは、商家っぽくないですか」
楽しんでいる。こいつ、設定を楽しんでいる……!
「年下の夫なら、呼び捨てでも構わないだろうが。宿帳にはなんて書いたんだ。その名前で呼ばせてもらう」
「『武州多摩、島崎総司。島崎サク』ですよ」
なんのひねりもなかった。愚問だった。尋ねた自分が、バカバカしくなった。
頭をかかえていると、総司が立ち上がった。
「それより、悠長にしていていいんですか。若女将、逃げやしませんかね」
「逃げる? なぜ」
「水原を匿っているならば、我々の正体に感づいたはずです。武州出身の、商人っぽくない夫婦。すぐに連絡を取るか、共に逃げるかもしれません」
「いや、あの人は逃げない。逃げられない」
「どうして断言できますか。水原ゆかりの方ですよ。いったんは縁が切れたとはいえ、元旦那の弟を追っ手にはおいそれと渡さないでしょう」
「あのおなかでは、逃げられない。たとえ逃げても、どうしようもない。生むのは大変だ。育てるのはもっと。だから、若女将が動くならば、今ではない。生まれて、体力が回復してからだ」
「……女の勘ってやつですか、やだなあ。そういうのって面倒」
若女将は、約束通り、さくらの読み通り、楓の間に姿を見せた。
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