第136話 再会

あたし達はギルマスター、アレクセイさんの話を聞いた後、とりあえずはということで宿をとった。ハンターとしてそれなりに稼いできたので、最高級とは言わないけれど、この世界ではそこそこに良い宿をギルドで紹介してもらった。


「それで、どうします?」

「どうしようかね」


マルティナさんと瑶さんが話しているのはアレクセイさんからの依頼について。あたしとしても判断に困るのよね。


「アンデッドの発生状況の調査ですよね。アレクセイさんにあたし達の情報ってさすがに入ってないですよね」

「おそらく情報は入ってないと思います。ただ、5級ハンター3人のパーティーというのはさすがに多くないので、対応力に期待されているというところでしょう。非実体系のアンデッドの討伐は期待していなくても、実体系のアンデッドならある程度斃せて、非実体系のアンデッドが出てきても離脱くらいは出来ると思われているんじゃないでしょうか」

「で、離脱してくれれば情報は入るということか」

「期限は10日間でしたよね。これは、どうとればいいんでしょう?」

「10日で原因を探れという意味か、それとも10日で分かる範囲で構わないという意味か。まあ状況を考えれば後者だろうけど、まあこれは確認すればいいことではある」

「あ、ひょっとすると10日後に何かあってそこまでに分かる情報だけでも欲しいってこともあるんじゃないですか?」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。まあ、そこはさっきも言ったけど受ける方向になった時に確認でいいと思うよ」




そんな簡単な打合せの後、あたし達は宿の食堂に移動した。


「夕食3人分頼む」

「はい。本日はボア肉のシチューと香草サラダそれにガーリックトースト。それにお好みのお飲み物をお選びいただけます。お飲み物はいかがいたしますか?」

「飲み物はなにがありますか?」

「お酒でしたらワイン、エール、ミード、シードル。お酒が苦手な方にはラルクかケレスの果実水があります」

「私はワインをもらおうか」

「あたしは、ミード……。いえ、やっぱりケレスの果実水にします」


お酒を頼もうとしたら瑶さんに睨まれちゃった。ケレスは地球のオレンジに似た果物で結構好きなのよね。でも、たまにはお酒も試させてほしいな。一口でいいんだけどなあ。

そんなことをあたしが考えている間にマルティナさんはシードルを頼んでいる。


「はい、承りました。少々お待ちください」


注文を済ませたあたし達が椅子に体を預けくつろぎ始めたところに声が掛かった。


「あれ。ひょっとして瑶様じゃないですか?」


あたし達が振り向いた先には、この世界に来て初めて交流を持った商人のミーガンさんがいた。


「ミーガンさん。お久しぶりです。奇遇ですね」

「えと、お嬢さんはどなたでしょうか。どこかでお見かけしたような気はするのですが」


あたしが声を掛けると、ミーガンさんは何か変な顔をしてる。


「瑶さんの事は分かって、あたしの事は分からないってちょっと冷たすぎるのではないですか?」


ミーガンさんの目が泳ぎ、何かを考えているようね。


「まさかと思いますが、朝未様、ですか?」


しばらく考えたあとに、ミーガンさんはおそるおそるあたしの名前を口にした。


「やっと思い出してくれたんですね。あたしそんなに印象薄いですか?」

「いえ、そのエルリックでお会いしていた頃はもっと、その……」

「もっと、なんですか?」

「その、1年も経たないのに随分と成長されて見違えました。もう、大人の女性ですね」


ふむ、ミーガンさんから見てもあたしってわからないくらいに成長したってことね。


「ね、ミーガンさんから見て、今のあたしっていくつくらいに見えます?それと初めて会った時のあたしはいくつ位にみえてました?」


ちょっと気になって聞いてみた。


「そうですね。今の朝未様は、20歳くらいに見えます。初めてお会いした時には、正直なところ10歳そこそこに見えたものなのですが……。これが、高位ハンターが最も良い年代の身体になっていくというあれですか。そういえば瑶様も若返られているようですね」


あ、瑶さんがちょっと驚いた顔してるわね。


「瑶さん、自分では気づいてなかったんですか?」

「力がついたなとか、引き締まってきたなとは思ったけどね。鏡で自分を見る機会も無いしね」


そういえばあたしは、背が伸びたり胸がって以外は気付かずに言われて気付いた面もあったわね。

そこでふっと気付いた。マルティナさんは、初めて会った時と変わらないけど、どうなのかしら。


「でもマルティナさんは、初めて会った時と変わらない感じですね」

「わたしの場合は、もともとの年齢が27歳ですので、変わったとしてもあまりわからないのだと思います。それにアサミ様やヨウ様のように特別に強くなったわけではありませんし」

「マルティナさんは、十分に強いと思いますけど。そっか27歳くらいからだと確かに見た目はほとんど変わらないんですね」


年齢の話は微妙に気まずいわね。


「それはそうと、ミーガンさんはどうしてここに?」

「ヨウ様、何をおっしゃいますか。わたしは商人ですよ。商売で旅をしているのです。今回もトランへ向かうところです。いつもと変わりません。ただ……」

「ただ、ここからの護衛が見つからずに足止め、ですか?」

「そうなんです。そして困っているところにあなた方と再会できました。これは天啓といえるんではないでしょうか。そこで、あなた方にトランまでの護衛を依頼したいと思うのですが、いかがでしょうか?」

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