召喚の影響?

第135話 通商ルートの不安

あたし達は、ベルカツベ王国とトランルーノ聖王国の国境近くの街サカブスに来ている。クリフでかなりの資金を確保できたこともあって、トランルーノ聖王国について少し情報収集をしようということになってのよね。


「とりあえず、ハンターギルドに挨拶だけはしておこうか」


と言う訳で、移動先で恒例というほどではないけど、一応ハンターギルドに向かう。


ハンターギルドの入り口をくぐると、時間的に空いていると思っていたのに割と人が多いわね。あら?でもハンターじゃない感じね。


「ね、瑶さん。人が多いけど、ハンター以外の人ばかりな感じしませんか?」

「そうだね。依頼人がこんなに多いって事なのかな」

「挨拶のついでに確認されればよろしいかと」


マルティナさんの指摘に、確かにその通りと、あたし達は比較的空いているベテラン風の女の人の列に並んだ。


「次の方どうぞ。あら、初めて見る顔ですね。今日は依頼ですか?」


しばらく雑談をしながら待っていると、あたし達の順番が回ってきた。あたし達は、ハンター証を受付嬢さんに見せる。


「ハンターパーティー暁影のそらです。しばらくこちらで活動しようと思うので。今日は挨拶に来た」

「え、5級!?。3人とも」


受付嬢さんが思わず上げた叫び声に周囲がざわつきだしたわね。5級ハンターは確かに多くはないけど、そこまで少ないわけじゃないと思うのだけど。


「あ、し、失礼しました。ハンターギルド、サカブス支部へようこそ。こちらで活動していただけるということは、拠点をこちらに?

「いや、そこまでではない。まあ、見分を広げるのと、経験を積むのが目的といえば目的か。まあ、半分は休暇みたいなものだと思ってくれ」

「き、休暇ですか。では依頼を受けていただけたりは……」

「ん?ああ、もちろん、良さそうな依頼があれば受けるのはやぶさかでないが」


瑶さんの言葉にひとつひとつに受付嬢さんが前のめりね。瑶さんが引いてるわ。あたしもちょっと、なので瑶さんの後ろに隠れさせてもらうことにした。


「是非是非お願いします。今、サカブスは人手不足で困っているんです」

「それで、この状態なわけか。事情を教えてくれるかな」

「は、はい。レオノール、ちょっとしばらくここ代わって」

「あ、はい。わかりました。では次のかた……」


「では、暁影のそらのみなさんはこちらにどうぞ」


レオノールと呼ばれた少女が受付につくと、あたし達は受付の奥の部屋に案内された。なんかあたし達ってこのパターン多いわね。

となると次の展開は……。


「少々、こちらでお待ちください」


受付嬢さん、あたし達をほったらかしで出て行っちゃったわね。

特に何もない部屋で待つのは退屈。でも、ほんの数分で戻ってきた。


「お待たせいたしました。こちらハンターギルド、サカブス支部のギルドマスター、アレクセイ・ヒョードル。わたしは、受付兼サブマスターのエレーナです。アレクセイ、こちらの3人は先ほど説明したように5級ハンターパーティー暁影のそらのメンバーです」

「はじめまして。暁影のそらの瑶と言います」

「はじめまして。あたしは朝未です」

「わたしは、はじめましてでは無いが覚えているだろうか。マルティナだ」

「ああマルティナ。覚えているぞ。あの時はまだ6級だったか。無事でなによりだ」


そんな挨拶の合間にエレーナさんはお茶を入れてきてくれた。仕事が早いわね。


「ギルマス、旧交を温めるのは良いですが、先に本題を」

「おっと、そうだったな。エレーナからはサカブス支部が人手不足というところまで話したと聞いているが間違いないか?それ以上はないな」


エレーナさんが方向習性をしたアレクセイさんの言葉にあたし達は頷いた。


「単に人手不足とだけですね。その理由と対応依頼の説明がいただけると思っています」

「わかった。その認識で構わない。っと、立たせたままだったな。すまない、座ってくれ」



「で、わざわざ私達を別室に呼んでまでの説明ってのは?」

「まあ、あわてるな。順番に話してやる」


そう言うとアレクセイさんはお茶で口を湿らせ話をつづけた。あたし達も合わせてお茶をいただく。


「まず、人手不足の直接の原因なんだが、これは単純に依頼が多い。ただ、その依頼が護衛依頼だってのが問題でな」

「ちょっと待ってください。護衛依頼って普通はハンターでなく傭兵の仕事じゃないですか?」


思わずあたしはアレクセイさんの言葉を遮ってしまった。


「ま、普通はな。だが、例外があるのは知ってるだろう」


それは知ってる。あたし達もそれでマルタさんの護衛をしたのだから。


「でも、ここから魔物の領域を通ってどこかに行くってのはそれほど多いとは思えないんですけど」

「そうだな、そもそもそんな需要が多いならそれなりのハンターがいるか、そもそもそんな場所が通商ルートになるわけがない。が、実際に現状そうなっている」

「まさか?」

「その、まさかさ。ここはベルカツベ王国からトランルーノ聖王国の聖都トランに向かうメインルートなんだが、最近商隊が魔物の被害を受けるようになってきたんだ。それで魔物相手ならハンターってことでこんな状況ってことだ」


普段と違う需要でハンターが駆り出されているってことね。と、あたしが納得したところで瑶さんが口をひらいた。


「それだけじゃないでしょう。それだったらわたし達をわざわざこの部屋に呼ぶ必要はない」


瑶さんとアレクセイさんがまるで睨みあうように視線をぶつけている。あ、アレクセイさんが折れた。


「はあ。そういうことだ。実は魔物に襲われ壊滅した商隊の生き残りハンターがいるんだが、そいつが言うにはアンデッドの群れが商隊を襲ったんだそうだ」

「ふむ、そのルートってのはアンデッドのでるような地域を通るのか?」

「そんなわけがないだろう、アンデッドのでるような場所の近くを商隊が通りたがるもんかよ。ここ最近、そうだなはっきりしたのは3カ月ほど前だが、おそらくは最初の被害は半年ほど前。アンデッドが出るようになったのはこの1年以内ってとこだろう」


「事情はなんとなく察したが、魔物とはいえアンデッドとなると本来ハンターの領分というより、神官とかの出番じゃないのか?ゾンビやスケルトンならともかくシャドウやレイスなんかでたら普通のハンターにはどうにもならならないだろう。ましてやルートとしてはトランルーノ聖王国は聖王国ってくらい神殿の力が強いんだろう?」


「まあ、俺達ハンターからすればその通りなんだがな、トランルーノ聖王国でも何やら事情があるようでな、神官の派遣が遅れてるようなんだ。またトランルーノ聖王国が、なにかやらかしたってのがもっぱらの噂だ」

「やらかすってまさか神殿がアンデッドを作り出すわけじゃないだろうに。さすがにそこは誤解じゃないか?」


「普通に考えればそうなんだがな。地にあって邪な魔力を抑えてくれている聖なる魔力を無理やりに何かに使ったんじゃないかって言われている」

「何かってのは……」

「まあ、噂くらいは聞いているか。勇者召還が原因じゃないかってな。ま本当のところは、それこそ神のみぞ知るってやつではあるんだが、噂ではそうなってる」


あたし達は揃ってため息をついた。

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